強襲④
氷漬けの<フロンティア号>。
啓作たちは姿勢制御ノズルを噴射して氷を溶かそうと試みたが、ノズル周囲の解凍しかできなかった。
「くっそー」
「カーゴの扉は開くか?」啓作がマーチンに尋ねる。
「ああ。カーゴから脱出するつもりか?」
「よし」啓作が意を決して命令する。
「“反重力ミサイル”発射用意!」
「そ、そんなん使ったら・・」
「重力が逆転する・・」ヨキとピンニョが怯える。
「形勢を逆転するにはこれしかない。氷から脱出後は“重力遮断シールド”で中和する」啓作の決意は変わらない。
「い、1分しか使えねえぞ」
マーチンが喋ったその時、上空の艦隊がビーム・ミサイルを一斉発射。
「!」
「やれ!」啓作が命令。
マーチンがスイッチを押す。
カーゴルームが開く。<フロンティア号>の1/3程もある大型ミサイルが格納されている。安全装置が解かれる。落下。ノズル噴射。
ミサイルは<フロンティア号>から離れていく。
そのわずか数秒後、眩い光を放って爆発する。
光が広がって・・・
氷が崩れ空に浮かび上がる。重力が反転した。
反重力だけでなく、周りから空気が流れ込み上昇気流が起こる。
水が、木々が、パワードスーツが、艦隊が、全てが上へ吹き飛んでいく。
<フロンティア号>も例外ではない。氷の牢から脱出する。
「よし。重力遮断シールド展開!」
唯一使える第3エンジンを噴射。反重力の嵐の中、ぐんぐん上昇する。
パラドックス艦隊は衝突しながら飛ばされて行く。幾つかの艦艇は爆発。
反重力ミサイルは反重力場を発生させる武器だ。重力下で使えば、重力が逆転して反重力になる。空が地面に変わる。
60秒後。反重力の光が突如消える。再び重力が支配する。
落下していく氷、水、木々そして艦隊。
重力を遮断するバリアーで守られた<フロンティア号>はそれらを避けながら上昇。
艦隊は態勢を立て直そうとするが、間に合わず地面に叩きつけられる。
爆発。
無数の閃光が星の地表で輝いた。
<フロンティア号>は大気圏外へ・・・
美理を乗せた旗艦はいち早く星を離れていて難を逃れていたが、パラドックス艦隊は大打撃を受けていた。そのため追撃はなかった。
夢を見ていた。
月がきれいな夜の砂浜だった。
「・・・どうしても行くの?」
明はうなずく。
麻美子はうつむいていた顔を上げ、明を見る。
「・・じゃあ、約束して・・」目が潤んでいた。
「・・死なないで。必ず帰って来て」
ごめん。約束、守れなかった・・・
明が目覚めたのは<フロンティア号>の医務室だった。
反重力ミサイルの有効範囲は数百キロ。明のいた星の反対側にほとんど影響は無かった。
明を収容、メインエンジンを応急修理し、ワープで<パラドックス>の追跡を振り切った。
明は重傷であり、啓作による緊急手術が行われた。
今はナノマシンによる傷の修復中。首より下は特殊溶液に浸かっており(裸ではない)、医療用コンピューター“J“が管理している(ちなみに全身が溶液に浸かっていても呼吸できる)。
次第に意識がはっきりして来る。啓作が傍に立っていた。
「・・・」
無言だが全て分かった。敗北したのだ。
「エスパーを想定出来なかった俺のミスだ。すまない」
「・・守れなかった・・・すまん」明の目から涙があふれる。
「ボッケン達に知らせて来るよ」
「啓作」部屋を出ようとするのを呼び止める。
「俺、思い出したよ・・全部!」