強襲③
「!」
小型艇に<フロンティア号>から緊急通信が入る。
高出力で発信されたため届いたようだ。内容は敵の妨害で確認できないが、非常事態に違いない。
「離陸する」
いつの間にか雲が出て、月が二つとも隠れていた。辺りは真っ暗だ。
「!!」
突如明と美理の前にデコラスは現れた。
小型艇には<フロンティア号>と違い、エスパーによる攻撃を防ぐ“対ESPシールド”が無い。テレパシーで存在を探知されたのだ。
明は小型艇の機銃を発射。暗闇のジャングルに銃声が轟く。
命中・・する前にデコラスは消えていた。どこへ?
危険を感じ、明は美理を抱いて脱出する。
次の瞬間、キャノピーが粉々に吹っ飛ぶ。そして爆発。
ふたりが着地する。
闇の中、轟々と燃え上がる小型艇。立ち塞がるデコラスの姿が不気味に浮かび上がる。
明は美理を後ろに下がらせ銃を撃つ。
パラライザーの赤いビームはバリアーに阻まれる。
「エスパーか!」
デコラスは右手をかざす。 光。
バシッツ!
明が衝撃波で吹っ飛ぶ。
ジャングルがクッションになる。それでもかなりの衝撃だ。
「ふん。」
デコラスはゆっくりと美理へ近づく。
明は銃を構え直し、撃つ。
やはりバリアーに阻まれ効果なし。銃のパワーを上げる。
デコラスは明を睨む。その目が光る。
明は飛び退き、衝撃波を避ける。当たった巨木が倒れる。
反撃!これまでと違い銃の反動が強い。パワードスーツの装甲も貫くフルパワーだ。
デコラスはバリアーを張るが、衝撃でよろめく。
明は走りながらデコラスの攻撃を避け、発砲する。一発二発三発・・。
全て同じ一点に命中。
バリアーが破られる事はなかったが、衝撃でデコラスは膝をつく。
「くっ・・大した腕だ。だが・・見よ。」
ホログラフ投影。氷漬けのフロンティア号が映し出される。
「!!」
「仲間を助けたくはないのか?」
悲壮な表情の美理。
「わたしは・・」
「ダメだ!」明の声。
美理はその声の方を見る。
「・・・助けるつもりなど無いくせに!」
明は顔を上げ、デコラスを睨む。怒りで震えている。
「あいつらなら自力で脱出する」
明は銃をデコラスに向ける。
その銃口の先、デコラスが微笑む。
「!」
危険を察知した明は素早くその場を飛び退く。
間一髪。巨大な岩が明のいた場所に落下。
「当たりい。」デコラスが笑う。「よく避けたな。だが、こいつはどうかな?」
「!」
明はその異変に気付いた。
揺らめく炎に映し出されたのは、無数の影。
砂粒からソフトボール大まで、様々の大きさの石がデコラスの周囲に浮かんでいた。
「脱出など出来ぬ。貴様らも仲間達も。」
石が一斉に飛ぶ。それらは散弾銃のようにふたりを襲った。
スペーススーツは宇宙ゴミ(デブリ)の直撃にも耐えられる。だが美理は普通の服だ。
明はデコラスに背を向け、美理を抱きしめる。背を丸め、頭部の被弾を減らす。
「あ・・」
少女は抱きすくめられ驚く。だがすぐに守られたことを悟った。
明の背中に無数の弾が当たる。
衝撃に耐える。弾が当たった頭部から血が流れる。
弾丸が止んだ瞬間、明は振り向き、反撃。フルパワーで銃を撃つ。
・・ビームは空中で止まる。先程のバリアーではない、サイコキネシス。
「お返ししよう。」
ビームが反転、明の方へ。
避ければ美理に当たる。明は銃を離す。
ビームは銃身に。銃が爆発。明は吹っ飛び倒れる。
「きゃあ!」美理の悲鳴。
明は立ち上がる。
防弾に優れるスペーススーツの腹部が裂け、大量の血が流れ落ちる。頭を守った両腕も負傷している。それでもデコラスを睨む。
「ふん。」
容赦ない衝撃波攻撃が明を襲う。
ビシッ!裂けたスペーススーツの防弾効果は落ちている。衝撃波がモロに体を直撃。
明は倒れる。口から血を吐く。肋骨が折れ、左腕の感覚がない。
明は立ち上がる。右手で剣を抜く。ビームブレード・光線剣だ。
ドシュ!再び衝撃波を浴び、なす術も無く打ちのめされる。
「もう・・やめて」美理は泣きながら呟いていた。
それでもなお明は立ち上がる。もはや気力だけで立っていた。
デコラスはまた無数の石を宙に浮かべていた。
「死ね。」明を指差す。
無数の石が一斉に明の方へ。
「だめっ!」
美理は明をかばい、その前に立つ。
考える前に体が動いていた。弾丸が当たればただでは済まない。
・・何も・・起こらない。
恐る恐る目を開ける。
石は目の前で止まっていた。 一瞬の後、それらは地面に落ちる。
美理の膝がガクガクと震え出す。でも言わなくちゃ。精一杯の声を絞り出す。
「やめて!目的は私でしょ?私は投降します。でもみんなを殺すなら自害します」
「だ、だめだ!」
バチッ!明は叫ぶ間もなく衝撃波で吹っ飛ぶ。
倒れて・・もう動かない。
美理に自殺する気は毛頭ない。命の大切さは兄から父母から教わっている。だが自分にできる事はこれしかない。彼女なりの命懸けの駆け引き。もちろんデコラスに通用する保証は無い。
「“聖なる血”をもらえば用は済むのだが、本体があった方がいいか・・取引に応じよう。」
美理は明の元に駆け寄り、膝枕する。ハンカチでそっと額の血をふく。
「ありがとう。もう十分です・・・ごめんなさい」
明の頬に美理の涙が落ちる。
「麻美子・・」明が呟く。
「?」
明はそのまま意識を失う。
焦る美理の腕をデコラスが掴む。
「お前は出生の事を何も知らないのか?」
「え?」
テレポート。二人が消える。
支えを失い、明の頭は地面に落ちる。
その顔に水滴が。一滴・二滴三滴・・・。
雨が明の体を濡らしていく。血が流れる。
雨は小型艇の炎を消し、辺りは闇と化す。
デコラスは美理を連れ、旗艦艦橋に現れる。
「撤収する。」
上昇していく旗艦。残りの艦は待機したままだ。
デコラスが命令する。
「跡形もなく消滅させろ!」
「うそつきっ!」
美理の叫びが艦橋に響いた。