強襲②
第6惑星の反対側、夕闇迫るジャングルの中。
自然のものではなく惑星改造で人工的に造られた植物群である。改造途中で放棄されたため、動物はほとんどおらず、植物だけのジャングル。やがては枯れていく運命だろう。そこに小型艇が隠れていた。そのコクピットに本物の明と美理はいた。
「・・・・・・・・」沈黙。
複座の小型艇。前席の明はミラーで美理を改めて見た。
「(本当によく似ている。いや双子か同一人物だ。麻美子さんだっけ。でもあれは・・過去の、旧暦の“恐怖の大王“に遭遇した人の記憶だ(と思う)。俺にもそれ位は分かる。だが調べてみても、あんな宇宙船の乗組員の記録は見つからなかった。・・それにしても可愛いなあ。でもこの子の一番の魅力は、何かほっとするところだ)」
明の視線に気付いた美理が微笑む。が、すぐに恥ずかしくなって下を向いてしまった。
「・・・・・・・・」沈黙。
「ごめん。俺、口下手なんだ」
「私は・・あまり男の人と話した事がなくて」
辺りはもう暗く、声しか聞こえない。今まで気付かなかった。澄んだ綺麗な声だ。
敵が囮の<フロンティア号>に気を取られている間に、ステルス化した小型艇で星を脱出、後で合流する作戦だったが、なかなか連絡が来ない。
小さな月が二つ昇る。月明りで辛うじてお互いの顔が分かる。
「あの・・・」二人同時に喋る。
「どうぞ」
「俺は後でいい」
「勝負強い兄に勝ってリーダーになったって・・」
「ああ、あれね、ジャンケン」
「え?」
笑い出す美理。空気がなごむ。
「明さんのは?」
「あ、俺?・・そのハチマキ似合ってるなって」
「これカチューシャです」
「・・・・え?」「・・・・ぷっ」
どっと吹き出すふたり。やっと打ち解けた。
「7歳の時に母が亡くなって、父は地球連邦勤務で不在がちで、兄がずっと世話をしてくれていたんです。父も6年前に行方不明になって、寮に入るまで兄と二人きりに」
「啓作が料理とか? 想像できないなあ」
美理が笑う。今度は自然な微笑みだ(さっきのはひきつっていた)。
「明さんは兄とどうやって知り合ったのですか?」
「俺はスペースレーサーだった。2年前レースで事故って、運ばれた病院の主治医が啓作だった。その内に意気投合して・・」
「それで運び屋に・・なるほど(この人のせいか)。あの、明さんのご家族は?」
「俺?親父は医者。啓作の上司、指導医って言うのかな。お袋は・・あれ?今どこにいるんだっけ?・・事故以来記憶があやふやで・・レーサーになる時に勘当されてるし」
そういえばあの“夢”を見るようになったのも事故の後からだ。
「俺たちは“運び屋“だけど、それだけじゃ食っていけない時もある。そんな時どーすると思う?」
「・・悪い事ですか? 密輸?」
「そんな事しないよー。前人未到の星域を探検して航路開発のための調査をするんだ。“星図屋”と呼ばれている。実はこの方が稼ぎはいい。大変だけどね。多くの運び屋の宇宙船がワンマンや少人数なのに、俺たちが7人と多いのはこのためもあるんだ」
「・・私<スペースマン>ってもっと野蛮な人達だと聞いていました。不良だから近づいちゃダメって」
「ははは・・ひでーな。(さすがお嬢様学校)」
実際社会の認識はそんなもんだ。
「でも、皆さん親切で優しかった。信じていた事を謝ります。ごめんなさい」
「(素直なんだ。天然?この子は笑った顔が一番いいな)」
美理を見つめる。やっぱり似ている。麻美子さんに。
「何か?」
「いや・・<パラドックス>って連中は・・何で君を狙っているんだろ?」
「・・わかりません」
「街で足踏んだとか?」
「憶えないです」
「だろうなあ」
静かな夜。頭上には星空が広がる。幾つかの星は動いている。<パラドックス>の艦艇だろう。
一方、<フロンティア号>は凍った海に捕らわれていた。
青いアクアの朝日がまぶしい。
啓作たちはデコラス副首領とパネル越しに対峙していた。
『どうだろう。我々が欲しいのはその娘だけだ。渡してくれれば君達に危害は加えない。』
「断る」啓作が即答する。
『・・分かった。じゃあその娘の血液を採取させてくれるだけでいい。後は解放しよう。』
「嘘だね」とボッケン。マーチンもうなずく。
「血液?血をどうする気だ?クローンか?」
『それは答えられない。』
「どーせろくでもない事考えてるんだろ」ヨキが小声で囁く。
『10分待とう。返答なき時は攻撃を開始する。』
パラドックス艦隊より地上部隊が降下。
数十体ものパワードスーツ隊が降り立つ。
戦車隊が氷の上を進撃。その砲口は<フロンティア号>に向けられている。
マーチン達は白兵戦を覚悟し、装備を確認する。
啓作は思考を巡らせていた。
「デコラス?・・どこかで・・!宇宙考古学者のデコラス教授か!」
画面を見ていたデコラスはハッと気付く。さっきから美理はピクリとも動かない。
「(騙された!娘はホログラフだ!)攻撃しろ!」
消える映像。
「バレた!戦闘態勢!」
「啓作!大変よ!」
シャーロットはデコラス元教授の情報を収集していた。その中には”ESPER”の文字が。
パラドックス旗艦艦橋。
デコラスは精神集中し、ニヤリと笑い消える。テレポートだ。