sunny
最悪。
一昨日から雨が続いてた。朝降って、帰りはやんでるというパターンだ。今朝も雨が降ってた。
一昨日から朝は傘を指して、帰りは忘れるのを繰り返していた。持って帰る傘はいつのまにか、今日持ってきたのをあわせて3本になった。
3本も持って帰るのは目立つし、大変だ。だから、お母さんが学校の近くまで迎えにきてくれる予定だった。そう、予定だった。さっきまでは現在進行形だったけど、今は過去形。
用事が入って迎えにこれなくなったらしい。
今日は金曜日。天気予報では月曜日も朝から雨。家にはもう、あたしの傘はない。休みの日にわざわざ、学校に取りに来るのも嫌だ。
腹をくくろう。仕方がないから目立って帰ろう。
でも、目立つのは最低限に抑えたい。せめて皆が帰るのを待とう。ウサギの定期入れを弄りながら、教室から人がいなくなるのを待ってた。
窓の外を見ると、朝の雨は嘘のように晴れていた。綺麗な夕日まで出ている。余計に目立つじゃないかと、夕日に少し苛立ちを覚える。
廊下を歩いて、玄関に行く。靴を履き替える。周りに人がいないか確かめる。
いた。最悪だ。でも···いや、やっぱり最悪だ。
いつもなら喜ぶかもしれない。同じクラスの三嶋君。女の子と話してるところは、あまり見たことがない。背が高めで、クールな感じの印象。見方によっては冷たそうにも見える。だからか、女の子達も積極的に彼に関わろうとはしない。彼もまた然り。
でも、あたしは知っている。彼の鞄に小さな、ウサギのストラップがついていることを。よく見えなかったが、確かにウサギだった。
あたしはそのギャップに衝撃を受け、そして同時に惹かれた。自分でも驚いた。え、これで好きになる?
そのウサギさんはいつもは、うまい具合に鞄の中に隠してある。
どうしよう。これは話ができる機会かな。いや、傘3本持ってるし。
なんて考えていたら、傘が手から落ちた。慌てて手を伸ばしたけど、届かなかった。
「傘、落としたよ。」
抑揚の少ない囁くようなが聞こえた。三嶋君だ。その声を発すると同時に、あたしを見た。そして、驚いた様な顔をした後に笑った。
「今朝、そんな凄い雨降ってた?」
傘を受けとりながら何とか答えた。
「あ、いや、そんな雨が凄かったから3本持ってる訳じゃなくて。」
「当ててあげよっか?」
クイズじゃあるまいし。と言うよりも早く、三嶋君が口を開いた。
「最近朝だけ降ってたから、帰りに持って帰るの忘れてたんだろ?」
「···正解。」
三嶋君って結構話しやすいな。というよりも、思ってたより怖くない。仲良くなれそうで嬉しい。
三嶋君が歩き出した。今度は何だと見ていたら、少し進んで振り返った。
「倉田、帰らないの?」
「え?帰るけど···」
「じゃあ折角だし、一緒に帰ろうよ。」
三嶋君は全然怖くない。でも、何か不思議な感じだ。いきなりクイズにして、しかも当ててくるし。
「傘、2本持つよ。」
「いいよ。悪いし。重いわけじゃないしね。」
「倉田、3本も持ってるの見られたくないから、皆が帰るの待ってたんでしょ?」
「···じゃあ、よろしくお願いします。」
三嶋君は探偵みたいだ。皆当てられる。悔しい。何か仕返ししてやりたい。
「三嶋君、鞄にウサギのストラップつけてるよね?」
「え、何で知ってるの?」
三嶋君が狼狽える。何だか勝った気分だ。
「いつもは鞄の中に入れてるでしょ?前に鞄から出てるの見えたんだ。」
三嶋君は下を向いて、小さな声でつぶやい呟いた。
「···ひく?」
今日は三嶋君が笑ってるのとか、驚いてるのとかみれて嬉しかった。仕返しにと思って、大丈夫だと思って言ってみたけど、でも何だかこれはやり過ぎた気がする。え、そんなに気にしながらつけてたのかな。慌てて手を振りながら答えた。
「ひかないよ。ただかわいいなって思って。」
三嶋君は顔を上げて、照れたように笑った。
「なんだ。良かった。」
あ、笑った。良かった。
「でも、偶然なんだよ。わざとじゃないんだ。」
三嶋君は、何の話をしているんだろう。
「かわいいなと思って買って、次の日に鞄につけていったら、倉田の鞄にも同じウサギのやつ、ついてんだもん。俺もびっくりした。」
あたしも今、びっくりしてる。口を挟む間もなく、三嶋君は続ける。
「で、鞄の中に入れてたんだよ。でも、鞄からとるのも何かもったいなくて」
だから、隠してた。と、三嶋君は笑った。同じウサギにもびっくりしたけど、あたしの定期入れを見ていたことにもびっくりした。
「あたしの定期入れなんて、よく気がついたね。」
「そりゃ、気づくよ。俺、倉田のこと好きだもん。」
三嶋君が夕日に照らされる。赤く見えるのは気のせいだろうか。多分、あたしの顔も同じ色になってるんだろうけど。




