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盗賊のアジト

 5日後、俺は背の高い木の枝に座り、足を休めていた。ここまで必要最低限の休憩しかとらずに、ひたすら空を駆けたおかげで、既に目的地が近い。ボロボロの見習い騎士の制服から、まだ綺麗な私服に着替え、町に入る準備もしておく。


 「よし、そろそろ行けるか」


 俺は足の状態を確認してから、『疾走』を使い空へと駆け出した。空、と言ってもあまり高い所は走らない。あまり人に見られたくはないからだ。


 既に国境を越えて隣国へ入っている。平坦な土地の多かった王国と違い、山が多い。


 町を見過ごさない様に気を付けないとな。そろそろ日が暮れる。そうしたらもう少し高度を上げて山の上から町を探そう。……と、考えていると。


 「あ、人発見」


 下に見える川原に、二つの人影を見付けた。せっかくだし、ミストフラムが近いか聞いてみよう。そう決めた俺は二人に気付かれない様に少し離れた場所に降り、そこからは普通に歩いて人影に近づく。二人とも体格の良い男だ。地元の人だろうか。


 「あの、少し聞きたいことが……」

 

 「んん?オイオイ、何だってガキがこんなとこにいやがんだ。迷子か?」

 「迷子にしちゃ町から遠くねえか?……おいチビ、お前一人か?」


 「あ、はい。親とはぐれてしまって」


 しまったな、空中を歩いてなくても子供一人ってだけで怪しさ満点じゃん。……と、そこまで考えて俺は気付く。

 この二人、やたら人相が悪い。俺をじろじろ見て嫌な笑みを浮かべている。あと酔っ払ってるっぽい。

 コイツらもしかして…………。


 「へえ、見た目はかなり良いな。おいコイツ結構高値で売れんじゃねえの?」

 「そーだな。さっきの女といい、今日はツイてるぜ」


 ……もしかしなくても。


 「お前ら盗賊か」

 「まあ、そんなとこだ。とりあえず怪我したくなかったら大人しくしとけ」


 懐からナイフを取り出しながら片方の男がにじりよって来た。まったく、三ヶ月ぶりにようやく人に会えたってのに何でそれがよりにもよって盗賊なのか。


 さて、どうしようかな。別に逃げるのは簡単だが、倒すのも難しくないと思う。面倒な事になりそうな予感はあるが、彼らに捕まっていささる人がいる可能性があるし……現金かもしれないが盗賊退治で金を得られるならこれから先助かる。


 ……よし、倒そう。


 「あん?何だよそのツラは……ぐあっ!」


 油断しきって近づいて来た男の腹を軽く蹴ると、それだけで数メートル吹っ飛んだ。呻き声を上げて悶えている様子を見ると。暫くは起き上がれまい。


 「なっ、テメエ、このガキ……!!」


 もう一人がナイフを持って襲い掛かって来るが、フォレストウルフ等の魔物に比べると遅い。タイムリープの出番も無さそうだ。


 「ぎゃああっ!」


 ナイフをかわし先程より少し弱く蹴る。俺の初の対人戦闘は、僅か十秒で終了した。呆気ない。

 手加減した方はまだ普通に喋れそうだったので俺は情報を得ようと話しかけた。


 「おい、アジトはどこにあるんだ?この近くか?」

 「クソ、何なんだよテメエ……知るかよそんなもん」

 「もっぺん蹴るぞ」

 「何をっ、ぐあっ」


 だん、と盗賊の男の手を靴底で踏み潰す。嫌な音がしたな。折れたか?


 「ま、待て。分かったよ、教えるから待ってくれ」


 これまた呆気なくアジトを喋る男。ナイフの扱い方も素人臭かったし盗賊になったばかりで荒事にはあまり慣れてないのかもしれない。


 「で、アジトにいる人数は?」

 「俺たちの他には三人しかいねえよ。ほ、本当だって……ガッ」


 聞きたい事を聞いた俺はその男を蹴って気絶させてから聞き出したアジトへ向かった。






 天駆を使って教えられた方向へ進むと、数分で人の笑い声が響く洞窟を見付けた。洞窟の前には盗品と思われる馬車が一台止めてある。どうやらアジトの場所は嘘では無かったようだ。

 中にいたのは情報どおり三人、一応側に剣を置いてはいるが、全員酔っ払っている。奇襲してくれと言っているようなものだ。


 「なっ、ぎゃあ!」「ぐおっ」「何だ!?……ガアッ」


 洞窟の中に飛び込み、盗賊の三人を蹴りとばす。こちらには反応の良い者もいたが剣を抜くまで待ってやる必要は無い。今度も一瞬で終わらせることができた俺は、盗賊たちが気絶したのを確かめてから洞窟の中を調べ始めた……のだが。

 「思ったより大した事無いな。食い物のカスばっかじゃん。」

 少し奥に進んだ所で。

 「ん?……………………うわ」

 俺は彼らに捕まっていたと思われる少女を見付けた。

 年の頃は十六か一七歳くらいか。ピンク色の髪をポニーテールにした、活発そうな顔立ちの女の子だ。


 しかし彼女は酷い状態だった。

 盗賊たちに随分と弄ばれたのだろう。何がどうとは言わないがとにかく酷い。側に寄って呼び掛けてみたが、反応せずぐったりしている。一応息は有るようだが、目は完璧に死んでいて再起が可能かどうかは判らない。


 「…………どうしようかな」


 ちらり、と後ろを振り向くと、気絶した盗賊が目に入った。この場所の様子からすると、まだ事が起こってからそんなに時間が経って無い様に見える。それに、だ。


 「さっきの女、って言ってたよな。あの二人」


 さっき……俺は樹上で休息を取っていた。ならばタイムリープでそれを無かったことにすれば、間に合うだろうか。

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