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三ヶ月の成果

 「姫様、朝でございます。起きてください」

 「んん……」「ふにゃ……」


 侍女に軽く揺すられて俺はむくりと起き上がった。横を見ると妹が「後十分……」と呟きながらモゾモゾしている。

 今居るのは王城の俺とカタリナの部屋。別に二人別々の部屋も貰えたのだが、カタリナが姉と一緒の部屋が良いと言い出し、俺もどちらでも良かった為にこうなった。……しかしベッドまで同じにしなくても良かったのではないか。まあ嫌とは思わないけど、カタリナは抱き癖があるため少々寝ずらい。


 「ふわぁ…おはようございます、お姉様」

 「えぇ、おはようカタリナ」


 なんだ全部夢だったのか。……なんてオチでは勿論なく、俺はすぐにタイムリープを使う。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 シヨンの森に戻って来た。俺が城に戻っていたのは、単に睡眠を取るためだ。何故かタイムリープ先で寝ておくと別の地点にタイムリープしても眠くならない。脳がきちんと休まっているのかは少し心配だが、危険な森の中で眠る必要が無いのは非常に助かる。


 俺はアイテムボックスから朝飯の野菜と肉を取り出した。キュウリに似たその野菜を食べながら、城で習った炎魔術で肉を炙る。残念ながら調理済みの食べ物を盗むのは流石に難しかったため、このような味気無いメニューしか無い。別に気にはならないが。

 食べ終わった後、アイテムボックスの中身を確認する。食料は既にかなり少なくなっていた。後一週間と言ったところか。

 ついでに着ている服の様子も確かめておく。丈夫な素材で出来ている見習い騎士の制服だが、かなりボロボロになり所々破けている。生活魔術の一つに洗浄と言う便利な物があり、清潔を保つ事はできていたが、服の傷までは直せない。


 「そろそろ出発するかなあ」


 伸びをしてそう呟く。俺がこの森に来てから、実に三ヶ月の時間が過ぎようとしていた。









 食事を終わらせ、魔物を見つけるために森を走る。三ヶ月前とは違い、軽く地面を蹴るだけで驚く程のスピードが出る。……しかし一番変わったのはそこではなく。


 たん、たんと『空中を』踏み締め、俺は木々の上へと登った。そのまま空を走り、上空から獲物を探す。


 コレが俺の選んだスキル『天駆』だ。割と多くのスキルポイントを消費するが、最大まで上げれば少ない魔力で空中を走り続ける事が出来るとても有用なスキルだ。既に最大までポイントを振った。



 「お、アレは……フォレストウルフ、か」


 木々の合間に獲物を見つけた俺は、風魔法『疾走』を発動させた。すると柔らかい風に覆われ、体が軽くなる。この風魔法が俺の取ったもう一つのスキルだ。『剣術』『風魔法』と言った戦闘の中心になるようなスキルは総じて要求ポイントが高い為、最大まで上げている訳ではないが、それでもかなり役に立ってくれている。



 ここで少し魔法についての話をしようと思う。

 

 この世界の魔法に詠唱等は必要なく、体内にある魔力をパズルの様に組み立て、『術式』を作ることにより発動させる。この操作のことを魔力を編む、術式を組むなどと言うのだが……どうやら俺が『ウィンドウ』で得たスキルはこの操作を飛ばして一瞬で発動できるらしい。

 まあ術式を組むと言う操作には慣れの部分があるので、魔法の難易度にもよるが普通の人でも一つの魔法ばかり練習すればそのうち組むのは早くなる。また、熟練の魔法使いなら多くの魔法を一瞬で発動させられる者も少なくはないので俺の魔法が怪しまれる心配は無い筈だ。



 「グルルルルッ」 「あ~、気付かれたか」


 空を強く蹴りフォレストウルフを追う。スピードは俺の方が速い。何しろステータスポイントの全てを速度に振ったのだ。

 俺が速度に振った理由は二つある。その一つは単にスピード特化が一番強いと思ったからだ。

 俺の今の体格を考えると本当は魔力やMPを上げた魔法型の方が良い。しかし俺の最大の武器はタイムリープなのだ。このチート能力を戦闘に活かすならば、近接戦の方が良いだろう。

 防御、魔法防御に振らなかったのもタイムリープが理由だ。攻撃を受けたなら受ける前に戻れば良いだけの話なので、防御が紙でも問題無い。

 攻撃については少し迷ったがゲームとは違いどんな相手にも弱点がある。目や喉を狙えば大体の相手にはダメージを通すことが出来る筈だ。後は王家御用達短剣の切れ味に期待かな。


 …………と、考えていたのだが。




 「ガアアアッ」「うおっ!?」


 フォレストウルフが一気に飛び掛かって来た。俺は後ろに大きく飛んで回避するが前足の爪でこちらを切り裂こうと追撃してくる。俺は横に飛んでギリギリで回避を……あ、ヤバい無理かも。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 来ることが分かっている爪での攻撃を体勢を低くしてかわす。そして俺はすきだらけのフォレストウルフの腹に、おもいっきり『蹴り』をたたきこんだ。


 「グキャウ!」


 痛々しい声を上げて吹っ飛ぶ狼の魔物。倒れたそいつに近づくと、ピクピクと痙攣している。どうやら今の一撃は良いところに入ったようだ。俺は短剣を取り出し、魔石を回収する。



 考えてみれば当然なのだが、速度が上がると言うことはつまり脚力が上がると言うこと。ならば勿論、キック力も上がるのだ。やはりゲームと現実は違う。

 まあ、攻撃力に関しては短剣でチマチマ戦うしかないと諦めていたので、これは嬉しい誤算だ。貧弱な腕で短剣を使うより上がった脚力を活かして戦う方が強い。


 このように俺は素早さや機動力を重視してレベルを上げた。風魔法を選んだのも、『疾走』のような行動を補助する魔法と、威力が速度依存の魔法があるからだ。この速度重視の理由は、勿論強いと思ったのもあるが、それ以上に町から町への移動が早くなると言う点が大きい。

 『フェイリアワールド』の主人公のように笛を吹けば飛竜がやって来てくれる訳はなく、乗り合い馬車も魔物が多い場所にはあまり通っていない。タイムリミットまで三年も無いのだ。移動に割く時間は出来るだけ減らしたい。




 倒したフォレストウルフから魔石を回収した俺は、森の外を目指した。食料はまだもう少しあるのだが、もうジュエルラットではレベルが上がらなくなってきている。実力も十分についた。Dランクモンスターであるフォレストウルフを楽に倒せるのだ。タイムリープによる優位性込みならランクC、つまり腕利き冒険者並みの力がついたと思う。

 

 ……そろそろ森を出る頃合いだろう。


 そう決めた俺は次の目的地……ミストフラムへ向けて走り出した。

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