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シヨンの森

 「そうですか。……ではルミリナの行方は完全に分からなくなったと」

 「はい。申し訳ありません、我々の警戒が至らなかったばかりに……」


 シリルレーンにある王族の別荘の一室で、王国の王妃であるマルティナは昨日の誘拐事件についての報告を聞いていた。彼女の前で膝まずいているのは護衛隊長だ。芳しくない報告に思わず涙が零れそうになるが、王妃としてその様な姿を見せる訳にはいかない。



 ……ルミリナ。


 とても賢く、大人びた少女だ。五歳までは感情的になることが多く、よく妹を泣かせていたが、前にこの場所に来てからは別人のように優秀な子になった。城の者たちとも、良好な関係を築き、誰からも将来を楽しみにされていた。……それなのに。


 

 カタリナとマルクスも大きなショックを受けていた。特に、優しく頼りになる姉をとても強く慕っていたカタリナは立ち直れるか心配なレベルで塞ぎこんでしまっている。


 「捕えた者たちを尋問していますが金目当てだったの一点張りで姫様に関してはなにも知らないと言っています。しかし……どうやら他国の者であるようです」

 「他国、ですか」


 国の外へ連れ出されたのなら彼女が無事に見つかる可能性はぐっと低くなる。


 「危険な目に会われていなければ良いのですが……」


 そう呟く護衛隊長の顔は、しかしあきらめの表情が浮かんでいた。













 「グルルルルルル……」

 「うわぁ……」


 森に入って三十分程経っただろうか、俺は狼っぽい魔物と鉢合わせていた。

 ランクDモンスター、フォレストウルフ。このランクDと言うのは大体一人前の冒険者一人と同等の強さを持つと言うことだ。当然九歳の箱入り娘が勝てる相手でも逃げられる相手でも無い。


 狼が唸り声を上げ、その鋭い眼光が俺を射ぬく。捕食対象として見られていると言う事実に、本能的な何かがうるさい位に警鐘を鳴らす。


 最初に会った魔物がコレって……運悪いな、俺。


 フォレストウルフが唸り声を上げて飛び掛かって来た。恐ろしい跳躍力で俺に迫ってくる。…………が、その鋭い爪が届く前に、俺はタイムリープを使った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「次はこっち行くか」

 十分程前に戻って来た俺は先程とは別の道を歩き出す。魔物が作ったらしき獣道がたくさんあり、箱入りお嬢様な俺でもそこまで苦労せずに歩けるが、あまり積極的に運動をしていなかったために早くも疲れてきた。

 そろそろ休憩が欲しいところだ。実はまだ一時間も歩いて無いのだが。


 



 「お、あれは……?」

 その後も暫く歩き、草木が生い茂る獣道にもかなり慣れ始めた頃、俺はようやく目当ての魔物を見つけた。


 それはゲームでも随分お世話になった高経験値を持つボーナスモンスター、その名も『ジュエルラット』…………


 「…………だよ、な?」


 少し先の木の根元にいるソイツは形だけ言えば確かにジュエルラットだ。しかし見るからにレアですよと主張していた透き通った輝く体は持っておらず、普通の角ネズミと同じ色をしている。


 ……ちゃんと経験値貰えんのかな、コレ。


 少し不安になるが倒してみれば解ることだと思考を切り替え、短剣を取り出す。

 この短剣は王族の娘が五歳になると必ず渡されるもので、切れ味が落ちない魔方陣が刻まれている。これを渡すのは単なる伝統であり今まではいっさい使い道が無かったが、これからは頼らせてもらうつもりだ。

 感ずかれないようそろそろと近づく。こういう高経験値モンスターの例に漏れず、コイツも異常に素早いのだ。

 ……あ、逃げられた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 結局その後、近づくのに十七回、そこから短剣を投げて当てるのに五十三回タイムリープすることになった。しかし何度外しても短剣を投げ続けたかいあって、ジュエルラットは今俺の目の前に倒れている。魔物の体内にある魔石は売るために取り除いてアイテムボックスに入れた。


 討伐完了。さて、レベルが上がっているかどうか。


 俺は心の中で『ウィンドウ』と唱える。すると頭の中に幾つかの情報が浮かび上がって来た。


 ……これが俺の得たもう一つの転生チート、『ウィンドウ』だ。


 今俺の頭の中には現在のレベル、HP、MP、攻撃力、魔力、防御、魔法防御、速度と言った物が数値化されて浮かんでいる。……レベルは一気に一から四に上がっていた。やっばコレはジュエルラットだったらしい。よっしゃ。


 HPから速度までどの数値も少しずつ上がっていたが、この『ウィンドウ』のすごいところは自由に振り分けることのできるステータスポイントと言うものがある点だ。ゲームの主人公と同じ様に、自分の能力を自由にカスタマイズすることができる。更にはスキルポイントと言うものもあり、こちらもゲームと同じ様にポイントを振る事で便利なスキルを得る事が出来る。

 ……タイムリープと比べればショボく見えてしまうが、自分の能力を思い通りに伸ばせるのだ。それにスキルポイントで手に入るスキルの中には普通手に入れずらいレアな物もある。やはりこの『ウィンドウ』もチートと言えると思う。


 「よし、コレとコレを……と」

 あらかじめ決めておいた通りにポイントを振り分ける。俺はステータスが上がり少しだけ軽くなった体で、別のジュエルラットを探すために再び歩き出した。

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