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家出

 町の入り口まで降りてきた。振り返ると抜け出してきた屋敷が見える。今頃は俺のせいで大騒ぎになっているだろう。楽しい筈の休暇を台無しにし、大勢の人に迷惑をかけてしまうことは本当に申し訳なく思う。

 仮にも王女様の失踪ともなれば国は大騒ぎになるだろう。家族にも心労をかけてしまう。特に申し訳ないことには、今回警備に回った兵士達には何かしらペナルティがあるはずだ。内通者がいると疑われる可能性もある。しかし、この国の運命を変えたいならこうするしかなかった。


 ……ごめんなさい。


 心の中で謝罪し、俺は思考を切り替える。ぐずぐずしていると街道を封鎖されるかもしかれないのだ。迷っている時間は無い。

 俺はアイテムボックスから短剣をとりだした。

 俺は伸ばしていた髪を後ろでまとめ、そこに短剣をあてる。これから先、長い髪は邪魔でしか無い。ぐっと力を込め、髪を切る。


 「よし、こんなもんかな」


 鏡が無いので分からないが綺麗に切れたと思う。

 俺はここから先は基本女であることを隠しておくつもりだ。王国の王女とバレる可能性は出来る限り排しておきたい。まだ九歳なので性差はほとんど無く、元男なので立ち振舞いからバレる危険はゼロ。顔も妹と違って少しキツめなので、そう簡単にバレることはないはずだ。

 俺は用心のために切った髪をアイテムボックスにしまってから町の奥へと歩を進めた。




 保養の町と呼ばれ、金持ちが集まるこの町の周辺はとても治安が良い。ファンタジーでは必ずといっていいほどお目にかかる魔物の類いもほとんどいない。これは後で知った事だが、今回の侵入者たちは他国から移動してきたばかりで、金に困って盗みを働こうとしていたらしい。まあこれは例外だ。普段は本当に安全な町なのだ。

 危険が少ないため、もう夜になったというのに外へ向かう馬車もある。俺はその中のあまり荷物をつんでない馬車の御者をしている男に声をかけた。


 「おじさーん、この馬車って『シヨンの森』のそばを通りますか?」

 「あ?何だ坊主、乗りてえのか。今は荷物が少ねえから安く乗せてやってもいいぞ」

 「ってことは通るんですね?」

 「おうよ」


 よし、この馬車にしよう。


 「ごめんなさい。やっぱり乗りません」

 「ん、そうか」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 俺はタイムリープを使い先程の会話の前に戻って来た。そして行き先を確かめたその馬車にこっそりと乗り込む。

 ……別に運賃をケチった訳ではないよ?単に『怪しい子供がシヨンの森に向かった』と言うことを城の人に知られたくないだけだ。……まあ金が無いのも事実だが。


 ガタガタと揺れる馬車の音で気取られずに乗れたようだ。俺は箱と箱の間に隠れ、息を潜めて馬車が町の外へ出るのを待つ。

 

 息詰まるような十数分間の後、気が付けば人の声が聞こえなくなっていた。そっと首を出して周りを確認すると、遠ざかっていくシリルレーンの町が見える。


 ……これで最初の関門は突破した事になるな。


 ほっと胸をなでおろす。緊張が解けると同時に眠気が襲ってきた。シリルレーンからシヨンの森までは大体半日ほどかかる。一眠りさせてもらうとしよう。







 朝になって太陽が高く昇ってきた頃、ようやく遠くに目的の森が見えてきた。気付かれないよう注意してそっと馬車を降りる。

 

 この森は魔物が少ないこの辺りでは珍しく多くの魔物が住んでいる場所だ。しかし全くと言って良い程魔物が外へ出てこず、また冒険者ギルドが遠い事もあってこの森に入る人は皆無。俺にとっては好都合だ。


 俺がこの森に来た理由は単純で、強くなりたいと言うもの。そのうち冒険者になるつもりなのだ。力がなくてはこの先やっていけない。


 この世界には、ゲームのようなレベルアップの概念は無い。しかし、魔物を倒すと強くなれると言うのは共通している。魔物を多く倒せば身体能力や技術が上がると言うのはこの世界では常識である。

 もっとも、普通に訓練してもそれらは上がるため、町の守護をしている兵士でも強い者は強いが……俺が手っ取り早く強くなるためには、訓練よりも魔物退治の方が良い。














 ……俺はもう一つだけ転生特典と思われる能力を持っている。タイムリープに比べればショボく、今まではいっさい使い道が無かったが、この森では大いに役立ってくれるはずだ。

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