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再びウェストバルクへ

 「夜に? ……ってことは今日はまたここに泊まるの?」


 聞こえてきたレイナの声に、俺は記憶とは違う答えを返す。


 「ああいや、間違えた。やっぱり今すぐに出発することにする」

 「ふえっ? な、なんで急に変えたの!?」


 タイムリープで戻ってきたのは、アースドラゴンの騒動があった翌日。俺達が買い出しを終えてフィール達の家に戻ってきた場面。先に処刑台にいた少女について調べたかったので、少し余裕を持って戻ってきた。今から急げば、この日の昼前くらいにはウェストバルクにつけるだろうか。



 ……てなわけで急いで準備である。



 「と、言うわけだから俺達はもう出るよ。フィール、ファーレ、準備頼む。レイナとユーリも、悪いけど一緒に出てくれるか。この家閉めるから」

 「ええっ、ちょっとルナ君!? その、ちょっと待って……」

 「僕はもう準備オッケーだよ」

 「お、早いな」

 「まあ持ってくの着替えくらいしかないし、ぱっと消して終りだし」

 「元々精霊境に居るときはたくさん荷物持ち歩いてるのよ。はいルナ、これアイテムボックスに入れてちょうだい。ルシアはこっちお願い」

 「よし了解……うわっ、多っ。あのさ昨日も……いや、前回も言ったけどアイテムボックスも無限には入らないんだからな。ここら辺のやつは置いていく筈だったろ」

 「斧とかハンマーだとかは無しです!二回目ですよ?」

 「え、ええ……君達……?」


 帰ってきて早々にてきぱきと準備を始めた俺達にレイナとユーリが目を白黒させている。既に一度終えている事なので、ほんの数分で終わった。フィールが駄々をこねなければもっと早かった。


 「ルナさん、あのグリーブどうするんですか?」

 「悪いけど、代わりに買ってきて貰えるかな。俺がどれ買ったかは覚えてる?」

 「覚えてます。分かりました!」


 「ねえルナ、今の時間だと入口にもそこそこ人居るだろうけど、どうするのよ?」

 「どうしよう。……フード付きの服買ってたよな。あれを深く被って行くしかないか……?」

 「おっきい袋に入ってフィールちゃんに担いでいって貰うのはどうでしょうか?」

 「なんか誘拐っぽいな。うーん、ちょっと不本意だけど、そうしようかな」


 袋詰めされて運ばれるのか。まあ確実ではあるけど。

 そんな風にごちゃごちゃとこの後のことを話しながら玄関へ急ぐ。レイナとユーリも、おろおろしながら取り敢えずついてくる。



 外に出ようというとき、俺はレイナに呼び止められた。



 「ルナ君、ねえ、ちょっといい?」

 「ん?なんだ?」

 「その、出発するって行き先は? どこへ行くつもりなの?」


 レイナは少し焦ったように行き先を聞いてきた。


 「ウェストバルクだよ」

 「ね、ねえ、私もそこまでついていっていいかな?」

 「それは……」


 俺の主観での昨日と同じ、不安そうな目。

 元気そうに見えても彼女は三日前に盗賊に襲われ、父親を殺されたばかりなのだ。そしてその後、傷心の彼女に付き添ったのは俺である。ユーリによると、そうした経緯から俺のことを年上の先輩冒険者のように思っているらしい。それなら俺と別れることを心細く思うこともあるかもしれない。


 「駄目、かな……?」

 「ああ、悪いけど、俺達は天駆を使って移動するつもりなんだ」

 「そっかあ……残念……」


 心の底から残念そうに言って、レイナは肩を落とした。


 俺としても、盗賊に負けた彼女を放っていくのは、一度助けた手前少し抵抗があった。しかし今の彼女にはユーリがついている。彼の実力は本物だ。経験の浅いレイナを上手くカバーしてくれるだろう。レイナも実力は高いのだから、経験豊富なユーリがついていれば滅多なことにはならない筈だ。



 ……本当は彼女を一緒につれていく方法が無いわけでは無い。だけど、彼女のためにもやめといた方がいいだろう。どちらにせよいつまでも一緒に旅する訳にはいかないのだし、俺の負担も大きいし。



 「うーん、私達もそっちへ行こうと思うんだけど、向こうで会えないかな?」

 「え?それは……会えるかもしれないけど、俺達もそんなに長居する気は無いぞ?」

 「う……そうなんだ……」


 レイナは肩を落とし困ったように笑う。一緒に行きたいと言ってくれるのは嬉しい事だが、これからの事を考えるとどうしても彼女は足手まといになってしまう。悪いけど別行動だ。


 元気を無くしたレイナの様子を見かねたのか、フィールが助け船を出した。


 「あのねレイナ、あたし達、ウェストバルクのモートンモンスターショップってところに行く予定なの。もしウェストバルクへ行くならよってみてくれない?上手くいけば会えるかもしれないわ」

 「えっ? ごめん、何だって?」


 フィールは例の少女の店のことを教えようとしているようであるが、それでは伝わらない。その店はタイムリープで知った情報である。


 「あー、何と言えばいいか……そうだな、俺達はあの街で一番大きな広場にあるモンスターショップに行こうと思ってるんだ」

 「ああ、確かにウェストバルクにはモンスターショップが山ほどあるね。……君は従魔が欲しいのかい?」

 「まあそんなとこ」


 どうやら伝わったらしい。

 これで運が良ければ会えるかもしれない。……あの広場には十近いモンスターショップがあったような気がするけど。


 「じゃあまた。ウェストバルクで会えるといいな」

 「うん、じゃあね。私も急いで行くから」


 名残惜しそうなレイナとユーリに手を振り、俺達は天駆を使ってフィール達の家を離れた。





 その後は急いで高級防具を売る店に寄り、ルシアにグリーブを買ってきて貰った。その次はクリスマスのプレゼントみたいに袋に詰められて入口を抜ける。フィールが乱暴に扱うせいで体が痛くなったが、他にいい考えも浮かばなかったので仕方無い。少なくとも無事にミストフラムまで登る事ができた。


 フィールに姿を見つかりづらくする迷彩魔法をかけて貰い、天駆を使って空に舞い上がる。その後はウェストバルクへ向けて一直線だ。下手に道を間違えないよう、街道が見える位置から離れないように気を付けて進む。

 今更ではあるがファーレのギフトを使っているおかげで飛ぶ速度が非常に上がっており、また楽に飛べるようになっている。もちろん疾走を発動していることに加え、ルシアにも身体能力上昇、疲労軽減などの補助魔法をかけて貰っている。シヨンの森からミストフラムまで苦労して移動したときと比べると雲泥の差だ。今なら休憩なし、かつ一日で同じ距離を移動できるだろう。


 「おおー、はっやいわねー。これもしかしたら飛竜並みの速度がでてんじゃない?」

 「いや、比べる対象おかしいだろ。さすがにそこまではな……でも、ファーレのギフトのおかげで相当に速くなったよ。でもそれ以上にほとんど疲れないのがいいな。無重力空間を歩いているみたいで凄く楽だ」


 もちろん無重力なんて体験したこと無いけども。あくまでイメージである。


 「ふーん、……ねえ、ところであたしのギフトは?」

 「戦闘では重宝するな。俺は体が軽いから、そのままだといくら全力で蹴っても全然威力が乗らないし」

 「むう、戦闘だけ? もっと使ってみてよ。ほらほら」

 「今使ったら落ちるから。……そもそもフィールだってほぼ戦闘にしか使わんだろ」

 「いや、他にもこう……使い道が……ないかなー、と」


 他にとか言いつつパンチにしか見えない動作をするフィール。あ、そうだ、ボクシングなら階級を誤魔化してチャンピオンになれるかも。結局戦いだけど。いや、重くしても意味ないな。


 「まあ、そうだな。強風の中移動しなけりゃならないときなんかは使えるか」

 「うう、限定的。やっぱりあたしのギフトはファーレには勝てないのか……くう」


 フィールは悔しさと自虐をない交ぜにした目でファーレを睨む。いったい何なんだ、と思っていたらファーレから思考共有での説明が入った。


 『あはは、姉ちゃんがごめんね、ルナ。姉ちゃんはどうも僕の体重を減らすギフトのことを羨ましがってる節があるんだよね』

 『ああ、それで』

 『まあ日常生活ではあんま役に立たないしねー、あと、女の子として体重を増やす能力は少し微妙な気持ちになるらしい』

 『強力なギフトを持っといて贅沢な悩みだな』


 ギフトなんて持たない人の方がずっと多いってのに。ていうか精霊でも体重で悩んだりするんだ。


 「でもまあ確かに、ファーレのギフトは便利だな。移動に関してはとても楽になる。これなら休憩要らずで走り続けられそうだ」

 「前は違ったの?」

 「少し進む毎に足を休ませてたよ。結局は走ってる訳だから、空で持久走やってるようなもんなんだ」

 「ふうん……持久走ねえ……」

 「……まさかとは思うけど精霊は疲労まで無かったりすんのか?だとすれば」

 「違うから! 疲れるのは生物として当然だよね!? アンテッドかよ僕らは!?」


 そう聞いた俺にファーレが鋭くつっこむ。どうやら精霊にもきちんと疲れるらしい。少しほっとした。

 まあ俺の地球の常識で考えると、精霊は不死身って時点で生命体としておかしいんだけど。


 「アンテッド……うーん、ゾンビとは言わないけど死霊系には若干近いような」

 「精霊を幽霊扱いしないでください! 全くの別物ですから!」

 「あ、悪い」


 怒られてしまった。

 確か死霊は死者の怨念から生まれるアストラル体が基本だった筈だ。つまりは怨念の籠った魔素の集まり。あれ?やっぱ近いのでは?

 そう思わないことも無いが精霊にとってアンテッドと一緒にされることはタブーらしい。

 口は災いの元。素直に話題を変えようとしたが、その前にフィールの方から新しい話題を振ってきた。


 「そう言えばスキルとか魔法とか使ってる空飛んでるけど、魔力は大丈夫なの?」

 「ウェストバルクまでくらいなら全然大丈夫だよ。天駆も疾走もコストパフォーマンスがいいんだ」


 その言葉通り、俺は一度の休憩も入れずにウェストバルクへと走った。今の俺達はただでさえ速いのだが、空を進んでいるため曲がりくねった街道を無視できるのも大きい。一時間も飛ばずにウェストバルクの街まで戻ってくる事ができた。上空から見るといっそう中心にある闘技場が目立っている。


 俺達は例によって少し街から離れた場所に降り、そこからは普通に歩いて門をくぐる。ちなみにルシアだけには妖精化を解いてもらった。精霊契約は一対一が普通なので、俺一人が三人の精霊を連れていると奇異の目を向けられてしまう。


 「ルシアの妖精化を解く理由はわかるんだけど、何でわざわざ門から入るのよ? 直接広場に飛んで行けばいいじゃない」

 「いや、あんな人の多い所でリアルに『空から女の子がー』とかやらかせば目立つじゃ済まんだろ」


 ルシアの迷彩魔法は見えにくくなるだけであり、見えなくなる訳ではない。近くで見られるとすぐにバレる。


 「ミストフラムからは人目を気にせずにそのまま飛んだじゃない」

 「精霊境で天駆を使いまくったから開き直ったんだ。察してくれよ」



 街に入った後は真っ直ぐに闘技場前の広場に向かう。街には明日とは違って本来あるべき活気があり、翌日に控えた一大イベントに向けて準備が進められていた。前に来たのと同じ街とは思えないほどに雰囲気が大きく変わっている。そこかしこにいる従魔が目に入らなければ、別の街に来たと錯覚してしまいそうだ。 


 「ふうー、ようやくタイムリープ前の場所にまで戻ってきたよ。しっかし、人はどっちにせよ多いんだね」

 「そりゃ明日が従魔闘技会なんだからな。準備なんかは今が一番忙しいんだろ」

 「確かにみんな忙しそうにしてますね。……にしてもこの広場の周りって結構オシャレというか、綺麗でいい雰囲気ですよね。さっきは壊されてたりそれどころじゃなかったりで気付かなかったんですけど」

 

 処刑が行われようとしていた広場には、さすがにその時程ではないにしても大勢の人が行き交っている。改めて見るとルシアの言ったとおり綺麗な所だ。さすがは街の顔とも言える場所である。

 俺達の目的であるモートンモンスターショップもすぐに見つかった。営業中のようで、扉が開いている。


 「ごめんくださーい。誰かいませんかー?」

 「へえ、ここがモンスターショップか。檻がたくさんあるね。……僕達以外には客はいないのかな」

 「従魔を盗もうとするほど困っていたそうですから、いつもこうなのかもしれませんね」


 中は割と広く、両脇には様々な魔物の入った檻が置かれていた。檻と言っても魔物の体と比べて大きく作られており、その他にも中の魔物が楽に暮らせるような工夫が随所に見られる。後に従魔にする関係上、人と親密な魔物を育てないといけないのだろう。


 俺達が中に入ったとき、誰かの従魔であろうアイスバードが店の奥へ飛んでいった。客が来たのを知らせにいったらしく、すぐに女の子が一人、奥の部屋から飛び出してきた。処刑台にいたあの少女だ。


 「い、いらっしゃいませ! 魔物のご購入ですか?」

 「あ、いや、俺達は……」

 「あ! も、もしかして依頼で来てくださった冒険者の方ですか!?」

 「え?」


 ぱあっと期待に目を輝かせて、その少女は俺達……と言うか、正確にはルシアを見てそう尋ねてきた。

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