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ウェストバルクで

 「おー、あれがウェストバルクね。……何て言うか、ミストフラムとあんま変わんないわね、見た目の雰囲気とかは」

 「そりゃまあ、ミストフラムから近いからな。文化も建築様式もそんな大きくは変わらんだろ」


 見えてきたウェストバルクを見てフィールがそんなことを言った。彼女とファーレもここに来るのは初めてらしい。


 俺から見ても街……と言うか城壁の感じは確かにミストフラムと変わらない。しかし、この街にはここからでも見える大きな特徴がある。


 「ねえねえルナ君、あの奥に見えるでっかいのってさ、もしかしてアレなのかな?もしかしなくてもアレだよね?やっぱりアレだよね?」

 「ああ、間違い無いだろ。ーーーーアレが従魔闘技会の行われる、闘技場だ」


 興奮を隠せない様子のレイナが指差した先には、ここからでもよく見えるほど巨大な建造物があった。見た目は古代ローマのコロッセオに近いだろうか。柱にはドラゴンやフェンリルなどの魔物をモチーフにした彫刻があり、遠目にも荘厳な気配が見てとれる。あれが魔物使いの聖地とも呼ばれるウェストバルクのシンボル的な存在、神造の従魔闘技場だ。


 「ルナ君、神造ってことはアレって……」

 「そう、アレは神造遺産の一つだよ」


 つまりは神様が作ったと言われている建物だ。真偽の程は不明だが、少なくともとんでもない技術で造られたのは間違い無い。人の手では決して破壊できない上、特殊な機能を備えている。


 「神造遺産かぁ、話には昔聞いたことがあったけど、見るのは初めてだよ。大きいねー」

 「レイナは前に行ったことがあったんじゃなかったのか?」

 「そうらしいけど覚えてないし。……ルナ君は初めてなの?」

 「いや、王国の王城は見たことがある」


 本当はそこに住んでたけど。


 「そっかあ、ルナ君は王国出身って言ってたもんね。王国って他に神造遺産って無かったっけ?」

 「有名なのはやっぱりリュースグランドの神殿かな。でもあれは王国の中でも更に西の端にあるから、俺も行ったことはないよ」

 「ふーん、ルナ君は何でも知ってるんだね。王城にも行ってるし。さっすが元貴族のお坊っちゃまだね!」

 「あのさレイナ、くれぐれも人が居るところで俺の事を貴族だとか言ってくれるなよ?頼むぞ?」

 「はいはい、了解了解!」


 レイナの返答は威勢だけはいいのだが、聞き流された感じがして少し不安になる。

 本当に分かったのだろうか?


 レイナと話していると城壁と門が近づいてきた。他の街と比べると門がかなり大きい。恐らくは巨大なモンスターも通れるように設計されているのだろう。

 更に門の左右には人型のモンスターが陣取っていた。どうやら門番をしている兵士の従魔であるようだ。こう言うのを見ると、ここが魔物使いの街なのだと実感する。


 レイナも似たような気持ちのようで、門をくぐるときはかなり興奮が増ししていた。


 「わあ、テイムされているモンスターを見たのって初めてかも。あ、言っとくけど覚えてる限りでは、だからね!」

 「わざわざ予防線張らなくてもわかってるよ。しっかし、飛竜や地竜も見たこと無いのか? あーゆうのはどこへ行っても移動手段として重宝されてるだろ?」

 「私の住んでた町はそんなに大きくなかったから、竜車なんて来なかったんだよ。一応飛竜なら上の方を飛んでるのを見たことあるけど。ルナ君はやっぱり見たことあるの? も、もしかして乗ったことも!?」

 「あー、地竜ならある」

 「うっわ凄いっ!さすがは元お貴族様!」

 「うっわ信じらんねえ。さっそく大声で暴露しやがったよ」

 「はっ!?」


 やっぱり聞き流してたんだな、レイナ。

 回りをさっと確認するが、他の人にこちらを気にする様子は見られない。うまく喧騒に紛れてくれたようだ。これならタイムリープの必要は無いかな。


 「ご、ごめんねルナ君! はわわ、どうしよう?」

 「取り敢えず聞いてる人は居なかったみたいだから大丈夫そうだ。……でも、次からは気を付けてくれよ?」

 「はあい……」



 門を抜け、街の中に入ってもいたるところにモンスターの姿があった。街並みはミストフラムとほとんど変わりないのに、はっきり言って別世界だ。一般市民らしき人達も、小型の魔物や動物を連れている事が多い。小さな子供がコボルドに乗っかって移動し、俺と同い年くらいの少年がゴブリンと共に荷運びをしていたりする。まさしくテイマーの街だ。


 「うわあ、凄い。本当に魔物だらけ……」

 「俺もここまでとは思ってなかったな」


 物珍しさに、キョロキョロと辺りを見回す。フィール達も一旦妖精化を解き、一緒に街を歩く。

 しかし俺はすぐに違和感に気づいた。既に従魔闘技会が始まっている筈なのに、そういうお祭りムードが感じられない。むしろ逆に、どうも落胆してると言うか苛立っていると言うか、そんな妙な雰囲気を街全体から感じる。

 妙に感じたのは俺だけではないようで、ファーレがそれを指摘した。


 「んー、ところでさ、なんとなーく、だけど……街の様子が変じゃない?」

 「変ってどういうことよ?魔物がいっぱいってことではなく?」

 「ふん、確かに、どうもピリピリしてる気がするね。何かあったのか聞いてみよう

 「あ、僕も行くよ」


 ユーリも気になったようで、住人から事情を聞いてみるために離れていった。ファーレも後を追ってついていく。俺達は一旦立ち止まって彼等を待った。


 「うーん、にしてもこの街、モンスターだらけでどうも落ち着かないわね」

 「あ、フィールさんも?やっぱり襲われたらどうしようって身構えちゃうよねー」

 「大丈夫ですよ。従魔なんですから」


 どうどうと街を歩くウルフ系統の魔物を見て、レイナとフィールは少しそわそわしている。

見た目は普通のモンスターと変わらないので、つい身構えてしまうのも仕方無いが、ルシアがいった通り特に気を尖らせる必要は無い。


 従魔と言うのは魔物使いと『従魔契約』と言う特殊な魔術を結んだ魔物の事だ。精霊契約にも似たところがあり、両者はある程度意思疏通が可能になる。

 精霊契約と同じく契約するには魔物の側も心を開いている必要があり、また契約しても行動を強制するような効果は無い。しかし契約が結ばれてる時点でパートナーとの仲は良好であり、基本的に指示を守ってくれるので、理由もなく突然街中で暴れだすような心配はまず無い筈だ。


 「いやーでもさ、本当に従魔契約を結んだ魔物かどうかは見た目からは分かんないじゃん? それにテイマーが下手を打ったら契約が解除されることもあるんだよね?」

 「そうそう、あたしもそんなこと聞いた」


 「おや? お二人は『従魔の首輪』のことはご存じ無いのですか?」


 「え?」

 「へ?」


 よく似た顔で目をパチクリさせる二人。どうやら知らないようだ。魔道具に詳しいルシアはそれを見て、嬉しそうに解説を始めた。


 「従魔の首輪、ですよ。ほら、回りの従魔達はみんな首輪をしてますよね? あれは一種の魔道具になっているんです」

 「へぇ」


 回りを見ると確かに、どの魔物も首輪をつけている。つける箇所は首以外にも腕、足、胴と様々だが、デザインは変わらない。黒が基本でその上にいく筋かのラインが入っている。こちらの色は自由なようだ。


 この首輪は従魔契約がちゃんと交わされているのかを証明してくれるものだ。契約していない魔物につけようとするとすぐに外れる上に、魔物が酷く嫌がる。また、関係の悪化などにより契約が解除されると首輪も自然に外れる。

 この首輪があるならば、その魔物は確実にテイマーが従えていることになる。


 「ふーん、じゃ、首輪つきの魔物は絶対に安全ってこと?」

 「テイマーが悪意のある指示をしたりこちらから刺激したりすれば別ですが、まあ人を襲うことは無いと考えていいのではないでしょうか?」

 「うわあ、それは便利だね。安心したよー」


 関心したようなフィールにほっとしたようなレイナ。魔物がすぐそばにいるこの街の環境は、特に精霊でないレイナにとっては落ち着けないかと思っていたが、この分なら案外あっさりと馴染めそうだ。



 ……と思っていたのだが。



 「あ、ユーリさん、ファーレさん、どうだった?」

 「何か分かったの?」


 街の住人と話していた二人が戻ってきた。彼等は一度顔を見合せ、ちらりと闘技場の方を見る。


 「なんでも、闘技場の辺りで従魔が大暴れする事件があったらしいんだよ。従魔闘技会に出場予定だったらしいんだけど、急に暴れだしたらしい」

 「驚いたことに、今日が例の従魔闘技会の開催日だったらしいんだけどね。今日の朝にそんなことがあったもんだから中止になったらしい。それでお祭りムードから一転、こんな嫌ーな雰囲気になってるんだとさ」


 「ええ!?今日がそうだったの!?しかも従魔が暴れだしたって!?」

 「ちょっとルシア?」


 ぐるり、とルシアの方に振り向くフィールとレイナ。その目は「話が違うじゃん!」と叫んでいる。


 チクチクと痛い視線がささるルシアの方は、冷や汗を垂らしながら言い訳を探す。


 「い、いやいや、あくまであんまり暴れることは無いってだけですし? その、たま~にはそんなこともあったりするんじゃないですか? ほら、ここ従魔たくさんいますし!」

 「あんまりとか言ってたっけ」

 「スイマセン……」


 あっさりと謝ったルシア。いやしかし、降参するには早いんじゃないだろうか。


 「ユーリ、ファーレ、原因は何か聞いているか? さすがに従魔が理由もなく暴れだした訳ではないだろう?」

 「まあね。従魔を盗もうとした輩がいて、そいつが原因で騒ぎになったみたいだ。……気になるなら中央広場に……まあつまりは、闘技場の辺りに行ってみろってさ」

 「闘技場に?」


 ユーリはくいっと親指で闘技場の方を示した。そちらに注意を向けると、耳を澄ませれば幽かに喧騒が聞こえる。


 ついでに「ほら私の言った通りだったじゃないですかー」というルシアの勝ち誇った声も聞こえた。どうでもいい。


 「まあ折角だし行ってみるか。どちらにせよ闘技場は近くで見ておきたかったし」

 「うん、僕も賛成だよ。あの闘技場は近くで見ておくべきだ」

 「お、ユーリはここに来たことがあったのか」

 「あるよ。しかし随分前のことだけどね」


 ユーリが懐かしそうに周囲を見回しながら肯定すると、ファーレが納得顔で頷いた。


 「あーでも確かに、ここの従魔を見ても反応薄かったよね、ユーリは。正直言ってさ、僕はどうも落ち着かないんだよね、この街。……そこかしこ従魔だらけだし、そもそも本当に従魔なのか分かんないし」

 「あ、その話はもう終わりましたよ、ファーレ君」

 「え?」

 「ほら、さっさと行くわよ、ファーレ!」

 「あ、うん……」


 ルシアは二回目の説明をする気は無いようだ。

 俺は苦笑しながら後を追い、ファーレには思考共有を使ってさっきの話を伝えてあげた。


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