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装備と準備

 精霊境のとある場所。

 小高い丘になっており、アースドラゴンの被害を一望できてしまうそこに、その人物はいた。


 見た目だけで言えば二十代半ばくらいの青年。凛々しい顔立ちをしているが、短めの髪はボサボサであり、服の着こなしが軽いのも相まって若干だらしない印象を受けてしまう。


 が、その目には老成した光が宿っており、見た目にそぐわない絶大な存在感を放っている。

 一見カジュアルに見える白を基調とした服も、よく見れば魔法陣が細かく刺繍された高級品だ。



 彼は精霊王。精霊界の統治者である。

 西の精霊境に大きな被害を与えたアースドラゴンの騒動と、畳み掛けるように明らかになった蓄魔器のことは、彼がこの場所に足を運ぶのに十分な理由だったのだ。


 難しい顔で街を眺める彼は、ちょうど自身の孫から事件のあらましを聞いていた所だった。聞けば聞くほど頭の痛くなる話であった。特に蓄魔器については最悪の事件と言っていい。既に各方面に警戒するよう通達をしてある。


 「蓄魔器、か。はぁー全く、帝国もとんでもないものを作り出しおってからに……」

 「どうなさるのですか?お祖父様、対策の方は……」

 「心配しなくていい。さっき他の精霊境にも通達を出しといたからな。これ以上の被害は防げるだろうさ。……だがまあ、既に連れてかれた奴らに関しちゃあ、残念ながらお手上げだなぁ」

 「そうですか……そうですよね……」

 「まあ一応、獣王あたりには相談しとくがな。……まあそれは置いといて、だ。少し話を変えるが……」


 言葉を切ったところで、精霊王はニヤリと笑った。それまでのシリアスな雰囲気や王様としての威厳をどこかに放り投げ、悪戯っ子のような顔になる。


 「アースドラゴンを倒し、更に蓄魔器のことも暴いた子供ってのはどんな奴なんだ?本人が目立ちたくないってなら、下手に接触するのは止めておくけどな……」

 「うーん、それはですね……」


 孫に根掘り葉掘り訊ねる精霊王。話を聞き終わった後、彼の笑みは更に深くなっていた。


 「はーん、なるほどねぇ。凄い奴みてえだな、そのルナって奴は。……本当なら大々的に表彰でもしてやりたいんだがなぁ……」

 「絶対に止めて下さい」

 「分かってるっての。んなことしたらあっという間に帝国に目ぇつけられるだろうからな。……しかしルナ、か。せめてその名前だけはしっかり覚えておくとしようかね」











 「ーーーーって、言ってましたよ、お祖父様が」

 「精霊王の孫娘って……血筋からして凄い奴だったんだな、ルシアは」

 「そんなこと無いですよ。精霊界には王家など存在していませんし……実際は単に、お祖父様が精霊のリーダーをやっているってだけです」

 「でもルシアが上位精霊なのは確実に精霊王様からの遺伝だよね」

 「やっぱり羨ましいわね」


 アースドラゴンが暴れた翌朝の精霊境。

 俺達は屋根の上をこそこそと移動しながら、そんな話をしていた。ちなみに俺はルシアに迷彩の魔法をかけてもらい、他三人は妖精化して俺についてきている。

 何とルシアは精霊王の孫娘であったらしい。しかも知らないところで俺は精霊王と繋がりができてしまったようだ。まあ、権力者と繋がりを持てるのは嬉しいが。


 「まあ、取り敢えず目立たないように配慮してくれたのはありがたいよ。ただでさえこんな状態なんだから」

 「そりゃあんなに派手に立ち回ったら噂になるのは当然でしょ。今更こそこそしても遅くない?」

 「全く遅くない。て言うか今の噂なら何の問題もないよ」


 フィールの言葉に、俺は自信を持って返す。

 彼女が言ったとおり、アースドラゴンを倒した空中を飛び回る少年は精霊境中で噂になっていた。しかし、この噂自体は俺にとって特に困ることは無い。今噂になっているのは「ドラゴンを倒した凄腕の少年」である。この少年と、行方不明になっている王国の王女とを繋げる人などいる筈が無い。


 逆に怖いのは俺の顔を知っている人物がいた場合だ。はっきり言って俺は、城下町の人間に顔を見せる機会が割と多かった。もしルミリナを知っている人に顔を見られて、いつの間にか俺とルミリナが似ている等と言う噂が立ってしまえばそれでアウトだ。そうなってしまえば噂の真偽を確かめんと城から誰かが派遣されるだろうし、タイムリープで戻ろうにもどこまで戻る必要があるのか分からなくなる。それは何としても避けたい。


 やっぱり王国から遠く離れた場所に行くまでは、目立たないのが無難である。


 「顔見られたくないなら、仮面でもつけとけば?」

 「うーん、それはそれで怪しいしな……」


 三人と話していると、すぐにフィールとファーレの家が見えてきた。俺は俺はたんっと少し大きく跳躍し、庭に降りる。 

 到着と同時に三人が妖精化を解いた。扉を開け、さっさと中に入る。先頭はフィールだ。


 「ただいまー」

 「あ、お帰りー」

 「お帰り、……随分と早かったね」

 「そりゃまあ、ルナのスピードで飛び回ったからね、文字通りに……それに防具はまだ見てないし」


 出迎えてくれたのはレイナとユーリのコンビだ。ユーリの家は無事であったが、朝一番にこちらに来ていた。二人ともルシアのことがとても気になっていたらしい。


 ちなみに、俺達が外に出ていたのは買い出しのためだ。買ったものはこれから必要になる食料、俺が使う服、フィール達の日本用の服、ポーションの四点。本当はレッグアーマーが欲しかったのだが、防具を扱う店は入口近くの人通りが多い場所にしか無く、ポーションのように代わりに買ってきて貰うことも出来ないので今は諦めた。



 「ルナ君、それなら買えなかった防具はどうするつもりなの?」

 「夜にこっそり買いに行くよ。フィール達が頼んでくれて、特別に店を閉めた後で買わせて貰えることになったんだ。他の店にも話を通しといて貰えるらしい」

 「夜に? ……ってことは今日はまたここに泊まるの?」

 「うん、精霊境をたつのは明日の朝にするつもり」

 「そっか、ふーん……」


 レイナの質問に俺が答えると、少し思案するような表情になった。それからおずおずといった様子で俺の予定を訊いてくる。


 「ルナ君は、その、ここを出た後どこに向かうつもりなの? もう決めてあるんだよね?」

 「ウェストバルクだよ。ほら、『従魔闘技会』で有名な」

 「ああ、あそこ……」


 レイナが意外そうな顔をした。どうやら知っていたらしい。


 ウェストバルクとはこのミストフラムから歩いて半日と言う近い位置にある街だ。ミストフラムより大きな街であり、また『テイマーの街』として有名である。

 このテイマーとは魔物使いのことだ。彼等は魔物と心を通わせ、魔物と共に戦う。ウェストバルクはそんな人々の聖地とも呼ばれている。

 そして従魔闘技会とは、そのウェストバルクで年に一度開かれる、テイムした魔物同士を戦わせる大会だ。獣王国で行われる武闘大会と共に高い知名度を誇っていて、大勢の人々が見に訪れる。この周辺に住んでいる人なら誰しもが知っている大会だろう。


 「う~ん……ねえルナ君、そこまで私達も一緒に行っても良いかな……?」

 「ん?それは……」


 どうだろう。まぁ、別に良いかな。


 ウェストバルクまでは歩いても半日しか掛からない。本当は天駆で飛んで行くつもりだったけど、歩いたところでそこまで変わらないだろう。


 「駄目、かな……?」


 不安そうな顔になるレイナに、俺はにっこり笑って言った。


 「いや、構わないよ。明日の朝出発で良いなら、一緒に行こう」

 「本当に?やった!」


 パッと顔を明るくしたレイナを見ると、俺の方が不安になる。ウェストバルクを出たら、俺は確実にレイナと別れなければならないのだが、この調子で大丈夫だろうか。


 ……いや、杞憂かな。今のレイナにはユーリがついている。彼がいれば滅多なことは起こらないだろう。



 と、そのとき、頭の中に声が響いた。声の主はルシアだ。


 『あの、ルナさん、ウェストバルクに行くんですか? 私達はてっきりもっと離れた土地に向かうのかと……』

 『あ、すまん、その説明忘れてたな』


 昨日は俺の事情だけ話して、これからの具体的な予定を伝えていたかった。失敗したな。


 『俺もさっさと王国から離れたいけど、その前にウェストバルクだけは行っときたいんだよ』

 『何でですか?』

 『んん、さっき俺が言った従魔闘技会。あれっていつ開かれるか知ってる?』

 『いえ……いつですか?』

 『明日』

 『ええ!?』


 三人とも正確な開催日程は知らなかったようで、目を丸くしている。ついでにファーレには呆れたような表情をされた。


 『ルナ……つまり従魔闘技会が見たいからウェストバルクに寄るってこと?』

 『違うよ。って言うかそれ見るつもりなら明日の朝出発では間に合わんだろ。そうじゃなくて問題は従魔闘技会が終わった後だ。今は観戦のために大勢の人がウェストバルクを訪れているよな。……王国の資料によれば、明日の夕方辺りで、「帝国特務」がその人達を狙って事件を起こすんだ』

 『なっ!?』


 三人の顔に緊張が走った。


 『じゃ、じゃあ、その事件をあたし達で止めるってこと?』

 『ああ。俺はこの先、基本的には帝国特務の妨害を主軸にするつもりなんだ。帝国を四人だけで何とかするのは難しいけど、俺達と同じく少数精鋭らしい帝国特務なら、タイムリープを繰り返す事で止められる可能性が高いだろ?』

 『なるほどね。僕もそれには賛成だな』

 『そうですね』


 ファーレが頷いた。ルシアも納得がいったようだ。


 『まあ、タイムリープがあるから緊張する必要はない。それにコトが起こるのは明日の夕方だ。今はゆっくりしようよ』


 突然俺達がテレパシーでの会話に入ってしまったので、レイナとユーリが不思議そうな顔をしている。俺は三人との会話を切り上げ、レイナ達との話に戻った。

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