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幕間 居酒屋にて

 「イザカヤ?」

 「こっちの世界の食堂だよ」


 この簡潔なルナの返事に、フィールの耳がピクリと反応した。

 そして彼女は、ほぼ条件反射で叫ぶ。


 「なにそれ行きたい!行ってみたい!!」

 「姉ちゃん、落ち着いて。……でも僕も興味あるな、そういうの」

 「わ、私は……まあ良いか……」

 「決定ね!ルナ、早く行きましょ!」

 「はいよ。ちょっと待っててくれ。財布取ってくる」


 フィールは当然大喜び。

 ファーレも特に反対する理由もなく乗り気だ。

 ルナと二人きりで買い出しに行けるかも、と期待していたルシアは少し迷ったがすぐに諦めてこちらも同意。


 ……てなわけで、ルナ達の一行は居酒屋に行くことになった。ちなみにこれが契約成立祝いなのかパーティ結成祝いなのか、はたまたアースドラゴン戦の祝勝会なのかは不明のままだ。しかし誰も気にしない。こういうのは騒げればそれで良いのである。




 



 そんなこんなで数十分後。一行は駅前の居酒屋の一角を陣取っていた。まだ昼間であるため他の客は少ない。

 席まで案内してくれた店員さんがメニュー表を渡してくれる。


 「(では、こちらメニューになります!)」

 「(あ、どうも)」


 「ルナ、何て言われたの?」

 「これがメニュー表だってさ。ここから食べたいものを選んで頼むんだよ」

 「でも僕達じゃ読めないんじゃ……あ、絵が描いてある。……いや、これってもしかして写真か!?」

 「ええっ、それってかなり貴重な魔道具じゃなかったっけ?あたし見たの始めてよ。凄いわねー」


 向こうでは貴重品であるため、フィールとファーレは写真に感動しているようだ。ちなみにこの二人、髪と目の色が変わっている。ルナがルシアに頼んで認識誤認の魔法で変えたのだ。元々金髪碧眼のルシアはそのままで変えていない。


 そのルシアだが、ちゃっかりルナの横をキープしている。まだアルコールが入っていないのに顔が若干赤いのはそれが原因だろうか。多分そうだな。



 「さっきのお店の人、少し不思議そうな顔をしてましたね。怪しまれてしまったんでしょうか?」

 「まあ、服がちょっと変わってるからな……」


 ルシアの言葉に、ルナは苦笑しながら答えた。

 ルナは当然日本で一般的な服装だが、他の三人は精霊境の服を着ている。一応彼等が持っている服から、出来るだけ日本にいても違和感の無い物をルナが選んだのだが、それでも少々浮いている。


 「精霊境に戻ったら、こっち用の服を買った方が良いでしょうか?」

 「そうだな。精霊境の物しか駄目なんだろ?」

 「駄目とは言いませんけど、妖精化のときは困りますね……」


 精霊は自分の体と同じ様に他の物も魔素に変えてしまう能力を持つが、これは精霊界の物限定だ。日本の品物を向こうに持っていけるかも、と思っていたルナにとっては残念な話である。


 「でも、何にせよ便利な能力だよな。アイテムボックス要らずで」

 「でもこれ、持ちすぎると魔力を喰うんだよね。特に姉ちゃんとか、自分の大剣を持ち歩いてるから、どうしても服の数とか他のを減らさないといけない。……まあ、どうせ僕とルシアに手伝わせるつもりだろうけど」

 「うっ、それは……」


 言葉に詰まり視線を逸らすフィール。どうやら図星のようだ。


 「す、少しくらい手伝ってよ……。ほら、ルシアは要らないガラクタとかいっぱい持ち歩いてるじゃない」

 「が、ガラクタじゃないですよ!フィールちゃん!」

 「まだアイテムボックスには空きがあるから、俺が持っても良いけど……ガラクタって?」

 「はっ、あ、あのですね、ルナさん……」

 「ルシアは魔法とか魔道具の研究が趣味だから、自作の変な魔道具を色々持ち歩いてるんだよ」

 「へ、変なって何ですか!?」


 普段は色々言われてもあまり気にしないルシアだが、ルナが隣に居るため、けっこう焦って否定する。それにしてもガラクタは酷い。


 「……ルシアいつもより強く否定するね」

 「えっ、いやそんなことは……」


 ファーレに言われ、ルシアは更に顔を赤くした。

 これ以上余計な事言わないで!と念を送るルシアだが、ファーレには届かない。

 が、ファーレが更に何か言う前に、ルナから質問が来た。


 「しかし自作の魔道具ね……。どんなのを持ってるんだ?ルシア?」

 「あっ、ご覧になりますか?ルナさん!」


 ファーレに懐疑の目を向けられ、あたふたしていたルシアは、ルナの助け船に勢いよく飛び乗った。素早く机の上に手をやり、パラパラと自作の魔道具を取り出す。

 あっという間に机の上が怪しい道具で埋まった。


 「おー、結構たくさん持ってるんだな」

 「いや、こんなのほんの一部だよ。上位精霊は持てる量も僕達とは桁違いだし」

 「ふうん……どういう使い方なんだ?これ?」


 どっかのネコ型ロボットみたいだ、と思いながらルナが魔道具をつつく。もっとも、彼自身もファラリアではアイテムボックスを持ってるあたり、あまり人の事を言えないが。


 訊かれたルシアはルナが気にしている物ではなく、その横にあった魔道具を指差した。何だかんだで自作の魔道具を紹介できるのが嬉しいのか、弾んだ声で説明を始める。


 「えーっとですね!ほら、例えばこれは身に付けておくと不意の攻撃をある程度防いでくれる効果があります!」

 「へえ、自動で防御してくれるのか」

 「あれ?ルシアにしては普通で役に立ちそうな魔道具だね」

 「これ、一番役立ちそうなのを選んだのねよね、ルシア。他は変なのばかりじゃない」

 「ファーレ君!フィールちゃん!……もうっ!!」


 どこまでも邪魔する姉弟にルシアは頬を膨らませた。

 ちなみに、このルシア渾身の防御用魔道具だが、これに対するルナの感想は「タイムリープあるから不意討ち対策は要らんな」だった。完全にミスチョイスである。


 と、そのとき、



 「(失礼します、ご注文はお決まりで……え?)」



 声が聞こえたので振り返ると、店員さんがおしぼりとお箸を持ってやって来ていた。彼女は机の上に出された謎の道具を見て固まっている。


 これに慌てたのはルシアだ。


 「あ、すいません。片付けます!」

 「あ、ルシア待った!それはまずい!」

 「え?わっ!?」


 ルシアはとっさに机の上の魔道具を片付けようと手を出したが、その手首をルナが掴んで止めた。


 「わっ、わわっ!ルナさん!?」

 「今消すのは駄目だよ。(あ、すいません。すぐに片付けますので!)」

 「(は、はい……こちら、おしぼりとお箸になります……)」


 視線が完全に机の上に向いてしまっていたが、店員さんはそれでも営業スマイルを崩さずに戻っていった。


 残された四人は若干気まずく顔を見合わせる。

 

 「……怪しまれてしまったでしょうか?」

 「……まあ確実に。でもタイムリープの必要までは無いだろ、たぶん」


 道具を消しながらのルシアの質問にルナは少し迷いながら答えた。ちなみに彼等は全員手ぶらで来店している。道具の出どころを考えると、本当は怪しいを通り越してミステリーである。



 その後、気まずくなった空気を最初にぶった切ったのは、食い意地の張ったフィールだった。


 「ま、まあ取り敢えず注文しましょ!あたしはこのページ全部ね!」

 「そうだね。さっさと注文を……えっ?姉ちゃんもう決めたの?」

 「へえ、一番かかりそうだと思ってた奴が以外と早かったな。……俺は無難に日替わりランチで良いや」

 「う、う~ん、私はちょっと迷いますね……」

 「僕も……」


 メニュー表とにらめっこしながら唸るルシアとファーレ。フィールとルナは少し暇になった。

 いち早く決めたフィールの方はおしぼりとお箸に気を引かれたようだ。特に箸を見て眉を寄せている。


 「ねえルナ、こっちのは手を拭く布よね?じゃあこの木の棒は何?」

 「割り箸。この国ではスプーンやフォークよりもこれを使って食事をすることが多いんだよ。ほら、こんな風に……」


 ルナはパキリと割り箸を割り、手に持って物を挟む動作を実演する。フィールは目をきらきら輝かせてそれを見ていた。どうやらかなりお気に召したらしい。


 「それで食べるの?変わってるわねー。ねえねえ、あたしもやってみて良い?」

 「良いけど、初めての人には難しいと思うぞ」


 そう言いながらもルナは割り箸をフィールに渡し、持ち方を指示し始めた。フィールは新しい玩具を貰った子供のような顔で箸を持つ。

 しかしファーレはこれを見て呆れたように溜め息をついた。


 「無駄だって。忘れたの?姉ちゃんは……」


 バキッ

 「あ、」

 「(ひゃっ!?)」


 「ウルトラ無器用なんだから……ん?」



 席の外からも声が聞こえた。


 まさかと思って通路側の席にいたファーレが振り返ると、そこに居たのはやっぱり先程の店員さん。

 四人分のお冷やの乗ったおぼんを持っているが、その営業スマイルはひきつっている。その視線の先はフィールであり、より正確に言えばその手の中の粉砕された割り箸だ。

 


 「………………」



 時が止まった。

 さっきと同じ様な気まずい雰囲気がこの場を支配する。

 フィールが視線を泳がせながら手を見えない位置に持っていく。



 「(え、えーっと、お冷やをお持ちしました……。ご注文はお決まりでしょうか……)」


 それでもすぐに立ち直り仕事に戻る店員さん。大したプロ根性である。声が若干震えていたが。



 「し、失敗したかしら……こっちの世界では今のって変だった?」

 「まあ、変だったかな……せめてフィールがゴリラっぽいマッチョな奴だったら凄いで済んだかもしれないけど」

 「え?ルナは姉ちゃんがゴリラじゃないと思ってるわけ?」

 「ファーレ!あんたねぇ!!」

 「いや、中身じゃなくて見た目の話」

 「ちょ、ちょっとルナまで!?」


 フィールがショックを受けたような顔をしたが、ルナは構わず注文を始めた。

 フィールの分と自分の分に加え、ルシアとファーレの分も既に決めた物から頼んでいく。


 が、注文し終わった後店員さんがフィールをちらりと見てルナに訊いてきた。


 「(あの、ビールは四人前でよろしいですか?その、失礼ですがこちらの方も飲まれるので……?)」

 「(あ、はい。彼女は小柄ですが既に成人してますから)」

 「(そうでしたか、失礼しました)」


 フィールは見た目の年齢は十三、四歳くらいだ。しかし店員さんはそれ以上追求せずにお辞儀をして去っていった。もしかしたら指摘するのが怖かったのかもしれない。



 このやり取りは当然日本語で交わされたため、店員さんが居なくなるとすぐに、フィールはルナに通訳を頼んだ。


 「さっきあの人、あたしの方見て何か言ってたわよね?何て言ってたの?」

 「いや、単純にフィールもお酒を飲むのか聞かれただけだよ。この国ではお酒は成人してからって決まってるんだ」

 「あー確かに、姉ちゃんは十五歳以上には見えないよね」

 「うるさいわね。小柄なのは生まれつきでしょ!?」


 ファラリアでは十五歳で大人と見なされるのが一般的である。

 背の低さや童顔を気にしていたのか、フィールはそっぽを向いてしまった。ただし机の下でファーレの脛を蹴るのは忘れなかったが。


 その様子を見ていたルナはふと疑問が湧き、それを何の気無しに口にした。してしまった。


 「そう言えば三人は何歳くらいなんだ?精霊だから歳とかとらないんだよな?」

 「えっ!?」

 「う、それは……」


 ルナに年齢を訊かれて口ごもったのはフィールとルシアだ。女の子としては少々答えずらい質問である。特に恋する乙女にジョブチェンジ済みのルシアにとって、ルナとの年齢差は重要な問題なのだ。


 「ル、ルナさん、それはちょっと……」

 「う~ん、悪いけど、秘密ってことにしといて欲しいわね……」

 「あ、すまない、女性に対しては無神経な質問だったかな」


 ルナは老化や寿命の無い精霊でも年齢を気にすることを察し、即座に謝罪する。見た目十代の三人でも割と高齢である可能性もあるのだ。答えたくないこともあるだろう。


 が、もちろん男性であるファーレにはそんなこと関係ない。

 なので、


 「別に気にするような歳でもないし、そもそも年齢なんて僕達にとってはあんまり関係ないじゃん。あ、ルナ、ちなみに僕の年齢は

 「バカ!あんたが言ったらあたしの歳までバレるでしょーがっ!!」


 バキィッッ

 「うぎゃっ!」

 


 不用意な事を言いかけた双子の弟に、フィールの鉄拳制裁が突き刺さった。座った姿勢ながら体を捻る事で速度が増した拳は、アッパーカット気味にファーレの顔面……というか顎に命中し、彼の体を後ろに吹き飛ばす。

 その勢いはフィールの怪力も相まってかなり激しい。具体的には、通路を挟んだ向かいの席まで届きそうなくらい。


 「わっ!?ちょ、待っ……」


 ルナが慌てて制止の声をあげるが、反対側の席に座っているルナとルシアには止める手だては無い。


 ……と、思いきや。


 ガンッ

 「へぶっ!」


 吹っ飛んでいったファーレが突然急停止した。まるで何かにぶつかったように痛々しい音が響き、ファーレが呻く。


 「え、止まった?」

 「壁?あ、もしかして!」


 もちろん席と通路の間には何も無いが、フィールは何かに気付いて、視線を前に戻す。するとそこにあったのはでかい胸を張ってどや顔をしているルシアの姿。彼女は腰に手を当てて得意気に笑う。


 「ふふふ、フィールちゃんが何かを壊すのはいつもの事ですからね……こーゆーこともあろうかと、あらかじめ魔法障壁を設置して即座に起動出来るようにしておいたんですよ! ルナさんに迷惑は掛けれませんからね!」

 「いつの間に……ナイスね、ルシア!」

 「慣れてるんだな、ありがとう」


 自慢気に種明かしをするルシア。ルナに誉められたことで更に調子に乗って話を続ける。


 「それだけじゃ無いですよ! この周りのテーブルや壁には一応対衝撃術式をしこんでます! 他にはフィールちゃんの暴走魔法対策に防火、対爆、更には……」

 「あんたあたしを何だと思ってんのよ」

 「……ど、どうせなら……僕が殴られる前に防いでくれよ……」


 姉弟二人からクレームが来た。もちろんルシアは気にしない。ルナから来なければそれでいいのだ。


 しかし彼女が笑ってられたのもそこまでだった。



 「(あ、あの!……ビール……お、お持ちしましたっ!)」


 部屋の外から聞こえてきたのは、勇気を振り絞りました!ってな感じの若干裏返った声。


 「!」


 ビクッと体を縮めた一同が恐る恐る目を向けると、そこに居たのはやっぱりと言うか、ビールをおぼんに乗せた店員さん。顔を青くして、その目はもはや客と言うより宇宙人とか幽霊でも見たような顔だ。考えように依っては間違って無いかもしれないけども。


 「(し、失礼しますっ!)」


 店員さんは素早く四人分のビールをテーブルに置き、逃げるように立ち去っていった。

 そんな状況でも営業スマイルをギリギリ保っていたのは凄いが、追加注文を訊ねる余裕までは無かったようだ。


 そして後に残るのはやっぱり気まずい空気。


 「うわあ、見られた……。人が思いっきり殴られて、漫画みたいに吹っ飛んで、そんでもって見えない壁(魔法障壁)にぶつかるの見られた……そりゃ怯えるよな……」

 「な、何なんだよあの人……やたらと間が悪いな……イテテ」

 「うう、ごめんなさい、ルナさん」


 愚痴ったり反省したりする面々だが、ここにKYが一人。


 「あ、もう一つ食べたいのを見つけてんだった。頼むの忘れてたわね。ルナ、あの人もっかい呼んで」

 「うわ、容赦無いなフィール」

 「姉ちゃん空気読んでよ、もう」


 周りに呆れられてもフィールは気にしない。やがて哀れな店員さんを強制召喚してしまう呼び出しボタンが押されてしまうことになった。

 なお誰がボタンを押すかで軽い喧嘩があったが、異世界にもきっちり存在している平和的解決手段、ジャンケンによって結局フィールが押した。


 「ボタンを押すと店の人が来てくれるのね。わざわざ叫んだり頼みに行ったりしないで済むのは嬉しいわね」

 「料理は美味しいですし、お店は綺麗ですし、メニューはたくさんあって写真つき。異世界の食堂って凄いですねー」

 「まだ料理は来てないけどね……しかし大丈夫かな?ルナ、今は何か、この世界で不自然な事になってたりしないよね?」

 「大丈夫だよ。まあ大人しくしてれば何も起こらんだろ」


 一応タイムリープをすれば振り出しに戻れるけど、また待つのも面倒なのだ。取り敢えず変に行動を起こさなければ、これ以上は大丈夫な筈である。

 

 「大人しくね……ルシア、あんたオート反撃の術式とか仕込んでないでしょうね? 一応全部解除しといたら?」

 「さ、さすがにそんな危険な物を使ったりはしてませんよ!」

 「ん~でも一応、余計な術式は外しといたら?この世界には魔法は無いらしいから、あまり人前で使わない方がいいかもよ?」

 「そうでしょうか……」


 口を尖らせ、少し名残惜しそうにしながらも術式を解くルシア。当然わざわざ杖を取り出すようなヘマはしない。

 が、


 「ふう、解除完了……」

 「ん!? ま、待てルシア!フィールとファーレの髪が!」

 「え?わっ!?元に戻ってるわよ!?」

 「ちょ、なにやってんのさルシア!?」


 なんと、認識誤認の魔法で変えていた二人の髪と目の色が元に戻っていた。ファンタジーな鮮やかな色は日本に来るとやたらと目立つ。


 「し、しまったっ!全部解除って言われたからついそっちまで……」

 「な、何でもいいから早くかけ直してよ!早くしないとまた来るぞ、あの人!」

 「はっ、ヤバイ足音がっ……」


 ルシアが急いで魔法をかけ直すが時既に遅し。抜群の間の悪さを持つ店員さんは色が変化する直前という最悪のタイミングで現れた。


 「(し、失礼しま…………!??)」


 店員さんの目に写ったのは、変な光と共に一瞬で髪と目の色をチェンジする謎の外国人。これは色々と決定的である。ウィッグです、などという言い訳は通用しない。


 「(……………っ!!!)」


 ダダッ!


 店員さんはそれ以上何も言わずに店の奥へ逃げてしまった。無理も無い事である。


 「……行っちゃったわね」

 「………………はぁ、何でこうなるかな?」

 「すいません、ルナさん……」

 「……で、この後どうすんの?」






 で、その後。


 結局は別の店員さんが対応することになった。後輩が失礼しましたと何度も頭を下げる女性にルナ達はかなり恐縮したが、それ以降は特に怪しまれるような事もなく楽しむことが出来た。気を付けていれば変な偶然はそうそう起こらないものである。




















 ……でもって。


 ルナ達が帰った後、店内では間の悪い店員さんがルナ達のテーブルの片付けをしながら溜め息を吐いていた。


 彼女にとって今日は色々と大変な日であった。怪奇現象を起こす四人組の客が怖くなり、休憩中の先輩に頼み込んで代わってもらったのだが、特に何事もなく終わったらしい。「外国人だったけど通訳いたから楽勝じゃん」と言われて少し怒られてしまった。



 「ハア、何だったんだろ、あのお客さん」


 もしかしたら手品師の集団だったり、ドッキリ番組の収録だったりしたのだろうか。いやしかし人が空中で跳ね返ったり髪と目の色が突然変わったりしたのはどう考えても謎だ。自分でも何言ってるか分からない。見間違えだと信じたくなる。


 「バイト先変えようかな……」


 もしあの人達がお得意様になるなら、自分はまともに接客できる自信がない。特に割り箸を握り潰し、隣に座ってた人を体が浮くぐらい強くぶん殴った小柄な少女が恐くて仕方ない。


 「しかしよくもまあこんな量を……ん?」

 

 ぶつぶつと愚痴りながら後片付けをしていた彼女は、そこでテーブルの下に何かが転がっているのに気付いた。拾い上げてみると、時計のような見た目のよく分からない機械だった。何とも変わったデザインだ。大きさは小皿と同じくらい。


 「なにこれ? 忘れもの?…………あ、」


 カチリ


 指がどこかを押してしまったようで何かのスイッチが入ったような音がした。そして次の瞬間、




 ……ズボッという嫌な音と共に、六本の黒い足が生えてきた。




 「ぎゃあっ!」


 思わずガチな悲鳴をあげてそれを取り落とす店員さん。しかし、まだそれだけでは終わらなかった。その気味の悪過ぎる物体は、床につくかつかないか辺りのタイミングで、


 「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーー」

 「な、な……」


 突如として金切り声とも金属音とも言えないような声を上げながら、店の中をまるで蜘蛛のように這い始めた。そのまま猛スピードで辺りを這い回りながら、騒音を撒き散らし続ける。それは動き、音ともに、非常に嫌悪をもよおすモノであり、


 ……ここら辺が彼女の限界だった。



 「ギャワアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーー」

 「きゃああああああああぁぁぁっっ!!」




 このとき、彼女は深く決心した。

 もう、このバイトやめようと。






















 ……ところ変わってこちらはルナ一行。


 「あれー?ない?なんで?」

 「どうした、ルシア?」

 「いえ……魔道具が一つ無くなってて……」

 「え?何が無いんだ?」

 「フィールちゃん用の目覚まし時計です」

 「フィール用?何だそれ?」

 「いつも寝ぼけて目覚まし時計を破壊するフィールちゃんのために、部屋の中を逃げ回る目覚まし時計を作ったんですよ」

 「へぇ、……さっきの店に落としたのかな?」

 「そうですね……」

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