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未来の情報

 クエストオブフェイリアワールド。

 このゲームは主人公が聖剣に選ばれた勇者として、『聖地』に召喚されるところからスタートする。

 

 ゲーム開始の時点で、既に世界は九割方が魔王率いる魔族軍の手に堕ちている。残っているのは王国だけ。そんな絶望的な状況から主人公が各地で魔族軍を倒し、土地を奪還していくのが大まかなストーリーだ。まぁ王道である。

 勿論ストーリー上のラスボスは魔王だが、こういうRPGゲームの常としてストーリー攻略後に戦うことになる裏ボスが存在している。それが『邪神ゼオン』だ。


 クリア後に行ける魔王城の更に奥のエリアに封印されており、主人公が訪れると「ようやく忌まわしき封印が解けたわ……」とか言って見計らったようなタイミングで復活する。


 そして「実は魔王を操っていたのは俺様なのだー」とあっさりと衝撃の事実をカミングアウトし、「不甲斐ない奴らめ、こうなれば俺様直々に世界を暗黒に沈めてやるわーまずは貴様からだ勇者ー」てな感じで襲いかかってくる。

 そして勇者のレベルが高いと返り討ちに会う。


 設定的には全ての黒幕であり確かに強いが、ストーリーには絡まず出番はここだけと言う可哀想なお方だ。やっつけ感が半端ない。所詮はクリア後のやりこみ要素である。魔王操ってました発言についてもそれまでの伏線は無いに等しく、ただ単に強敵であることを演出したかっただけと思われる。



 ……とまあこれがゲームにおける神様の扱いである。この世界が現実になってしまった以上、この裏ボスも存在している可能性がある。一応注意しておくに越したことはないだろう。


 俺はゼオンのことも含めて、この世界とゲームのことを三人に説明した。

 もっとも、三人はそもそもゲームと言う言葉自体にピンときてないようだった。


 「ふうん、このゲーム?ってのが、俺達の世界と同じなのか。そもそもゲームってのが何なのかよく分からないんだけど」

 「そうだな……うーん、ちょっと違うけど今は小説と似たような物だと思ってくれてもいいよ」

 「小説ですか? 不思議ですね、私達の世界とどう関係があるのでしょう?」


 それは分からない。ゲームの世界が現実に!という小説はちょこちょこと見かけたが、どれも特に理由が説明されなかったり神様の悪戯だったりとどうも具体性に欠ける。本当に謎だ。

 ルシア、ファーレと共に三人で首を捻っていると、ゲームのパッケージを見ていたフィールが胡散臭そうにそれを軽く叩いて言った。


 「そもそも本当に魔族が征服とかするの? 帝国の間違いじゃない?」

 「それは本当に起こることだよ。それを阻止するために俺はタイムリープしてきたんだから。……でも確かに、ゲームと違う部分もあるんだよな」

 「ふうん、どんな?」

 「あー、そうだな、じゃあ次は俺が三年後の城で仕入れた情報について話すよ。……ところでフィールはさっきからずっとパッケージのタイトルの面を見てるよな?どうしたんだ?」


 フィールはクエストオブフェイリアワールドとアルファベットで書かれた表面を見て首を傾げている。俺が訊くと彼女は、タイトルの背景の部分を指差した。


 「ううん、別に大した事じゃないんだけど……ここのとこ、文字みたいなのが書かれてるじゃない? これファラリアの共通文字に似てるなーって思って。読めないけど」

 「ああ、言われて見ればそうだな」


 背景に幾何学文字みたいなのがびっしりと書かれているのだが、これが向こうの文字と似ていた。読めないけど。

 やっぱりこのゲームとファラリアとは何かしらの関係があるのだろうか。


 「まあゲームの事は一度置いといて、だ。次は俺が知っている三年間で何があったかを話そうと思う。いいよね?」

 「ああ、いいよ。僕も何で魔族が世界征服とか始めたのか知りたいし」

 「いや、世界征服とは少し違うんだよな、これが。まあ順を追って説明するよ」


 俺はルーズリーフを机の上に広げ、簡単な地図を書き始めた。

 ファラリアで俺達が住んでいる大陸は若干横に長いラグビーボールのような形をしている。細かく書く必要もないので紙にそのままラグビーボールっぽい輪郭を書き、そこに主な国を書き足していく。


 その中でで大国と言われるのは四つ。王国、帝国、獣王国、魔王国だ。


 王国は俺の故郷であり、気候や土地に恵まれた平和な国だ。大陸の西の一帯を占めている。


 帝国は北にあり、寒さの厳しい風土を持つ。そのため昔から暖かい土地を求めて戦争を起こすことが多い迷惑な国だ。


 獣王国は獣人達の国であり、南に位置しているため温暖な気候を持っている。場所によっては砂漠やジャングルもあるが、農業は盛んで活気のある国であり、帝国のような問題のある国ではない。


 さて問題の魔王国なのだが……実はこちらも特に問題のある国ではない。大陸の東にあり、気候は王国とそこまでの違いはない。国の更に東側には広大な不毛の大地が広がっているが、それを除いたところで十分な土地を持っており、周辺国との関係も良好な筈だ。


 そしてこの東西南北の四ヶ国に囲まれた大陸中央部にその他の中小国家が位置している。




 「さてと、こんなものか」


 俺は使っていたペンを置き、顔を上げた。


 「それじゃ始めるか。……言っとくけど、今から話すのは俺が何もせずに王国の城でのほほんと暮らしていた場合の未来だ。既に俺は行動を変えているから、未来の方も変わっている可能性がある。そもそも変えるのが俺の目的だからな、決して確実な情報ではないことを念頭に置いて聞いてくれ」


 俺は一旦深呼吸してから、本題を話し始める。


 「まず、さっきは魔王国が攻めてきたって言ったけど、一番始めに問題を起こしたのは帝国なんだ」

 「あ、やっぱり?」 

 「うん、やっぱり。きっかけはもう分かってると思うけど、蓄魔器だよ。あれによって帝国は大きく軍事力を増した。その力で南にある国々を次々と侵略していったんだ」

 「うーん、蓄魔器があると、そんなにも変わるものなのか? いや、蓄魔器の有用性は分かってるつもりだけど……大陸中央部の国家群も、けっこう力を持っていたよな?」

 

 ファーレは腑に落ちない、といった感じだ。実際、帝国の近くの国家群は長らく帝国の侵略を退けてきた実績がある。

 俺は図の帝国から中央の国家群に向けて侵略を表すつもりで矢印を引っ張り、先を続けた。


 「人の魔力量を増やす以外にも、魔道具の性能を大幅に向上させたらしい。けどまあ、今回は以前よりもかなり早く精霊達に蓄魔器の危険性が伝わったからな。これ以上精霊が捕まらなければ、前ほどの力を持つことはない筈だ。……でも、帝国の侵略が上手くいった理由はもう一つある」


 「もう一つ?」


 「ああ、それが『帝国特務』と呼ばれる連中だ」



 

 帝国特務。

 神出鬼没で、姿なき災禍とも、新手の災害とも言われた謎の存在。


 見えないドラゴン、オースの呪い、街喰らい、悪食幽鬼、ゼオンの天罰等々、多数の異名を持ち、正体不明の怪異として畏れられたが、正体は他国で破壊活動を行うテロリストのような集団らしい。

 構成人数は少ないが各々が特殊な技能を持ち、各地で大規模な破壊行為を行った。これによって国家群の国々を混乱に陥れ、帝国の侵略を手助けしたのだ。


 とんでもない奴等であるのは確かだが、行った事についてはどうも信憑性が薄いものもある。



 「いまいち正体が掴めなくて謎が多い連中なんだが、どうやら帝国の正規部隊ではないらしい。いってみれば傭兵に近かったみたいだ。こいつらが国家群を混乱させ、それにつけこんで侵略を進めて行ったみたいだな。まあ、それにしてもよく分からない事が多いんだが」


 国家群の所に帝国特務→疲弊、混乱と書き加える。



 俺はそこで一旦、三人の顔色を伺った。帝国特務についてはまだ伝えておくべき情報がある。彼等にとっては辛いことかもしれないけれど、知っておいた方が良い。



 「あ~、それから確証はないんだけど、一応言っておくよ。……この帝国特務には、リネッタが加わっているかもしれない」

 「!!!」


 俺が少し遠慮がちに発した言葉に、三人が身を強張らせた。


 「リネッタが?本当なんですか?」

 「可能性があるってだけだよ。……帝国特務が起こしたと思われる事件の一つに、街中に突然大量の魔物を出現させたってのがあるんだ。帝国特務の情報にはどうも眉唾物の信じられないような事が多いから、これも何かの間違いだろうと思ってたんだけど、もしかしたら……」

 「確かに、リネッタなら可能だろうな」


 ファーレが複雑な顔で肯定した。

 他二人も同じ様な表情だが、特にルシアは見てられないくらいに悲痛な顔をしている。


 「……もしリネッタがその帝国特務にいるなら……今回の事もその人達に指示されたんでしょうか……?」

 「そうだな、その可能性は高いんじゃないか?西の精霊境が被害を受けて機能しなくなれば、契約待ちの精霊が北に流れるだろうし、北での精霊の失踪が目立たなくなると思う。帝国にとっては得だろう」


 ……いや、それでも理由としては弱い気がするな。正直言って俺が居なかった所で、あのアースドラゴンは精霊境の機能が停止するまでの被害を出す前に倒されただろう。実際城の資料には特に記述は無かった。何か別の狙いや目的があったのだろうか?


 ルシアはリネッタが他人に命令されていたと聞いて、少し気が楽になったようだ。余計な事は言わないでおこう。




 「あの、少しいいですか? ルナさん」


 そのルシアがおずおずと手を上げた。


 「何だ?ルシア」

 「あの、ルナさんの持っている情報は三年後の王国が持っていたものなんですよね? あの、その割りには随分と分かってる事が多いような……?」


 なるほど。確かに、正体不明だとか姿を見せないとか言っといて不自然だったよな。


 「まあ理由は簡単だよ。王国に帝国からの亡命者がたくさん来て、その人達が教えてくれた情報なんだ」

 「なるほど、亡命者が出たんですか……え?たくさん?」

 「ああ、たくさん来たよ。と言うのもだな、帝国が中央部の国家群を大体半分……いや、三分の二くらいか。そのくらい侵略した頃になって帝国でクーデターが起きたんだ」


 「ええっ!?」

 「なっ、クーデター!?」


 「そう。で、起こしたのは帝国の第二皇子だよ。彼は帝国の人間としては異端で、異種族の差別に反対していたらしい。帝国が覇道を歩む中で、数知れずの獣人や魔人が迫害されたからな。それをなんとかしたくて、革命を起こしたんだとさ」


 「そ、それで、どうなったんですか!?」


 「結局勝ったのは現皇帝。革命は鎮圧されたよ。でも、帝国の側もただでは済まなかった。第二皇子の革命軍は侵略された国の兵士や帝国に恨みを持つ異種族達を吸収していて、かなりの力を持っていたらしい。しかも王国や獣王国から支援も受けていた。それと戦った結果、帝国は大きく疲弊し、また戦場となった国家群もボロボロになったんだ」


 俺は記憶にある戦場となった部分に斜線を引き、更に駄目になったってことでバツ印を書く。大体大陸の中央から帝国にかけてかなり広範囲に斜線が引かれている。


 「この部分が戦争で大きな被害を被った地域だ。期間としては短い間だったけど、とても激しい戦いだったらしい。大勢の人々が死に、たくさんの街や村が滅んだ……まるでこの世の地獄のような、凄惨な戦争だったそうだ」

 「そんな……」

 「俺の目的は王国を救う事だけど、この戦争についても、出来ればなんとかしたいとは思ってるよ」


 俺は斜線部分をペン先でつつきながら呟いた。

 他三人は絶句。空気がずっしりと重くなる。


 ファラリアの未来は、思わず目を背けたくなるほどに酷いものだった。

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