タイムリープの制限
「よし、そろそろ良いか? 本題に入りたいんだけど」
俺達が雛巳家にやって来てから約一時間後、三人が落ち着きだした頃を見計らって声を掛けた。
家の中はたったそれだけの時間でかなり大変な事になっている。テレビはバラバラになり、机の上にはインスタント食品や冷凍食品の袋や食器が散乱している。
フィールもファーレも、やっていいのかはちゃんと確認してくるが、許可を出してしまえば遠慮は無かった。こういうことは姉弟で似ている。好奇心って恐い。
ちなみにルシアは本棚が気になっていたようだが、当然読めなかった。
「……部屋移動しようか。机の上がこれじゃ落ち着かないし」
「え?あたしもう少し食べたい」
「まだ食う気か。お菓子の袋持ってきて良いから取り敢えずこっちへ来てくれよ」
フィールが大量の袋を抱えて立ち上がった。スナック菓子を筆頭にチョコやら飴やらをたくさん持っているが、勿論これ全部が元々家にあった訳ではない。さっき俺が近所のスーパーまで走って買い足したのだ。
フィールの摂取カロリーやウエストが不安になってくるが、やはり精霊には肥満も無いのだろうか?
「すいません、ルナさん。部屋が酷い事に……」
「大丈夫だよ。どうせタイムリープを使えば無かった事になる」
「そうですか……」
ルシアはそれでも少し心苦しそうだが、本当に問題は無い。タイムリープがあるのですぐに元通りに出来る。例え家が倒壊したり全焼したりしたところで痛くもかゆくもないのだ。我ながらイイ感じに感覚がズレていっている気がする。
菓子の袋を抱えて幸せそうな姉の様子を見たファーレが、心底羨ましいといった表情で俺に訊いてきた。
「便利な能力だよな。本当に制限とか無いのか?」
「さっきも言ったように、タイムリープで得た情報は他人には伝えられない。これが一番厄介な制限だな。けどまあ、一応他にも制限はあるかな」
「へえ、どんな?」
「まず五歳くらいから前にはたとえハッキリと覚えてても跳べない」
「ああ、そう言えば五歳の時にこっちの記憶を思い出したんだって?」
ファーレが顎に手をやりながら言った。
確かにそう言うことなら何の不思議も無いんだけど、少し違う。
「それなんだけどな、何故か日本の啓太の方でも五歳くらいより前には行けないんだよ」
「はあ?なんで?」
「さあ?」
理由は俺にも分からないが、ルミリナにも啓太にも、その辺に戻れる限界がある。ルミリナは分かるのだが、何故に啓太もそこが限界なのか。どうもよくわからない。脳の発達が未熟だから、とか?
「他には?」
「んん、能力の制限ならこれくらいしかないと思う。あーでも、一応他にも制限を受ける場合が一つ、あると言えばあるかな。かなり限定的だけど」
「と言うと?」
「王国の『聖地』のことを知ってるか?」
「ああ一応……」
王国の聖地。名前はユースグランド。王国の西の端にあり、伝説の勇者召喚の聖剣が眠っている場所だ。魔族に城を追われた俺達が避難した場所でもある。
そしてこの場所、単に聖剣があるだけで聖地と呼ばれている訳ではない。神が創った土地と言われるユースグランドには、一つとても大きな特徴がある。
それは『魔法、スキル、ギフト、魔道具、その他魔力を使うもの全ての禁止』。
ユースグランドにはそこその大きな街があり、その中心にある小高い丘の上に転移門が置いてある神殿があるのだが、この街では魔法やスキルといった魔力を使う技術が一切使えないのだ。
この特徴のお陰で聖剣の守りは非常に堅い。この世界には一騎当千の実力者が大勢いるが、ユースグランドではその誰もが弱体化し、兵の質よりも量や素の強さが重要になる。
そのためいつも厳しい訓練に耐え、転移門でいくらでも兵を補充出来る王国軍はこの土地ではかなり有利になる。城を追われた時の避難場所になったのはそういう理由もあるのだ。
「聖地では魔法とかスキルなんかと一緒に魔道具とかギフトも使えなくなるんだよな?つまりそこではタイムリープも使えないのか」
「一応制限は受ける。けどあんまり関係無いんだよな」
「何でだ?」
「確かにユースグランドではタイムリープは使えなくなるよ。でも制限に穴があるから全く困らない」
「穴が?」
「ユースグランドではタイムリープが出来ないしユースグランドの中へタイムリープすることも出来ない。でもなあ、こっちの世界には問題なくタイムリープ出来るんだよな」
「え?じゃあ……」
「一度日本を経由すれば何の問題も無くタイムリープを使えるよ」
「……超意味ないじゃん」
「まあね……」
タイムリープ能力に穴は無い。本当に無敵の能力と言っても良いのではないだろうか。
「ねぇ、ちょっといい?」
「ん?」
次はフィールか。
「ルナのギフトは過去に戻れるのよね? でも未来にも行けちゃってるような気がするんだけど」
「ああ、確かに時間的には未来に行けるように見えるかもね。でもタイムリープはあくまで俺の覚えている地点に跳ぶ能力なんだ。だから俺の主観での過去に行けるだけで、俺の知らない未来には行けないよ」
「ふうん」
「正確に言えば時間を戻してるんじゃなく、俺が覚えている特定の時間をコピーして今の時間に貼り付けているらしい。時間を変えてるんじゃなく世界そのものを変えてるんだとさ。そう考えると更に凄く思えるよな」
「ん?ちょっと待ってルナ」
「あ、ちなみにこっちの世界は何か時間の軸が違うとかでまた扱いが別みたいだけど……何だ?ファーレ?」
フィールは納得してくれたようだが、次はファーレ、それにルシアが微妙な顔をしている。
「さっきから『らしい』とか『だと』とか言ってるけど、それ誰から聞いたんだ?」
「さあ?忘れた」
「おい」
「いや本当なんだってこれが」
タイムリープの事だけではない。『ウインドウ』の事に関しても、何故かこちらに転生したときから能力の詳細を知っていた。しかしどこで知ったのかは思い出せない。恐らく何処かで記憶が抜け落ちている。
「特に根拠はないんだけどさ、もしかしたらこういう異世界転生モノの常で女神様と会話とか、そんなイベントがあったんじゃないかと思うんだよな」
「転生と神様にどう関係が?」
「日本では関係あるんだよ」
ファラリアに転生した後は転生を題材にした小説などを色々読み漁ったのだ。神様に転生させて貰う話は多かった。
しかし日本における神様とファラリアの神様は全く異なる部分がある。
「女神様ね……。そう言えば外の世界には神様が本当に居るんだっけ」
「正確には居た、ですよね? 確か大戦のときに滅びたのでは?」
ファーレとルシアが微妙な顔のままそう言った。
実はファラリアには本物の神様が居たらしい。世界を造った偉大な神だったそうな。過去形なのはルシアが言った通り既に滅びたからだ。千年前の大戦で、『遺産』を作った文明と共に消えたらしい。
胡散臭い話ではあるが、実際にファラリアには幾つか、『神造遺産』と呼ばれる普通の遺産とは明らかに異なる物が存在している。これらは神によって造られたと言われていて人の力では絶対に破壊することが出来ない。聖剣や聖剣を収めている神殿、後は王国の王城などがこれにあたる。
「王国に縁のある神となれば、光の女神である『リュースラ』でしょうか?」
「ルシア詳しいね。僕は余りピンと来ないよ。本当にいたのかな?神様なんて」
ルシアが首を傾げ、ファーレも眉をひそめる。ちなみにフィールはついてこれてない。
眉唾物だと感じるのも無理はないが、しかし俺は神が実在していると半ば確信している。神造遺産以外に、もう一つ存在を示す根拠がある。
「どの程度の力を持っていたのかは分からないけど、多分今も居ると思うよ、神様は」
「何でそう思うんだ?」
「これを見てくれ」
「ん?何だそれ?」
俺は携帯ゲーム『クエストオブフェイリアワールド』のカセットをファーレ達に見せた。さっき二階の俺の部屋から持ってきておいたのだ。
「これが何なのかは今から説明するよ。これにはさっき話題にした神様の一人が出てくるんだ」
それは光の女神であるリュースラとは逆の存在とも言える闇の神。そしてソイツは魔族の神でもある、作中最強の敵。そして全ての元凶。
「ーーーー『邪神ゼオン』。こいつは裏ボスとして、このゲームに登場してるんだよ」




