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雛巳家にて

 日本のとある街にある、そこそこ大きい高級住宅。そこが俺の家である雛巳家だ。

 周りは閑静な住宅街だが、近所には大きい公園やデパートがあり、駅もそんなに遠くない。バス停も割と近くにあり、なかなか便利な場所に建っていると言える。


 時間は前と同じで、俺の家族は全員海外にいる。てな訳で、俺は安心してこの家に異世界からの客を招く事が出来る。

 俺はこの場所を話し合いの場に選んだ。理由は単純に俺の前世の事を教えておきたかったからだ。


 こちらに来た当初は三人とも物凄い勢いで混乱してたが、割とあっさり受け入れてくれた。曰くルナなら何でもあり得そう、だそうな。


 その後ファーレは興味津々に家具や電化製品を触ったり開けたりしていた。

 コンロに目を輝かせたり、冷蔵庫の中身の食材を眺めたり、調味料を舐めたりと料理関係に一番目を向けている。


 「ルナ、何でこう何でもかんでも冷やすんだ? 特に下の奴なんか凍ってるじゃん」

 「保存のためだよ。そのまま常温でほっといたら腐るだろ? 下の凍ってるのも、解凍すればちゃんと食えるぞ」

 「え? もしかしてこの家、アイテムボックス無いの? ルナが持ってるし家も立派だからてっきりあるもんだと……」

 「いや、それは俺の家に限らずこの世界の何処にも存在してないから」


 ズレた事を言うファーレだが、ファラリアの共通言語では異世界≒精霊界or精霊界から見た外なので勘違いするのも仕方ないかもしれない。


 「ルナー、こっちの中に人が写ってるのは?」

 「テレビ」

 「これ中身どうなってんの?」

 「気になるなら壊してみれば? どうせタイムリープで元に戻せるし」

 「良いのか。じゃ、早速」


 ファーレは愛用のレイピアを取りだし、テレビを乱暴に分解し始めた。思ったより遠慮が無い。


 俺はそちらに背を向け、次はフィールを見る。

 フィールはさすがと言うかやっぱりと言うか、凄い勢いで食べ物をがっついている。小柄な体のどこに入って行くのか不思議になるくらいの量だ。


 「美味しい! こんな料理食べたことない! 本当に良いの!? こんなに美味しくて高級そうなのこんなに貰っちゃって!」

 「良いって良いって。これもタイムリープで無かった事に出来るから」


 ついでに言うと彼女が食べてるのはカップラーメン、レトルトカレー、スナック菓子といった懐にそんなに痛くはない物ばかりだ。特にバイトはしていなかった俺だが、小遣いはかなり持ってるので金銭的にも大丈夫である。


 「うわあー、タイムリープ万歳! 最高のギフトね!!」

 「ああ……。ところでそれ、一緒くたにして食うのか? 別々にした方が……」

 「これで良いのよ。あたしはご飯のときは少しずつ交互に食べていくのが好みなの。変だと思うかもしれないけど、この方が飽きないのよ」

 「いや、日本人も三角食べをするけど、……ポテチとラーメンを一緒に食べるのは普通しないかな」

 「あ、そう言えばこれお菓子なんだって? まあ良いじゃない別に」

 「まあ良いけども」


 まあ、これほど幸せそうに食べられるならポテチも本望だろう。こんなにも喜んで貰えるなら今度高級レストランにでも連れていってあげようか。

 ……いや駄目か。日本人目線で見ればマナーが悪すぎる。これでは絶対に浮きまくる。


 俺は食べ続けるフィールからも視線を外す。

 最後はルシアだが、彼女は意外なことに姿が変わった俺自身の方に興味があるようだ。さっきから俺の方ばかり見て、色々と話し掛けてくる。落ち込んでいたのが嘘のように元気になった。テンションがやけに高くなり、恐いくらいに活き活きしている。


 「ルナさん!あの……あ、ケイタさんとお呼びした方が良いでしょうか?」

 「いや、ルナで構わないよ。中身は変わってないからね」

 「そうですか。でも驚きましたよ!ルナさんの正体がこんな格好いい方だったなんて!!最高です!!!」

 「うーん、正体ってのも少し違うんだけど……」


 まあ中身が啓太なのは確かなので間違ってもないかもしれない。

 ん? ところで何が最高なんだ? 


 「でも驚いたと言えば向こうの世界のルナさんもですよ! まさか王国の王女様だったなんて!」

 「あはは、意外だったろ?」

 「はい……。あ、いえ、でもあちらのルナさんも、今思えば何だか高貴そうな雰囲気がありましたよ!」

 「そ、そう?」


 ルシアは慌てたように付け加えてきた。そんな風に周りから浮かないように頑張ってたつもりなんだけどな。


 「ところで、体の調子はどうだ? 何か異常が出ていたりはないか? ここには魔素が無いから、悪影響がないかは心配なんだが」

 「特に不都合は無いですね。でも、魔素が無い影響なのか体の内から魔力が抜けていかないようです。魔法を使ったりしなければ、フィールちゃん達でもずっとここで暮らせるんじゃないでしょうか」

 「ふうん、それはむしろ好都合だな。あ、そう言えば魔法はこっちでも使えるのか?」

 「使えますよ。ただ、当然と言えば当然の話ですが妖精化しても魔力が回復することは一切ありませんね」

 「そりゃそうなるよな」


 日本では魔力が回復しない代わりに勝手に抜けていくことも無いようだ。フィール達にとっては朗報である。

 それなら今度デパートやら遊園地にも連れていってあげるのも良いかもしれない。三人とも見た目は普通の人間と変わらないし、魔法が使えるならカラフルな目や髪の色も誤魔化せる。たとえ地球上の何処にも存在しない異世界言語を使っていても、彼等の見た目は外国人っぽいため怪しまれる事も皆無だろう。


 俺が色々と考えていると、ルシアがフィール達の方をチラリと見て訊いてきた。


 「あの、お話しなくて良いんですか? そのためにこのお家に来たんですよね?」

 「まぁそうだけど。でも時間は無限にあるからな。楽しそうだし、もう少し好きにして貰おうかなと思ってるよ。彼等も頑張ってくれたしね。……ルシアも、この世界について知りたい事とかあるか?」

 「そうですね。なら後でこの世界の本を読んでみたいです」


 そう言いながらそっと体を寄せてくるルシア。胸が俺の腕に当たってるんだけど。

 ついでにどの本も日本語で書かれているので絶対に読めないだろう。


 ……まあしばらくは好きにさせてあげよう。


 俺はその後しばらく、騒ぐ精霊達に付き合って説明やら冷凍食品の調理やらを担当した。

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