ルシアとの契約
陽射しが暗くなり始め、もうすぐ夕方かというような時間帯になった精霊境。その一角の庭の大きな家の中で俺、フィール、ファーレの三人は思わず絶句していた。
原因は当然、ルシアが発した突然の爆弾発言である。彼女はやって来ていきなり、俺達についていきたいと言い出したのだ。
本当に突然の事で一旦思考が固まるが、最初に回復して口を開いたのは俺だった。
「ちょっと待ってくれ。ルシア、俺達についてくるのは構わないが、いくら上位精霊でも一ヶ月やそこらで魔力を使い果たすんだろ? そうなったら精霊界に戻されるんだよな? それまでで良いのか?」
「い、いえ、違います。契約した上で連れていって欲しいんです」
「?? ……でも精霊契約は基本的に複数の精霊とは結べないんだよな? フィールとファーレが例外なだけで」
この二人は双子で何かの波長が合うらしく、特別に二人同時に契約出来る。しかしこれはあくまで例外。契約は一対一が基本だ。
そもそも、そうでなかったら大勢の精霊を引き連れた冒険者なんかも現れる筈だ。
「違うんですよ。勿論フィールちゃん達との契約はそのままでいいんです。で、私とは仮契約を結んで欲しいんです」
「仮契約を?」
仮契約は確かフィアナさんが行った簡易版の精霊契約だ。あんな物で本当に良いのだろうか。
首を捻る俺とは反対に、ファーレは納得したような顔になった。
「なるほど、仮契約ね。ん~、確かにルシアならいけるかもな」
「えへへ、そうでしょ? ファーレ君」
「どういうことだ? ファーレ、説明してくれないか?」
「あー、そうだね。……ルナは仮契約の事はしらないよね?」
「一応道案内をしてくれた人が見せてくれたけど、詳細は聞いて無いな。ああでも、適正を貸し出せないとは聞いたよ」
「それで合ってるよ。まあ説明すると、仮契約ってのは普通の精霊契約よりも契約者と精霊の繋がりが薄い契約なんだ。だから手軽に結べるけど、適正とかギフトとかを契約者に貸し出す事は出来ない」
「けど、その代わり複数の精霊とも契約出来るってことなのか?」
だとしたら仮契約で大量の精霊を抱える奴なんかが出てきそうだが。
「まあそんなとこ。繋がりが薄いとは言ったけど逆にそれ以外は普通の精霊契約と一緒だからね。あ、言っとくけど普通の精霊は仮契約なんて使えないよ。繋がりが薄くなるせいで妖精化しても魔力の消費を余り抑えられなくなるから、僕達が仮契約してもその内限界が来る。……でも上位精霊なら、それで十分かもしれないんだよね」
「なるほど、だからルシアなら仮契約で連れて行ける可能性がある訳か」
それなら納得である。
正直言うと、ルシアがついてきてくれるならとても助かる。何しろ彼女は、ファーレ曰くBランク冒険者並みの実力を持っているらしい。契約してくれるならこれ以上心強い事は無い。
「契約してくれるなら俺としても凄くありがたいよ。でも急にどうして契約する気になったんだ?」
「え、あ、それは、ですね……えと、」
何故か慌ててしどろもどろになるルシア。なんだか顔が赤くなっているような気がする。
彼女はコホンと一つ咳払いをし、気を落ち着かせてから話し出した。
「今回の事件で、私も色々と思うところがあったんですよ。それに単純にフィールちゃん達が羨ましかったのもあります。……あと住む家が無くなりましたし。路頭に迷ってるんです」
「……やっぱり壊れてたのね。何ならあたし達がいない間この家貸しても良いわよ?」
「あ、いえ、結構です。と、とにかく私はルナさんについて行きたいんですよ!」
「ふうん、それは……」
「はっ、あっ、そのっ、……と、とにかくどうですか? 私もついていって大丈夫ですか!?」
焦った様子で俺に訊いてくるルシア。顔が更に赤くなっているような。
「ああ、大丈夫だよ。ルシアみたいな実力があって多芸な人が仲間に加わってくれるのは凄く嬉しい。フィールとファーレも、別に構わないよな?」
「うん、勿論だよ。嫌な訳ないじゃん」
「ええ、あたしも歓迎するわ。ルシアが加わってくれるなら、よりいっそう楽しくなりそうね」
「……本当ですか!? ありがとうございます!!」
そう言って頭を下げたルシアの顔はとても嬉しそうだ。
顔を上げた彼女は、早速俺に手を差し出して来た。どうやら早速契約を結ぶつもりのようだ。
「それじゃあ、お願いします。ルナさん」
「ああ、これからよろしくな、ルシア」
そして手が繋がれ、仮契約の魔法が行使された。
「………………」
「あれ、どうしたんだ? ルシア?」
「ルナさんって…………そ、その、女の子、だったんですか……?」
「あ、うん」
「………………」
ルシアの顔から表情が消えている。どうしたんだろう? 大丈夫か?
「そ、そんなことって……」
「ルシア? ちょっとどうかしたの?」
「いえ、別に……。ふふっ、どうしようかな、私。あははは……」
「ルシア!? やっぱり何か変よ!?」
「いえいえ別に……。私に構わず、どうぞ続けて下さい。ほらほら、どうぞどうぞ、お構い無くお構い無く……ハァ」
「…………?」
フィールが気味悪そうな目をルシアに向けた。
そのルシアはと言うと次はブツブツと何かを呟き出している。足元もフラフラと落ち着かない。どうも苦悩してるとか葛藤してるとか、そんな様子だ。急にどうしたのか。
「どうするのルナ? ルシアが変よ!」
「どうするって……どうしよう?」
「まあ放っといたら良いじゃん。それよりも僕はルナのギフトについて早く聞きたいんだけど」
「放っといて良いのか? なんか次は床に手を当てて落ち込みだしたけど」
漫画でよく見るアレである。こんな落ち込み方する人本当にいたんだな。始めて見た……
「良いだろ別に。あんな状態でもルシアならちゃんと話を聞けるって」
「ふうん……。じゃ、少し俺から話があるんだけど、始めて構わないか? ルシア?」
「どうぞ……お構い無く……」
いや、本当に大丈夫か!?
……まあ良いか。
でも始める前に一つだけ。
「悪いけど、場所だけ変えて良いか?」
「ええっ? 面倒臭いしここで良いじゃない。どこに行くつもりなのよ?」
「タイムリープで跳ぶから面倒なんて事は無いよ。行き先は……そうだな……」
異世界。俺の前世。地球と言う惑星。
色々と言い方はあるけど、ここはもっと簡単に。
「まあ、俺の故郷の、……俺の家だよ」




