事件の後で
「あのさあ、今更なんだけどルナって女の子だったんだね」
「本当に今更だな。まあそうだけど」
ファーレに言われて俺は今更ながら男装中であったことを思い出した。そう言えば精霊契約を結んでしまえば性別はバレるんだったか。
俺達はフィール達の家に戻ってきていた。冒険者達や他の精霊達に会うのを避けるため、ルシアが居なくなってから真っ直ぐにこっちに来たのだ。
「ユーリとかほっといてこっちに帰ってきちゃったけど、よかったかしら? 片付けとか手伝った方が良かったんじゃ……」
「仕方無い。あの状況であの場に残ってたら人に囲まれて片付けどころじゃなかっただろ。こんなときは人に会わないところに避難した方が良いよ」
ちなみにこの家のすぐ隣近所の家はアースドラゴンによって破壊されていた。わりかしギリギリでセーフだったようだ。
「それなんだけどさ、ルナは残らなくてよかったの? 街を救った英雄になれたかもよ?」
「ここではあんまり目立ちたくないんだよ。今はもうこれ以上注目を浴びたくない」
「目立ちたくないって……冒険者のランクを上げるには目立った功績が必要なんだけど?」
「いや、この辺りで目立つのが嫌なだけで、王国から離れた土地なら問題ないよ」
「……王国で何やらかしたんだよ」
訝しげに眉を寄せるファーレに、俺はアイテムボックスからポーションを取りだしながら答える。
「別に何もやらかしてないよ。まあ、その辺りの話は後でするとして、……たらいとか桶みたいなのがあれば、貸してくれないか?」
「あるけど、どうするんだ?」
俺はそれに答えず、代わりに靴下をめくりあげる。その下の足は赤く腫れ上がっていた。ズキズキとする鈍い痛みも感じる。
「うわ、どうしたんだその足?」
「最後に蓄魔器を壊したときに痛めたみたいだ」
「あのときか。確かに凄い音したもんな」
加速をつけ、体重を五倍に増やした上での全力の蹴り。その威力こそ凄まじいものがあったが、俺の足の方も耐えられなかったようだ。一応足への負担も考えて踵落としを選んだのだが。
足の状態を触って確認していく。どうやら骨には異常無さそうだ。
「あんな普通の革靴で無茶やるからよ。鉄製のレッグアーマーとか持ってないの? ……はいコレ、たらい」
「ありがとう。……持ってないけど、この精霊境で買うつもりでいるよ。何処かいい店を知ってるなら紹介してくれないか?」
「そうねえ、防具なら……」
「ふんふん」
俺は足にポーションを振り掛けながら店の情報を聞く。冒険者向けの店は入口の近くに集中しているため、ドラゴンの被害を受けた店は少ないだろう。
「今から買いに行くのは流石に無理だろうな。明日になったら再開してるかな?」
「どうだろうね? でも僕達の知り合いの店なら、再開前でもルナには特別に売ってくれると思うよ」
「そうか、なら明日は装備を整えるとして……今日はもうここから動かなくていいかな。色々話しておきたいことがあるんだ」
「そうだね、僕もそのギフトに関しては詳しく聞きたいよ」
「それはいいけど、話すまえに休まない? ちょっと眠い……」
フィールが眠たげな目をして伸びをした。緊張や悩みから解放されたことで、戦闘の疲れが出てしまったのだろう。それに後からファーレに聞いたのだが、二人共昨夜はほとんど寝れなかったらしい。
「じゃあ後にするか。急ぐ話でもないし、なんならタイムリープで寝る前に戻ってもいいし」
「んっとにとんでもないギフトだよね……。ルナ、今日はここに泊まっていってよ。それなら夜にいくらでも時間を取れる」
「ああ、じゃあそうさせてもらうよ。……しかし蓄魔器と例の男の件については、後でもう一度詰め所にいかないとだよな。それにルシアの様子も気になるし」
「蓄魔器の方はともかく、ルシアならその内ここに来ると思うよ。あいつの家、モロにドラゴンの通ったとこに重なってるからな。多分潰れてる」
「うわあ、かわいそうに……」
踏んだり蹴ったりだな、ルシア。
「取り敢えず昼飯にしょうか。姉ちゃんは要らないみたいだけど、ルナは何がいい?」
「ん~、何でも良いよ」
フィールは既に机に突っ伏して眠り始めていた。風邪引くぞ、と背中に毛布でも掛けたくなるが、あいにく精霊は風邪など引かない。
「何か手伝おうか?」
「大丈夫だよ。すぐにできるから少し待っててくれ」
「そうか、ありがとう」
俺はファーレに言われた通り、椅子に座って大人しく待つ。
てきぱきと料理の準備を始めるファーレと眠りこけるフィールを見ていると、遅まきながら色んな問題が無事解決して、終わったんだなって感じがしてきた。リネッタと蓄魔器の件や街の被害など、まだ残っている問題はあるけれど、取り敢えずは一件落着だ。
もっとも、俺の目的は王国を救う事であり、そのための旅はまだ始まったばかりだ。まあ、蓄魔器を摘発したことでけっこう良いスタートダッシュを決められたと思うけど、まだまだ先は長い。
……でも、今はひとまず休もう。
俺はファーレが料理するのを眺めながら、ぼんやりと夜に話すことを考え始めた。
それから数時間後。とっくに昼飯を食べ終わり、フィールも起きた頃になってルシアがたずねてきた。
彼女は俺達の姿を見るや否や、バッと頭を下げてこう言った。
「お願いします! 私もフィールちゃん達と一緒に外へ連れて行って下さい!!」
「えっ?」
「へっ?」
「ええっ?」




