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救出

 精霊境を暴れまわる巨大なアースドラゴン。その内部で、蓄魔器に捕まったルシアは今までに経験したことの無い恐怖を味わっていた。




 そもそも精霊であるルシアにとっては「捕まる」と言うこと自体が信じられない程の異常事態だ。動かそうと思っても動かない体に出ようと思っても出られない透明な壁。自由を奪われる事はルシアに未知の恐怖を与えていた


 それに加えて、彼女は凄い勢いで蓄魔器に魔力を吸いとられていた。上位精霊であるため、かなりの量を持っていた筈なのにあっという間に魔力が空になる。それは酷く不快な事だった。



 ……ここまではまだ、心に若干の余裕があった。何があっても死ぬ事は無いとまだ信じられたからだ。



 しかし彼女は、魔力が空になった後も魔力を奪われ続けた。どこから奪っているかというと、当然彼女の体を構成している分の魔力からだ。

 自分の体を削り取られ、体がどんどん縮んでいく恐怖は筆舌に尽くしがたい。それによって彼女は明確に、自分の死が近づいていることを意識させられた。



 出られない。

 体が動かない。

 魔力が無くなっていく。

 体が無くなっていく。

 このままだと、どうなる?

 やっぱり、死ぬ?

 それは嫌だ。絶対に。

 ……じゃあ、どうすれば?


 怖い。

 死ぬのが、怖い。

 誰か、助けて…………



 外界から隔離された蓄魔器の中、孤独に一人で死の恐怖と戦うルシアに、救いは突然やって来た。


 強力な風魔法が飛んできてもびくともしない牢獄に心が屈しそうになったとき、蓄魔器の回りの蔓が突然切り裂かれた。驚いて上に目を向けるとそこにあるのは剣を手に飛び込んでくる親友達の姿。彼等は必死の形相で蓄魔器に攻撃を加え始める。



 涙が零れそうになるくらい嬉しかった。恐怖が薄れ、希望が湧いてくる。体を上手く動かせず、声も出ないことがとてももどかしい。


 しかし最後に蓄魔器を破壊し、彼女を助けたのは、フィールでもファーレでもなかった。


 二人が一度引いた後、物凄い勢いで突っ込んで来たのは、武器を持たず、特徴の無い服を着たまだ幼い少年。



 バキリッッという甲高い音が響く。ガラスと言うよりプラスチックが割れたような音。その音と共に蓄魔器の上部が破裂した。


 「無事か!? ルシア!!」

 「ルナ、さん……っ!」


 前に立つ少年の姿に、安堵がこみ上げる。自由になった体からまた力が抜けそうになる。


 少年が手を差し出してきた。ルシアも震える手を伸ばす。

 が、そのとき視界の端で何かが光った。ハッとして目を向けると蓄魔器の表面に赤い魔法陣が浮かび上がっている。


 「! 不味いっ!!」

 「えっ? きゃあっ!」


 鋭いルナの声が聞こえたかと思うと、次の瞬間、ルシアの体はルナに抱えられて外に飛び出していた。俗に言うお姫さま抱っこと言うやつである。


 (うわ、うわわわわ!)


 こんなときにも関わらず、つい顔を赤くしてしまうルシア。実はかなりウブなのだった。安堵に染まっていた感情が、一気に気恥ずかしさへと振り切れる。

 ルナはそのまま空を蹴ってドラゴンから離れ、フィールとファーレが妖精化してついてくる。



 そして脱出してすぐに蓄魔器が爆発した。



 「ルナ、急にどうし……うわっ!? 爆発した!?」

 「魔力の供給が途絶えたら爆発するように、魔法陣が刻まれてたんだろうな。まあ考えてみれば蓄魔器のサンプルとか残しておく訳がない。……おいルシア、大丈夫か?」

 「は、はい……」



 気遣って声を掛けるルナに、ルシアは何故か緊張してしまう。顔が無意識に赤く染まり、言葉がうまく出てこない。

 身長が大きく縮んだルシアからすると、彼女を抱えて空を走るルナの姿はとても頼もしく、また格好よく見えた。返事をしたときに目が合ったというのに、どうしてか見ていられず、すぐに目を逸らしてしまう。

 


 ……命懸けで、私を助けてくれた人。



 そう考えると急に頬が熱くなった。心の奥でトクンッと何かが跳ねる。動悸が早くなり、思考がうまく纏まらない。


 (ど、どど、どうしよう。何か言わなきゃ。えと、怖かったですよう、ちがう。そうだ、お礼……)


 グチャグチャな思考に戸惑いながら、それでも必死に頭を回転させた彼女は最後に一言、小さな声を絞り出した。



 「あ、ありがとうございます。その、助けてくれて……」

 「気にするなよ。女の子がピンチなら助けるのは当然だろ。本当に、無事でよかった」

 「~~~~っ!」



 安心させるように柔らかく笑って返すルナ。そこがルシアの限界だった。感情的にも、身体的にも、だ。


 限界以上にまで魔力を搾り取られたルシアの体は、そこで魔素の光となって崩れていった。向かう先は当然精霊界だ。

 しかしルシアにとってはこれはこれで幸運な事だったかもしれない。このとき、自分の恋心を自覚してしまった彼女は、既に気恥ずかしさでいっぱいになり逃げ出したくなっていたのだから。

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