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ルナの切り札

 フィールとファーレ。この二人は確かに契約に成功した。

 しかしそれは、恐らくルシアを助けたい一心で成功させただけであり、トラウマが消えた訳ではないのだろう。何しろそれ以外に成功に繋がりそうな要因が無い。辛い記憶はこの先も、彼等の心に巣食い、影を落とすかもしれない。


 だがまあ、俺はそれで構わないと思っている。

 そもそもトラウマなんて、無理して克服しなければならないものでもないだろう。いや、勿論克服できなければ困るなら話が別だが、この二人の場合は違う。


 一度でも契約出来れば、俺は二人を安心させてやる事が出来る。俺は死なない、失敗しない。タイムリープの能力さえ教えてしまえば、彼等の恐怖はきれいさっぱり拭い去られる筈だ。



 『タイム……リープ……?』

 『なにそれ? どんなのよ?』


 どうやら考えているらしいファーレと、早よ言えやって感じのフィール。返答一つとっても性格の違いが出てるな。


 『能力の効果は単純だよ。時間を遡って過去の場面に戻れる。それだけ』

 『…………』

 『それって……かなり凄いんじゃ?』


 ファーレは絶句。フィールはまだピンときていないのか。

 俺はもう一度蔓に挑戦しながら、更に説明を続ける。


 『もうちょい詳しく言うと記憶にある場面に跳べる能力だ。過去の場面を思い浮かべて、そこへ行きたいと念じれば一瞬でそこに跳べるんだよ。一応言っとくと回数制限とか反動とかは無いからそこも安心していいぞ』


 話しているとあっという間にさっきと同じくらいにまで近づいた。軽くなった体でひたすらかわし続け、かわしきれない場合はタイムリープを使って対処する。


 『俺が回避能力に優れているように見えたのも戦闘の技術があるように見えたのも全部タイムリープのお陰だよ。俺は本当を言うと対人戦は完全に素人だ。でもタイムリープがあれば負けない。負けたら負ける前に戻ればいいんだから』


 『勝負以外でも同じだ。罠に嵌まったら嵌まる前に戻ればいい。捕まったら捕まる前に戻ればいい。死にかけたら死にかける前に戻ればいい。……その他全てにおいて、俺は自分が望まない失敗はしない。したときはそれを無かった事に出来る。だから……』


 『安心してくれ。俺は絶対にお前達が恐れるような事にはならない。お前達とは形は違えど、俺の能力も「不死身」と言える。無茶やっても無謀な事しても向こう見ずな行動をとっても、死ぬ事は無い。だから安心してーーーー俺に、ついてきてくれ』

 








 言い切った俺はそのまま蔓の対処に専念しながら二人の反応を待つ。新たなギフトの感覚を試すのには、この蔓は最適と言える。


 二人はしばしの沈黙の後、呆然という言葉がよく似合う声で感想を述べ始めた。


 『…………凄いわね』

 『んな無茶苦茶なギフトって……ありなのか?』


 『ありなんだよ。まあその他色々と話しておきたい事はたくさんあるけど、長くなるから今は止めとくかな。それはこの件を終わらせてからでもいいだろ』


 『そ、そうね今はルシアの救出に専念しましょ!』

 『姉ちゃん切り換え早すぎ……』


 そうのたまう二人は、戸惑いながらもどこかさっきよりも余裕がある。緊張も薄れたようだ。多分これで、もう不安など感じないだろう。



 そのとき、俺は既にドラゴンの背中に到達していた。蔓を避けながら下を見ると、絡み合う木々の向こうにルシアの入った蓄魔器が見える。

 ルシアは更に体が縮んでいた。もはや見た目は六歳か七歳くらいの年齢に見える。これならまだ少しは余裕があるか?


 『後一息だけど、この樹が邪魔くさいわね。あたしとファーレならあそこまで切り進めるかしら?』

 『ちょっと辛いかもね。あの蔓よく見れば中にも生えてるみたいだよ』

 『だって。どうする、ルナ?』


 ファーレもしっかりと思考を切り換えたらしく、冷静に蓄魔器に辿り着く方法を考えているようだ。

 だがまあ、そこはもう俺が既に考えてある。


 『俺が道を開くよ。まだ一つ、使わずに残しておいた切り札がある』

 『へえ、本当に? ルナ』

 『どんなのだ?』

 『ウインドカッターと同じような風魔法だよ。これを使って樹や蔓を切り払うから、合図した突っ込んで蓄魔器を破壊してくれ』

 『分かったわ!』

 『うん、了解!』


 二人の返事を聞いた後、俺は地面……ではなく樹面だろうか。とにかく表面スレスレの位置にまで降り、その場で魔法を放つ準備をする。

 と、言っても『ウインドウ』で得た魔法は術式を介さず発動出来る。タイムラグなど無いに等しい。



 「それじゃいくぞ……風魔法『飛斬』!」



 そう呟くと同時、表面と平行に体を360°一回転させる。格好としては回し蹴り。しかし結果は甚大で、


 ……俺の脚が通った軌跡をなぞるように、周囲の蔓が一斉に切り裂かれた。



 『へえ!』

 『わあっ!』


 フィールとファーレが驚いて声を上げた。

 確かに、自分の目線でみても切り札と言える威力がある。が、本当はこの魔法は切り札になるような魔法ではなかったりする。


 風魔法『飛斬』。これは俺が風魔法にスキルポイントを振った理由の一つでもある、威力が速度依存の魔法だ。見た目的には飛んでいく蹴りである。

 これは実際は大してランクの高い魔法ではない。が、俺のステータスが速度特化なために相当な威力になっている。


 しかし同時に速度にしかポイントを振らず、魔力量が控えめなために、底ランクのこの魔法も余り乱射出来ない。

 まあ俺は王族の血のお陰なのか生まれつき魔力は多目なのだが、天駆と疾走にも魔力は使うのだ。無駄遣いは出来ない。


 そんな訳で切り札である。


 ちなみに現時点で使える速度依存の風魔法はこの『飛斬』と、斬撃が打撃に変わった以外飛斬と一緒な『飛弾』という魔法しかない。

 まあ今の魔力量を考えるとこれで十分だと言えるけど。



 「よし、次!」


 俺は体を翻し、続けて下を狙う。周囲に蔓が無いのことを確認しもう一度『飛斬』を発動。次は三回連続で。



 俺は魔力を脚に集め、蹴りを放つ。それに一拍遅れて、斬!斬!斬!と、三回の小気味良い音がした。



 俺は直接に蓄魔器を狙うことはせず、その回りの樹を三角形に切り裂いた。蓄魔器は魔石状の物に守られていて、恐らく飛斬で壊す事は出来ない。しかしこれで、道は開いた。


 「よし、今だ! 二人共頼んだぞ!」


 「ナイス、ルナ!」

 「まかせて!」


 俺が叫ぶと同時に、俺の体から二つの影が飛び出した。勢いをそのままに、蓄魔器までの木々を強引に突き破っていく。飛斬によって既に切られている木々は彼等の行く手を阻む事は出来ず、脆く崩れていく。

 二人はすぐに蓄魔器に到達し、各々の武器でそれを切りつけ始めた。


 

 俺も二人に続き、彼等の作った穴に飛び込んだ。緑の蔓はドラゴンの背中付近の内部にもきっちり生えていて、既に蓄魔器の破壊を阻止せんと四方から次々に蔓が近づいてきている。

 

 が、ここは狭い木々の中。脅威であった鞭のような攻撃は出来ず、スピードも攻撃の範囲や威力も激減していた。何とか俺一人でも対処出来そうなレベルだ。

 俺は蔓がフィール達の方へ行かないよう、軽めの飛斬を使って近くまで来た蔓を切り落としていく。タイムリープを使えば打ち漏らす事はなく、魔力にもまだ多少余裕がある。後は二人が蓄魔器を破壊してくれるのを待つだけだ。




 ……あれ? て言うかまだ壊せてないのか?




 「不味いよルナ! この蓄魔器の回りにあるヤツ無茶苦茶硬い!」

 「はあ!? フィールでも無理だったのか!?」


 突然ファーレの切羽詰まった声が飛んできた。驚いて蓄魔器の方を見る。表面には傷がつき、ヒビが入っているものの、蓄魔器はフィールの攻撃に耐えきっていた。全く効いていない訳ではなさそうだが、この様子だと壊すまでに時間がかかりそうだ。


 時間がかかるのは非常に不味い。何故なら……


 「ヤバイよ、周りが再生し始めた。姉ちゃん、まだ!?」

 「まだ、かかりそう……」

 「……このペースだと、後一分もすれば塞がるな。どうするか」


 渾身の飛斬であけた穴だが、既に塞がり始めていた。この調子だと蓄魔器を破壊する前に塞がってしまう。しかしもう一度同じことを繰り返すには魔力不足。やっばり何とかしてここで壊しきるしかない。


 「フィール!ファーレ! 蔓の対処を頼めるか? 次は俺が狙ってみる」

 「ルナが?」

 「ああ! 俺も今はフィールと同じギフトを持ってるからな。助走をつけて加速すれば、フィール以上の威力を出せる筈だ!」


 そう言い残し、俺は一旦上昇した。


 ドラゴンの内部からも脱出し、その表面からも三十メートルほど距離を取る。余裕を持った長めの助走距離だ。

 ちらりと周囲を見渡すと、まだ最初の全方位飛斬の効果は残っているようで蔓が向かってくる様子は見られない。


 下を見ると蓄魔器まで一直線の道が開いていた。ドラゴンの内部も、フィール達が剣を振るって直線コースを維持してくれている。その奥には、泣きそうな顔で俺達を見詰めていたルシアの姿も見える。




 「……よし」


 息を整えた俺は体を反転させ一気に下へ突っ込んだ。天駆を連続で使い、加速をつけていく。俺の体は重力と天駆によって爆発的な加速度を得て、まるで矢のように蓄魔器に向かう。


 それは時間にすればほんの一瞬。あっという間に蓄魔器の近くまで来た俺は、ぶつかる直前に体を再び反転、加えてフィールのギフトを発動させる。






 彼女のギフトの効果はファーレとは逆。自身の体重を一瞬で五倍に増やす事が出来る。重さはそのまま威力に繋がるので、攻撃の瞬間に使えばその攻撃は重くなり、大きく威力を増すことになる。俺の体重は軽いが、それでも五倍に増えれば大柄でゴツい男以上の重さだ。攻撃力の大幅なアップが見込めるギフトである。






 狙うは当然、フィールの攻撃でヒビが入っている部分。前のめりに体を反転させた俺はその勢いのまま、狙いたがわずその部分に渾身の踵落としを叩き込んだ。

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