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三度目の正直

 ユーリからの連絡を受けたルナはすぐさま下に降りてきた。戦況は良くないようで、体には幾つか傷があり、息も上がっている。


 フィールとファーレの前に立ったルナは、余計なことは何も言わずにただ一言、「いけるか?」とだけ訊いた。既に覚悟を決めた二人は迷わずに頷き、手を差し出す。不安が無くなった訳ではないが、今は自信の方が大きかった。



 ルナが差し出された手を握り、いよいよ契約が始まる。

 フィールとファーレは、母から教わった契約の術式を構築していった。大して難しくもない上に何度も練習していたその魔術は、ほんの数秒で完成する。



 後は起動させるだけ。しかし、その段階になると二人の脳裏には、また忌まわしい記憶がフラッシュバックしていた。


 ミリーナの悲鳴、盗賊達の嘲笑、止めどなく流れ込んでくる絶望の感情、そして壊れゆく心。


 今でも鮮明に思い出せてしまうそれらは、二人の感情を揺さぶり、心を蝕み、契約に対する恐怖を掻き立てる。




 ーーーー本当にまた契約するのか?


 自らの内から、問い掛ける声があった。一瞬その声がミリーナの声とそっくりな気がして、しかしすぐに自分自身の声だと気づく。



 ーーーーまた同じ事が起こるかもしれないのに?


 ーーーーまたあんな事になったら、どうするんだ?


 ーーーーそのときお前は、耐えられるのか?



 執拗に言葉を重ねてくる『声』は、しかし二人の心を乱すことは無かった。二人は既に、問の答えを用意していた。


 声の主は自分自身。自身の身を心配し、守ろうとして声を上げている。二人はそんな自分を諭すように、答えを告げる。




 『そんなの今はどうでもいい。そんな事より、ルシアを助ける方が百倍大事だろ』

 『たとえ万が一この旅の結末が不幸な物になるとしても、あたしは今契約してルシアを助けたいのよ』






 そう答えた瞬間、全てが弾けた。

 『声』は消え失せ、思考が途切れ、体が魔素へと分解される。

 そのままルナの心臓の辺りへと吸い込まれた二人は、すぐさま懐かしい感覚と懐かしい姿でもって外へと飛び出した。


 出てきた二人の身長は十センチ程度もない。契約精霊のみに許された魔力節約のための姿、妖精化だ。



 「よかった、成功したみたいだな」

 「成功したの? うわあ、よかったねえ~」

 「こんなときに何だけど、契約おめでとう。よくやったよ、お二人さん」

 

 傍にいた三人の弾んだ声を聞き、遅蒔きながら成功の実感が湧いてくる。喜びと安堵で胸がいっぱいになる。


 「やった、の……?」

 「やったんだ……よかった……」


 緊張が霧散し、つい気持ちが緩みそうになる。

 しかしまだ駄目だ。まだ何も解決していない。喜ぶのも後回し。

 涙腺が緩むのも歓声を上げたくなるのも堪え、二人はルナに顔を向ける。


 「ルナ、これならルシアを、助けられるかな?」

 「ああ、任せとけ」


 ルナは自信ありげにそう言って、不敵に笑う。そして次は、精霊契約によって使えるようになる念話を使って、意思を伝えてきた。


 『取り敢えず最初は俺の魔力の中に居といてくれるか。俺の持っているギフトの能力をみせてやるよ』

 『分かった。え? ルナのギフトってあの空を飛べるやつじゃ?』

 『もう一つ、持ってるんだよ。とんでもないのをな』


 すぐに分かる。そう言ったルナの目は、悪戯っぽく光っていた。


















 俺はフィールとファーレが自分の中に戻ってきたのを確認し、早速ファーレから借り受けた彼のギフトを発動させた。


 その瞬間、俺の体が一気に軽くなる。その変化は本当に一瞬だった。足にかかる負担が激減し、ちょっとした浮遊感を覚える。使い古された表現かもしれないが、背中に羽が生えたみたいというのは、まさしくこんな感覚を指すのだろう。


 これがファーレの持つギフト。体重が軽くなったのは比喩ではない。このギフトは、自分の自分の体重を一瞬で五分の一にまで減らすことが出来る。それも一瞬で。


 俺やファーレのようなスピードを武器にする奴とはとても相性がいい。自分の強みである速さが格段に上がる。その上切り替えを瞬時に行えるため、攻撃が軽くなる事も無い。


 ……なかなか強力なギフトだ。派手さは無いが地力を底上げ出来る。


 「これはいいな。本当に体が軽い。何時間でも走ってられそうだ」


 俺は下に降りてから一旦解いていた『疾走』を再発動した。周囲を風が舞い、更に体が軽くなる。

 もはやほとんど体重を感じない。気のせいだろうが、疲労が抜けていくような感覚まである。


 『うお、何だこりゃ』

 『風?』


 俺の中にいる二人が、驚きの声を上げた。


 『風魔法の「疾走」だ。行動を補助してくれる……まあ、速度を上げる魔法だな』

 『あー、やっぱ何か使ってたんだな』

 『じゃ、いくぞ』

 『うん……あ、一応言っとくけどいきなりアレに突っ込んだりすんなよ? ルナなら分かってるだろうけど、体重が減るとかなり感覚が変わるからな。慣れるまでは慎重に頼む』

 『あ、ああ。分かったよ』


 随分キッチリと注意されてしまった。おおざっぱな感じのする姉とは違い、ファーレは割と細かいところに気がつく性格のようだ。いや、姉がああだから弟がこんな性格になったのか。


 ……忠告ありがとう。でも悪いけど聞くつもりは無い。


 とん、と爪先で軽く地面を蹴る。それは今までよりもずっと軽くて小さな動作。しかし結果は段違い。俺の体は一息に五メートルくらい飛んだ。


 「へぇ、こりゃ凄いな」


 思わずそんな言葉が口から漏れる。驚く程に体が軽い。思い通りに空中を移動できる。


 俺は更に上に飛んだ。一回空を蹴るだけで、俺の体はまるで砲弾のように上に突き上げられる。ほんの数歩の天駆で一気に加速し、あっという間にドラゴンを見下ろす位置にまで上昇する。


 そこから感触を確かめるように急加速、急制動を繰り返した。その次は連続で宙返り。更にはその他の色々な動きを順々に試していく。思った通りに空中を飛び回れて、もはや重力を感じない。夢の中にでもいるかのようだ。


 ……て言うかこれ、完全に目立ちたがりの行動だな。まあ色々と今更だけど。



 『嘘だろ……いくら何でもここまで速くなるか……?』

 『ファーレ? どうしたの?』


 ファーレが困惑した声を上げた。確かに、この速度は彼にとっては驚きだろう。それほどまでに、今の俺は速い。

 まあ、俺にとっては予想の範囲内だ。

 ギリで、だけど。


 『あー、それな。多分ファーレのギフトは「疾走」と相性がいいんだよ』

 『相性?』

 『ああ、「疾走」は自身の動きを風が補助してくれる魔法だ。体が軽くなれば、風の影響を受けやすくなるのは当然だろ?』


 ついでに言えばスピードの宿敵である空気抵抗も『疾走』のお陰で全く感じない。この二つが抜群にシナジーして、この速度を産み出している。


 『な、なるほど。そう言う事なら納得かな』

 『本当、ファーレのギフトは俺にとっては最高に役に立つギフトだよ。まさかここまで動きやすくなるとはね』

 『ね、ねえルナ。あたしのギフトも早く使ってみてよ!』


 次はフィールが焦れたように言った。彼女のギフトはファーレとは逆で攻撃のときに使う物だ。

 慌てるなと言いたいが確かにさっさと攻撃に移った方がいいかもしれない。


 『慌てちゃ駄目だって、姉ちゃん。もっと慎重に……』

 『そうだな、んじゃ、さっさと突っ込むか』

 『えええ!? ルナ!?』

 『突っ込んじゃいましょ! あたしのギフトなら、パパッと助けられるわよ!』

 『ちょ、姉ちゃん待ってって。ルナ、本当に……』

 『いくぞ!』

 『らじゃー!』

 『あー、もう……』


 フィールの弾んだ声とファーレの沈んだ声を聞きながら、俺はアースドラゴンの背中に向けて走った。

 勿論すぐに蔓が襲ってくるが、今の俺にとっては楽に避けられるスピード。タイムリープに頼ることもなくスルスルと合間を潜り抜けて行き、フィールが歓声を上げる。


 が、楽に進めるのはここまで。最初の攻撃を突破した後に待ち構えているのは、緑の壁と見間違える程の高密度の攻撃の嵐。四方から次々に蔓が向かってくる。

 俺はスピードを保ったままその中を突き進んでいった。


 『ル、ルナ! これ本当に大丈夫なのか!? 何かヤバくない!?』

 『大丈夫だ! 俺を信じろ! …………あ』


 三本重なった蔓が正面から来た。

 どうやらスピードを出しすぎたようだ。これはちょっと、かわせそうにない。少し調子に乗りすぎたか。


 『わあああ! ルナ、前! 前! ぶつかるわよ!?』

 『ああもう、いったそばから!?』

 『うーん、ついつい調子に乗っちゃったな。完全にスピード違反』

 『何を呑気なこと言ってんのさ!? あああ、もう駄目だ!』

 『うわああああああ!? ぶつかるーーーー!』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 『ーーーーあれ?』

 『えっ?』


 蔓に突っ込む前にまでタイムリープした。本当なら少しだけタイムリープして蔓を避ける場面だが、二人に説明しておくために少し多目に戻してある。


 『た、助かった……?』

 『な、何? ワープした?』


 何が起こったか分かっていないだろう二人に俺はニヤリと笑って言った。いやまあ、表情とか見えてないだろうけど。


 『これが俺の持つもう一つのギフト、「タイムリープ」だよ』

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