ドラゴンの魔石
レイナと合流しようと思って下に降りたら、近くにファーレとフィールもいた。
せっかくだし一度情報交換とか作戦会議とかやっとこうと思うけど、その前にちょっとお互いに自己紹介。
「やあ、君がルナ君だね? レイナから色々聞いているよ。僕が彼女の契約精霊になったユーリだ。よろしくね」
「ああ、俺はルナだよ。こっちこそよろしく、ユーリ」
にっこり笑って軽く手を挙げる好青年。周りにキラキラエフェクトがでていそうな爽やかな笑顔。少し癖のある緑髪と若干垂れ目気味の目が印象的だ。
彼がレイナの契約精霊らしい。何とびっくり、レイナを見つける切っ掛けになったあの風魔法は彼が放った物だという。手にした得物は槍と魔法を発動させる杖が一体となった魔法戦士に好まれる武器だ。
「ふんふん、レイナから聞いてた通りの少年だね、君は。驚いたよ、大袈裟な話だと思ってたけど、そうでもなかったみたいだ」
「……何て聞いてたんだ?」
「そうだねえ、まず強くて空を走れて落ち着いてて頼りになって何処か抜けてて味オンチで危ないところを助けてくれて……」
「わあああああ!?ちょ、ちょっと、ユーリさん!?」
慌てたレイナが割り込んできた。焦った様子でユーリの口を塞ぐ。
「ま、まあ君のことはとにかく沢山話してくれたよ。自分が目指す憧れの冒険者なんだってさ」
「まだ冒険者になってないけど」
「わ、分かってるけど、いつも冷静で落ち着いてるじゃない? ベテランみたいに。私他の冒険者よく知らないし……」
恨みがましい目をお喋り精霊に向けるレイナ。彼はそれを爽やかスマイルで俺に受け流してきた。
「いやあしかし、さっきの戦いぶりには本当に驚いたよ。凄まじい空中戦だった。見た人皆が唖然としてたね」
「あー、やっぱ悪目立ちしてたか……。そりゃ当然だよな……」
この精霊境はまだ王国に近い。目立つのは非常によくない。元々は天駆のお披露目も冒険者登録も王国からずっと離れた土地で行う筈だったのだ。これが解決したら速やかにここを離れないと。
そんな事を考えていると、苛立った様子のファーレからお叱りが入った。
「お前らは落ち着きすぎだって! 今の状況考えろよ! そんなの後でもいいだろ!? 情報交換するんじゃなかったのか!?」
あ、確かに。
「すまん、ちょっと思考が脇に逸れてた。ああ、それと最後に一つだけ 訊くけど、ユーリは精霊なのに魔法使いなんだよな? ってことは上位精霊なのか?」
「あー、もう……」
「諦めなさい、ファーレ。あの二人は落ち着きすぎててマイペースなのよ。言うだけ無駄ね」
「姉ちゃんに言われると何か釈然としない……!」
ファーレが頭を抱えた。フィールは慰めているのか突き放しているのか。
ユーリは我関せず爽やかに説明してくれる。
「いやいや、僕は普通の精霊さ。僕がさっきのような強力な魔法を使えるのはギフトのお陰なんだよ」
「またギフトか」
ギフトってそこそこ珍しいものなんだけど。
「まあリネッタのようなレアな能力ではないよ。僕のギフトは風属性魔法の消費魔力を大きく軽減してくれるんだ。だから風魔法に限り、僕は精霊でありながら魔法職を務めることが出来るのさ」
「ふうん、確かにありがちな効果ではあるけど、強力だな」
そう言えばレイナは風属性の適正が欲しいと言ってたっけか。適正の面でもレイナにはぴったりだな。
「なあルナ、そろそろ……」
「そうだな、じゃあ…………あ、その前に一つ確認したいんだけど」
「もう……」
「すまんファーレ。で、確認なんだけどあれは精霊境で生み出されたのか? それとも精霊界から?」
「ああ、それは精霊界からだそうだよ。そのとき精霊界にいた精霊がそう言ってたからね」
「あー、そうかぁ……」
残念、精霊界生まれの魔物だったらしい。精霊界は人間が入ることは出来ない。タイムリープを使ってドラゴンが生み出されること自体を防げないかと思ったが、精霊界で生み出されたなら不可能だ。頑張って正面から倒すしかないか。
「ル~ナ~、いーかげんに……」
「悪かったって。真面目にするから」
そろそろファーレのイライラがMAXのようだ。キレられても敵わないのでここからは具体的な話を。
「ルナ君、君はさっきドラゴンの背中で緑の蔓みたいなのとと戦ってたよね? あれはやっぱり魔石を狙っていたのかい?」
俺が何か言うより先にユーリが質問してきた。
「その通りだよ。でもまあ、見ての通り失敗した。あの蔓は近づく相手に反応して攻撃してくるみたいでね。どうしても近づけなかったよ」
「確かに、下から見てたけど凄いスピードと数だね。厄介だよ。ところで、魔石の位置は分かったのかい? もし分かったなら教えて貰いたいんだけどね」
「魔石自体は確認出来なかったよ。でもあの蔓は背中の両肩の間辺りに集中してた。多分そこの少し下辺りに魔石があると思う」
「ふうん、なるほどねえ……」
ユーリはアースドラゴンをちらりと見て目を細めた。顎に手をやり、相手をを検分するような顔で思考している。
そして、しばし間をおいて手をパンとならした。
「よし、それなら一つ、直接狙ってみようか、僕の魔法でね」
「えっ、直接狙うって、アイツの魔石をか? どうやって狙うんだ?」
「ユーリさん、そんなこと出来るの?」
驚いた俺とレイナの顔を見て、ユーリは得意気に笑った。
「ふふん、取って置きの魔法があるんだよ。アレの体は大きいがそこまでの強度は無いようだからね。ここからでも何とか魔石に届く筈さ」
任せておくがいいよ、とイイ笑顔でサムズアップするユーリ。本当に大丈夫だろうか。
しかし、訝しむ俺達とは違ってファーレとフィールは納得したようだ。顔を見れば期待しているのが分かる。
「あのブワッてなってズバッとやるやつよね? 確かにアレなら魔石まで届くかも!!」
「あの変に凄い風魔法のやつか。アレなら魔石だけとか言わずに、下手したら首を落とせるんじゃないのか?」
「君達ね、人の切り札をブワだの変だの言わないでおくれよ。この前も名称を伝えた筈だろう?」
「ああ、なんだったかしら」
「何で忘れるんだい、まったく。これ以上ないほどストレートで、分かりやすくて、簡単な名前だろうに」
やれやれ、と肩を落とし首を振るユーリ。しかし自信はたっぷりなようで、その表情には余裕がある。一体どんな魔法なのか気になるな。
と、そう思っていたらレイナに先を越された。
「ねえねえユーリさん、どんな魔法なの? その切り札って!」
「少し落ちついた方がいいよ、レイナ。まあ、そんなに難しい魔法でも珍しい魔法でもないんだけどね。いや、むしろ風属性の魔法の中では基本中の基本さ。僕の切り札は『ウインドカッター』の発展型なんだよ」
「ウインドカッターの?」
ウインドカッターは風の刃を飛ばす風属性の初級魔法だ。風属性の攻撃魔法としては一番最初に習う基礎の魔法で、風に適正のある俺も勿論使うことが出来る。
基礎の魔法であるため、殆どの風魔法はウインドカッターの発展型と言えるかもしれないが、ここでの意味は違うだろう。わざわざ言ったということは、ウインドカッターの原型を保ったまま発展させた魔法な筈だ。
「ウインドカッターは確かに基礎の魔法で、術式も単純だよ。しかしね、だからこそアレンジの余地が多く、術者の腕が試される。……まあ実を言うと、少しルシアに手助けして貰ったんだけどね」
ユーリはそう言って杖をアースドラゴンに向けた。それと同時に魔力が集まり始め、淡い光が宿る。
……あれ? そう言えばルシアはどうしたんだ? あいつは俺達以上の実力を持ってるんだよな?
ふと頭に浮かんだ疑問は、ユーリの周囲に渦巻きだした風によって掻き消された。魔力と共に風が集まり、ユーリの持つ杖の先に凝縮されていく。一体どれ程の魔力が込められているのか、離れた場所に立つ俺ですら肌にひしひしと圧力を感じる。
俺も、レイナも、周りにいた冒険者達も、皆が言葉を失っていた。誰もが黙り、畏怖する圧倒的な力。戦いの興奮も失せ、ドラゴンの存在すら一瞬忘れそうになる。
……これならいけるかもしれない。
「さて、準備完了。そろそろいくよ?」
全員の期待と羨望の視線を一身に受けたユーリが、ゆっくりとした動きで杖を移動させた。杖先は正面ではなく斜め上。上段気味の構えをとり、にやりと口元を歪める。
「さあ食らうがいいよ。僕の切り札ーーーー『特大ウインドカッター』を!!」
……え?
「うっわ、マジでドストレートな技名!! 確かにこれ以上ないほど簡単で単純だけど!!」
「ええ!? な、なんか意外……。て言うかユーリさん、せっかくの切り札なんだからもう少し名前捻ってみてもいいんじゃない!?」
俺とレイナが思わず突っ込む。フィールの忘れた発言とユーリの性格から絶対長ったらしい名前だと思っていた。本当に以外な程そのまんまな技名なんだな。
「シンプル イズ ベストさ! 無駄に長いのは僕のセンスに合わないんでね!!」
「いや、この名前は流石にセンスとか関係無いのでは……?」
「気にしない! さあ、いっけええええええぇぇぇぇぇ!!!」
ブウン! と杖が大きく振るわれた。右斜め上からの切り下ろし。その軌道に沿って技名通りに特大の風の刃が形成され、空気を裂いて一直線に標的へと突き進む。
着弾の瞬間、ドオンという凄まじい轟音が俺達の耳をうった。俺達の居るところにまで軽い衝撃が届く。それに一拍遅れて怪物の痛々しい悲鳴が精霊境の街に響きわたった。
ユーリの魔法は狙い違わずドラゴンの脇腹の辺りに直撃し、轟音と共にその体を大きく切り裂いていた。周りの冒険者達から歓声とどよめきが上がる。その裂け目は間違いなくその体の半分に達していた。
「やったか!?」
ファーレが勢い込んで言った。て言うかそれ、フラグじゃね? あんまりありがたくない方の。
俺も目を凝らしてユーリの魔法が切り裂いた跡を見た。無惨に破壊されたその奥に、魔石のような物が見える。
……あれ? 魔石……?
「ハア、ハア、駄目かな!? まだ動いてるね! ……んん? なんだいアレ、変わった魔石だね」
「うーん、本当に魔石かなあ? 何か変じゃない?」
ユーリとレイナが訝しむような声を上げているが、俺とファーレとフィールにはそんな余裕は無かった。俺も隣の二人も声を失い、遠くに見えるドラゴンの切り裂かれた傷口を凝視する。
その奥には確かに、この巨大な魔物の核とおぼしき物があった。しかしそれは俺達にとって見覚えがある物。と言うか、さっき見た物で、
……まず、ソレは透明な球体だった。
……次に、ソレには赤いラインが十字に入っていた。
……そして、ソレの中には精霊と思われる人影が見えた。
……間違いない、アレはサイズこそ違うが蓄魔器だ。いや、でもそれ以上に、あの中に居るのってまさか…………!?
「あのさあ、あそこに居るのってルシアさんじゃない?」
レイナの戸惑った声が、妙に大きく耳に響いた。




