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VSアースドラゴン2

 「考えるのは後回しだ! まずはコイツを止めないと!」

 「よし!」

 「うん!」


 ルナに威勢のいい返事を返したフィールとファーレは、言うが早いか二人同時にアースドラゴンへと駆けていった。父親が人間である彼等にとってこの精霊境は生まれ故郷だ。当然愛着もあれば親しみもあり、これ以上の破壊を許せる筈がない。


 「あーもう、あのデカブツ好き勝手やってくれちゃって……。僕達の家大丈夫かな」

 「あれの通った所とは少しずれてると思うわ。多分大丈夫よ。……あれ、ルナはどこいったの?」

 「姉ちゃん、上だよ上」

 「うえ? あっ!」


 ファーレが目線を向けた先には空中を蹴って移動するルナの姿があった。まるで重さを感じられない軽やかな動きでドラゴンの背中へと向かっている。


 「おー、上からやりたい放題出来るじゃない。あの能力便利よね」

 「本当にね。とにかく俺達も急ごう」


 そう言ってファーレは手元にレイピアを出現させた。これは精霊が持っている固有能力だ。彼等は精霊界の物に限り、服や道具等を魔素に変えて持ち運ぶことが出来る。

 あまり持ちすぎると魔力を喰うのだが、ファーレもフィールも武器はいつも持つようにしている。


 「左側が手薄になってるわね。あそこに加勢しましょう!」


 フィールも手にそっと魔力を集めた。すうっと魔素の光が収束したかと思うと、すぐに身の丈程もある大剣が現れる。


 「いくわよ、ファーレ!」

 「りょーかい!」






 二人はそれぞれの武器を構え、ドラゴンの体を形作る植物に近づいて激しい斬撃を与えていった。


 フィールはその大剣を振り回し、ザクザクと大量の樹や蔓を斬りいていく。ファーレもその手数を活かして確実にダメージを与える。その攻撃は周囲の冒険者達が思わず手を止めて見入ってしまうほどに激しく、それでいて無駄のない洗練された動きだった。切られた蔓が魔素に戻って消えていき、冒険者達から歓声が上がる。



 しかし、



 「あーもう、鬱陶しい! 切ったそばからどんどん生えてくるよこれ!」

 「再生のスピードが早いわね。どうしよう、魔石を狙った方がいいのかしら、ね!!」

 「姉ちゃん、切ったのこっちに飛ばさないでよ。危ないじゃん」


 どれだけ切っても再生のスピードが早くてきりがない。この巨体も相まって全くダメージを与えられている気がしない。


 一旦下がり、思わず歯噛みする二人だが、その言葉を聞いた冒険者らしき男が笑って声をかけてきた。


 「はははっ、大丈夫だぜお二人さん。心配しなくてもコイツはその内止まるからよ」

 「えっ、本当に?」

 「そりゃそうよ。この怪物も再生にゃあテメエの魔力使ってやがるんだ。その内限界がくるぜ。……既に再生に勢いが無くなってきてるしな」

 「こ、これでも遅くなってるの……?」


 自分達が切った蔓を思い出して思わず顔をひきつらせるフィール。男はそれを見てニヤリと笑った。


 「いやあ、本当に最初は凄かったぜ。攻撃したら逆効果なんじゃないかと思っちまうくらいに勢いよく再生してたからな。だが、逆にコイツの取り柄はデカさと再生力しかねえよ。単にノロノロ動くだけだ。踏み潰されねえように注意しときゃあ、んな危険な奴でもねえ。適当に攻撃してりゃ、その内止まるだろ」

 「危険な奴じゃないって……街を無茶苦茶に壊してるじゃない!」

 「ははは、そーだな。それならまー、早く止めるために頑張って攻撃しねえとだよな」


 男は茶化すようにそう言った。完全に他人事な態度に少し苛立つが言ってる事は正しい。とにかく攻撃して、ダメージを与え続ければいいのだ。

 フィールとファーレは顔を見合わせてコクリと頷き、武器を握り直す。が、飛び出す前にまた男が話しかけてきた。


 「なあなあ、ところでよ。あんたらその武器、何もねえところから取り出したよな? ってこたあ精霊なんだよな? それなら後で俺と契約を……」

 「……悪いけど、あたしらもう契約者決まってるから」


 こんなときに契約を持ち掛けるとは。逞しいのか気が緩んでるのか。おそらくは後者だろう。ゆっくり動く魔物を切りつけるだけという簡単な作業では、緊張感はどうしても保てない。


 呆れた声で男の誘いを断ったフィールは、ふとルナの姿を探して上空に目を向けた。すぐに飛び回るルナを見つけ、思わず目を見張る。


 「っ……何よ、あれ?」

 「姉ちゃん? ……うわ、何だあれ!?」


 つられて空を見たファーレも思わず叫ぶ。

 


 アースドラゴンの背中の部分、その少し離れた位置で、ルナが毒々しい緑色をした植物に襲われていた。恐ろしいスピードで四方から迫る蔓を、神業のような回避で避けている。まるで後ろに目がついているのではと錯覚するような完璧な対応。ルナの凄さを改めて認識するが、今重要なのはそちらではなく。


 「あの緑色の蔓だよな、あのルナを背中に近づかせないなんて、なんつースピードだよ」

 「多分だけど、あの蔓はエルダーフロッグのトゲみたいなものね。ルナは魔石を狙ってるのよ」

 「なるほどね、あいつが魔石を壊してくれれば確かに手っ取り早いけど……。うあー、ちょっと無理そうかな……」


 ファーレが呻く。その視線の先では、タイミングを合わせたように大量の蔓がルナへと押し寄せ、ルナが大きく弾き飛ばされた。空中で体勢を立て直しているが、もう一度蔓に突っ込む気は無さそうだ。そのまま上空に飛んで、行動を決めかねているように見える。


 と、そこで、ファーレ達から少し離れた位置で強力な風魔法を使った者がいた。巨大な風の刃がドラゴンを襲い、植物でできた体を大きく切り裂く。その威力に周囲にいた冒険者達からどよめきが上がった。


 「ねえ、今のってユーリの魔法よね?」

 「多分ね。割と近くにいたんだな、あいつも」


 フィールが呟きファーレが同意する。今の魔法は彼等の友人が好んで使う魔法だった。付け加えて言うとあのレベルの魔法使いはなかなか精霊境に来ない。


 と、ここで、上空にいたルナに動きがあった。


 「あ、やっぱりユーリだったみたいだな。ルナがあっちに向かったぞ」

 「あ、本当ね。近いし私達も一度合流しましょうか。……あれ? ルナはユーリの顔は知らない筈よね?」

 「レイナが傍にいたんじゃないの? 今日は一緒にいてる筈だし。もしかしたらもう契約を済ませたかもね」


 取り敢えず合流しましょう、とフィールが踵を返し、ファーレも続く。周りの冒険者に後を頼んでからユーリが居るらしき方に急ぐ。


 が、フィールは大剣を担いだまま冒険者達の間をすり抜け、ファーレの顔をしかめさせた。


 「ちょっと姉ちゃん、人多い所で剣を肩に担がないでよ。危ないって!」

 「はあ、あんたは一々細かすぎるわよ。大した距離じゃないでしょ?」

 「僕は実際に何度か顔を切りつけられたことあるんだけど。絶対細かくないだろ!」

 「うっ、……別にいいでしょ!? どうせすぐ治るじゃない!」

 「そりゃ僕は精霊だからね!? でもさっき人間の冒険者の顔をかすめてたよ! 気付いてなかっただろ!?」

 「…え? うそ、本当に?」

 「嘘な訳ないだろ。てか、僕もむやみに切られたくはないからね!?」


 今更ながら大剣をしまい、後ろを振り返ってあたふたする姉を見て、ファーレは思わず溜め息を吐く。


 そのとき、彼の傍でもう一つの溜め息が聞こえた。


 「はあ、フィールは危機管理が精霊基準なんだな。人間が周りに居るときは気を付けてくれよ」

 「あ、ルナだ」


 ルナだった。その後ろにはレイナとユーリの姿も見える。


 「ルナ、さっき上で緑の蔓みたいなのと戦ってたよね? あれって……」

 「ああ、ちょうど今その話をしようとしてた所だよ。二人共、ちょっと時間を貰っていいか? あまりグズグズしてられないけどしばし情報交換といこう」


 ルナはアースドラゴンをちらりと見てそう言った。

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