表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/46

蓄魔器の中身

 倒れた男の鞄からはあと九個のカプセルが出てきた。その内の七つには既に精霊が収まっている。彼等にも話を聞いてみたが、大体は同じ流れで、契約してカプセルに入ってほしいと言われ、そのまま捕まってしまったらしい。

 俺からすれば無用心だと思ってしまうが、精霊という種族を考えれば仕方無い事だろう。彼等は今まで、『身の危険』など全く知らなかった筈だ。警戒しろという方が無理な話だ。


 また、彼等の証言によりあのカプセルの機能も一部が判明した。俺は既に城の資料を読んで知っていた事だったが、俺以外の精霊達に伝わったということが重要なのだ。


 まず、このカプセルは魔素を完全に遮断するらしい。そのため精霊であっても脱出出来ず、また魔力が勝手に回復したり抜けていったりすることも無いようだ。

 そしてもう一つ、驚くべき効果があった。精霊が自分の魔力を男に吸い出され利用されたというのだ。その逆に、男から魔力を流し込まれたこともあったらしい。魔力というのは、基本他人との受け渡しは出来ない筈なのだが。


 「ルナはこのカプセルについて、何か知っているのか? もしそうなら話して欲しいんだけど」


 全員に話を聞き終わったファーレが、最後にこちらに矛先を向けてきた。この場にいる全員が俺に注目する。


 俺としても帝国のことを伝え、精霊達にはきちんと対策をとって貰いたいと思っている。ここでもタイムリープの制限がネックになるが、このカプセルについては既にかなりの情報が明らかになった。男の反応から、帝国の関与も察してくれた筈だ。これなら何とか未来の情報を使わずに説明出来るかもしれない。


 「これは……多分『蓄魔器』だと思う」

 「チクマキ? なんだそりゃ?」

 「昔本で読んだ失敗作の魔道具だよ。旅に出る前は魔法や魔道具関係の本をよく読んでたんだ」


 これは本当の事。まだ七歳くらいの頃に城の図書室で読んだ本に載っていた。この本を読んでいたのは偶然だが、そのお陰で彼等への説明がかなり楽になる。何が役に立つか分からないものだ。ちなみに本のタイトルは「魔道具王、挑戦と栄光の生涯」である。



 「なあ、魔道具研究家のオーリマンを知ってるか?」

 「そりゃ流石に知ってるよ。あの天才発明家だろ? 例の魔導都市の」

 「ルシアがよく話題にするのよね。あいつの家にはオーリマンについての本が十冊くらい積んであったわよ」

 「そうだな、魔道具に興味のある奴なら、少なくとも彼の伝記くらいは読んでいると思うよ」


 魔道具発明王オーリマン。神に与えられた頭脳を持つ男。数多くの魔道具を作り、また多くの遺物を解析、複製した希代の大天才だ。その功績は絶大で、一人で魔道具関連の技術を百年以上進めてしまったと言われる程だ。

 彼は魔法の進んだ国である魔導国中でも、更に最先端をいく魔導都市オースの出身で、幼い頃よりその才能を示していたらしい。他を圧倒する功績をもって二十歳になる前に自身の研究所を手に入れた彼は、その後凄まじい勢いで研究を進めていった。その速度たるや、実は古代人の生き残りではないかと噂が立つ程だった。最終的には百を超える弟子と三十近い研究を抱えていたらしい。現在は故人である。


 ちなみにこの魔導都市オースだが、今から三年近く前に突如として消失した。これはそのままの意味で、ある日突然オースとその回りの土地がごっそりと消えたのだ。原因はよくわかっていないが、何かの実験に失敗したと言われている。オーリマンの研究はまだオースの外に普及してないものも多く、彼の弟子も全員が犠牲となったため、この事件によって失われた技術は多い。まあ、今は関係無い話だが。


 「まあ、そんなトンデモ研究者で発明家なオーリマンだったけど、もちろん失敗することだって多かった。蓄魔器はその失敗作の一つなんだよ」

 「失敗作? じゃあこれはオーリマンの研究を引き継いで完成させたものってことか?」

 「まあね。失敗作っていっても、かなり良いところまではいってたんだ。それに完成すればとても役に立つ物だった。だから本にも載ってたんだよ。代表的な失敗作としてね」

 「で、結局何なのよ、蓄魔器って」


 フィールが身を乗り出すように訊いてきた。他の皆も真剣に耳を傾けている。俺は自分の話にタイムリープで手に入れた情報を混じっていないか確かめながら先を続けた。


 「蓄魔器は自分の魔力を貯めておく事の出来る魔道具だよ。魔力を使わないときに貯めておいて、必要なときに使える……まあ簡単に言えば、持っておくだけで自分の魔力量を増やす事が出来る魔道具だと考えればいいかな」

 「魔力量を!? 出来るのかそんなこと!?」


 ファーレが目を見開いて叫ぶ。もしそんなことが可能なら、冒険者も街で魔道具を動かす人もとても助かる筈だ。しかし、実現するには大きな問題がある。


 「でも、何かに魔力を込めても勝手に抜けていくじゃない……あ、待って。さっきのカプセルは……」


 フィールはそう言って恐らくは蓄魔器であろうカプセルに目を向けた。そう、これは魔素を完全に遮断していた。つまり蓄魔器の最大の問題が既に解決されている。この中に溜まった魔力は減ることが無い。

 俺はフィールが目を向けた蓄魔器を拾い上げ、外側の透明な部分をコツコツと叩いた。


 「ああ、実を言うとオーリマンはこの外側を完成させていた。魔素を遮断し、中に貯めた魔力を逃がさない所までは成功していたんだよ」

 「ええ? それならもう完成じゃないの? 何で失敗なのよ?」

 「一見そう見えるかもしれないけど、もう一つ問題があったんだよ」


 俺は蓄魔器を開け、その中を指さした。


 「外側は完成した。だけど、中身に入れる物が見つからなかったんだ」


 魔力は他の物に込める事が出来る。剣に魔力を込めて切れ味や固さを上げるなんてことは誰でもやっていることだ。ただし、込められる魔力は決して多くはない。そのため蓄魔器は、溜められる魔力が少なすぎるという、別の問題にぶち当たったのだ。


 「一応魔力量を増やす事自体は出来たんだ。でも、肝心の大量の魔力を溜められる物が見つからなかった。オーリマンと弟子達は中身を色々と試したんだけど、どれも実用からは程遠かった。宝石類は少し多目に溜まったらしいけど、コストに見合う量ではなかった」

 「なるほど。それで失敗って訳か」


 ファーレが納得した、と頷いた。しかし、実はここまでが前置きのようなものだ。


 「ここからは俺の予想が入るんだけど……多分この蓄魔器を作った奴は問題の中身に精霊を選んだんだと思う」

 「……え?」

 「だから精霊を蓄魔器の魔力タンクにするんだよ。妖精化した精霊なら手のひらサイズに収まるし、不死身だから世話をする必要もない。一度捕まえてしまえば半永久的に‘’中身‘’として使えるだろ?」


 不死身なため、捕まえさえすれば後の扱いは無機物と同じでいい。蓄魔器に入れっぱなしにしても勝手に死ぬことは無い。

 それに、実は増える魔力量も多いのだ。精霊が使える魔力は人間より少ないが、彼等の体は魔素でできている。体を構成している魔素まで含めれば精霊の魔力量は一般の魔法職の人間の三倍程もある。蓄魔器はその魔力まで搾り取れるため、蓄魔器の使用者は自分の魔力量が四倍にも増えるのだ。このことはタイムリープで知ったので伝えることは出来ないが。


 「唯一の問題として、人と人とは魔力の受け渡しが出来ない筈なんだけど……」


 俺は蓄魔器の蝶番の部分を指さした。


 「捕まってた人達の話だと、それも解決してるみたいだな。魔力を流し込まれたんだろ?」

 「は、はい……」


 しばしの沈黙。全員が顔を青ざめさせる。緩く首を振っている者もいた。

 彼等は蓄魔器を体験している。信じられない訳ではない筈だ。ただ、その事実を受け入れるのは簡単ではないだろう。




 「ふ、ふざけんなよ。何だよそれ、僕達を何だと思ってるんだ!?」


 最初に沈黙を破ったのはファーレだったが、その声は怒りと言うよりかは戸惑いと恐れの色が濃い。


 「その気持ちは分かるけどな。けど、あの男はどうやら帝国から来たらしいだろ。あの国については聞いてるんじゃないか?」

 「帝国か……」


 その言葉にファーレとフィールはそろって苦い顔になる。恐らくは旅の中で話を聞いたことがあるのだろう。帝国は北の大国だが、侵略国家である以外にもう一つ大きな特徴がある。

 


 帝国は人間族至上主義を掲げ、獣人や魔人といった他種族を差別し、迫害しているのだ。



 帝国に人間族以外が入ると、即奴隷に落とされると聞いている。それどころか、近隣諸国に出向き奴隷狩りを行っているという噂まである。当然のことながら、獣人達の国である獣王国や魔人達の国である魔王国との仲は最悪で、よく小競り合いをしている。


 「もし帝国が本当に噂通りの国なら、そんなことを考えてもおかしくはないわね……」

 「しかしルナ、この蓄魔器で帝国は何をしようとしてるんだ?」


 フィールは嫌そうな顔で納得し、ファーレは蓄魔器を眺め回しながら尋ねてきた。


 「侵略に使うんじゃないか? まあ、その男を尋問すればもっと詳しいことが分かるだろ。取り敢えずさっさと兵士に引き渡しに行こう。事情を説明して、街の精霊達に警戒を促して貰う必要がある」

 「そうか、そうだよな。……ところで、紹介所で聞いた連絡無しに出ていった奴はもっと多いんだ。そいつらってやっぱり……?」

 「残念だけど、その可能性は高いだろうな。でも、もっと心配なのは北の精霊境だよ。あそこはこの西の精霊境よりもかなり帝国に近い」

 「そうか……くそっ、確かにな」


 ファーレは唇を噛み締め、焦りと悔しさが混じった声で相槌を打った。フィールも蓄魔器を憎々しげに見ている。……いや、恐れと怯えの方が強いか。

 蓄魔器に捕えられた精霊は自分で死ぬことすら出来ない。誰かが出してくれない限り、永遠に狭いカプセルの中で生き続けることになる。それはいったい、どれ程の苦痛だろうか。


 「とにかく、兵士の詰め所へ急ぐぞ。……あれ、そう言えば精霊境にあるのか? 詰め所」

 「ちゃんとあるよ。冒険者と一緒に揉め事も多いからな。案内するから、さっさと行くぞ!」


 焦りが顔に出ているファーレを先頭に、兵士の詰め所へ向かう。








 それから間もなく、俺達は紹介所の近くまで戻ってきた。ファーレはそこも素通りし、先に進んでいく。


 「まだ先なのか。どこにあるんだ?」

 「入口のすぐ横よ」

 「そうだったのか、昨日は気付かなかった…………ん? 今何か聞こえなかったか?」


 そのとき、微かにズズンという地響きのような音が聞こえた気がした。更に、バキバキという破壊音がそれに続く。


 「あたしにも聞こえたわよ。何かしら? 後ろの方から聞こえたわよね?」

 「冒険者が喧嘩でもしたのかな? どうも音が遠い気がしたけど……」


 キョロキョロと辺りを見渡してみるが、今いるのは精霊境の中心地だ。回りにある建物は軒並み背か高く、特に変わったものは見えない。


 「……少し気になるけど、今は先を今は先を急ぎましょう。もう少しで着くしね」


 フィールがそう言って再び歩きだしたときだった。


 「オオオオオオオォォォォォ…………」


 「え? 何?」

 「魔物の唸り声か?」


 次に聞こえてきたのは獣が吼えたような音。これも入口の逆方向、精霊界の方から聞こえてきた。


 「あれ? 精霊境には魔物はいないんじゃなかったっけか」

 「その筈よ。……聞き違いかしら?」

 「もしかしたらテイマーの冒険者がテイムした魔物を連れ込んだのかも。いや。しかしなあ……」


 気になる。何か不気味だ。嵐の前の静けさと言うか、どうも空気がピリピリしてる気がする。ついでにいえばこの状況、怪獣映画の怪獣出現の直前に似ているような……


 「やっぱり何か変だよな。詰め所まで行った後で様子を見に行こうか」

 「そうね。早くいきましょう」







 一体何があったのか。それはわざわざ様子を見に行くまでもなく明らかになった。紹介所からまた少し歩き、とうとう兵士の詰め所が見えてきた頃のこと。魔道具によって何倍にも拡声された誰かの声が、突然精霊境に響き渡った。


 「精霊境の東部、精霊界との境界付近に巨大なモンスターが出現しました! 現在、街を破壊しながら西へと移動しています。急いで避難してください! なお、冒険者の方には緊急依頼を出させて頂きます。どうかご協力をお願い致します!」


 その声の主は焦りに焦った様子で危険を伝えた。人の多い通りが、水をうったように静まりかえる。


 ……巨大なモンスターが出現って……。ここは地下だぞ? モグラ型のモンスターでも出たってのか!?


 巨大なモンスターに緊急依頼。突然の知らせに静まりかえっていた通りが、にわかに騒がしくなる。どの顔にも緊張と戸惑いが見て取れた。最悪パニックになってもおかしくはない。

 

 緊急依頼というのは、ギルドや街が出す強制力のある依頼だ。主に街に危機が迫った際に出され、依頼を受けなかった場合はペナルティを課されることがある。


 ……つまりはそれが出されるほど精霊境に危険が迫っているということだ。


 まだギルドに登録していない俺は討伐に参加する義務は無いが、戦う力を持っているなら協力すべきだろう。


 「……いいか? 二人共」

 「ああ!」

 「分かってるわ」


 俺達は詰め所の兵士に帝国の男と蓄魔器を渡し、説明を他の精霊達に押し付けてから、精霊境の奥へと今来た道を走り出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ