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消えた精霊

 ファーレ達の家を出てから数十分後、俺達は冒険者の多い大きな通りに出ていた。入口や紹介所の近くであり、冒険者向けの店が立ち並んでいる。精霊界で作られた武器や防具は値段の割に性能が良いと評判らしく、大勢の新米っぽい冒険者が値札とにらめっこをしていた。

 そんな活気のある人々を眺めながら二人の後に続いて歩いていく。


 「ここら辺にユーリの家があるのか? 商業区域だよな、ここ」

 「そうだけど、一歩大っきい通りを外れたら住宅もあるんだよ。人気あるからなかなか住めないんだけどな」

 「へえ、ここら辺が人気なのか」

 「契約待ちにしてもそれ以外にしても、冒険者と関わりたい奴らが多いからね」


 そういえば元々精霊境はそういう精霊が集まってくる所だっけか。まあ、そうじゃなくても活気のある入口近くの方が何かと得だろうし。

 そう思ってたら目の端にフィアナさんの姿が映った。どうやら防具を売る店で働いているらしい。一瞬声をかけるか迷ったが、忙しそうなため止めておく。


 「どうかしたの、ルナ? 何か気になるお店でもあった?」

 「いや、何でも……あ、防具は後で見ときたいかな」

 「確かに、その見た目は冒険者っぽくないわね。街に住んでる子供の服装よ、それ」


 騎士見習いが街へ行くときの服装をかっぱらってきたのだ。そう思われて当然である。

 俺はスピード重視の戦い方をするので、重い鎧をつける気は無い。ただし、蹴りを放つ足は別で、軽くて丈夫なレッグアーマーが欲しいと思っている。サイズがあるか心配だ。あと金額も。


 俺はその後、防具、服、食料品等の店をチェックしながら歩いた。





 通りを歩き続け、とうとう紹介所の屋根が見えてきたとき、先頭を歩いていたファーレが立ち止まり、少し困った表情で振り返った。


 「あー、多分この辺で脇道にそれると思うんだけど……どうだったっけ、姉ちゃん?」

 「えーと、……多分もう一つ向こうじゃなかったかしら?」

 「そうだったっけ?」

 「……多分」


 二人共自信無さげで、会話にやたらと多分が出てくる。可哀想に、ユーリという精霊は家を忘れられたようだ。


 「随分あやふやだな。来るのは久し振りだったりするのか?」

 「久し振りって程でもないんだけど、これが二回目なんだよ。ユーリはつい最近引っ越したばかりなんだ」

 「へえ、ここって人気なんだよな。引っ越せたんだ」

 「ここのところ契約して外に出られる精霊が増えたみたいで、良い所が空いたらしいんだ。冒険者の数自体はあんまり変化してない気がするけど、いつの間にか結構な数の精霊がでていってたみたい」

 「なるほどね」

 「いつの間にか……。ねえ、そう言えばファーレ、この前その事で変な噂を聞いたんだけど」

 「ん?」


 フィールは指を立て、真面目っぽい表情を作って話し始める。


 「なんかね、契約したのに紹介所の書類を取り下げずに出ていく奴が時々いるらしいのよ。訪ねてみたら誰も居なかったって冒険者から苦情が来てるらしいわ」

 「え? 何でだ?」

 「さあ?でも紹介所は結構こまってるみたいよ」

 











 「ーーーーちょっと待て。それって、まさか……」


 ファーレもフィールも大して興味を持ってなさそうだが、俺はこの情報に衝撃を受けた。俺は多分、その理由を知っている。三年後の城の資料室に、その情報はあった。


 「……なあ、二人共、悪いけど、今から紹介所に行っても良いか?」

 「え? 何で?」

 「ま、まあ、別に良いけど……急にどうしたのよ?」

 「ありがとう。少し、確かめたい事ができたんだ」


 











 精霊は不死身で殺すことは出来ない。それと同時に、捕まえることが出来ない事も常識である。何しろ彼等は、自身の体を自由に魔素の集まりに変えることが出来るのだ。そうすれば、本人の意思に関わらず精霊界、または契約者がいる場合はその魔力の中に、強制的に戻されることになる。魔素は全ての物質を透過するので、精霊を捕まえておくのは絶対に不可能だったのだ。しかし、そんな常識を覆す発明をしてしまった国がある。


 それが北の帝国ーーーー北部の広大な山岳地帯を領土に持つ巨大国家だ。同時に昔から他国の領土を狙っている傍迷惑な侵略国家でもある。


 ……そして王国で読んだ資料によれば、この国は今から少し前、精霊を捕まえ、その魔力を軍事転用する技術を開発したらしい。今の時点ではまだ知られていないが、一、二年後には既に各地で猛威を奮っていたようだ。


 精霊境は世界に、東西南北の四つがある。俺が今いるのは西の精霊境だ。帝国は北にあるため、てっきり北の精霊境から精霊を調達しているとばかり思っていたが、どうやらこっちの西の精霊境でもこっそりと精霊を狩っているらしい。

 これは俺にとっては大きいチャンスだ。城の資料によると、軍事力を手にした帝国はろくなことをしなかったようだ。ここで上手く告発して、精霊狩りを止めさせれば、帝国の力を大きく削ぐことが出来る。


 ただし、告発するのは決して簡単な事ではない。タイムリープ能力の制限により、俺の口から帝国のことをバラすことは出来ない。どうにかして、現行犯で押さえたいところだ。


 「ねえ、確かめたい事って何なのよ?」

 「行けばわかる……かも」

 「かもって……」


 俺は訝しげなファーレとフィールを連れて、紹介所に急いだ。








 「すいません! ちょっといいですか?」

 「はい、構いませんよ。おや、あなたは昨日の……えっ、後ろにいらっしゃるのはフィールさんとファーレさんでは? ま、まさか本当に契約されるので!?」

 「あー、その予定ですけど、今回は少し聞きたいことがあって……」


 紹介所に到着すると、昨日と同じ青年が出迎えてくれた。俺が連れてきた二人を見て、凄く狼狽えている。


 「えっと、お二人の契約の条件は強い人……でしたよね?」

 「ああ、そうだよ。年の割に、こいつは強いんだ」

 「えええ……」


 唖然として口をポカーンと開けている青年だったが、俺がフィールが聞いた噂について尋ねると、すぐに復活して詳しく教えてくれた。


 「そうなんですよ。本当に困っているんです。今まではきちんと報告してくれていたのに、半年程前から勝手に出ていっていつの間にかいなくなっている人が多いんですよ」

 「原因は分かりますか?」

 「いえ全く。しかも親しい友人達にも言わずにいつの間にか消えてるんですよ。困ったものです」

 「なによそれ、勝手ね」

 「本当、報告くらいちゃんとしろっての」


 ……どっからどう聞いても誘拐だろ! と、突っ込みたくなる話だが、ファーレとフィールは呑気な感想を述べている。まあ、この反応が普通なのだろう。今までの常識で考えれば、精霊を捕獲するのは絶対に不可能なのだ。


 ……やっぱり、何とかして帝国の工作員を見付けないといけない。


 俺は紹介所の奥に目を向けた。そこでは、昨日よりも大勢の冒険者が契約精霊の冊子を真剣な表情で読んでいる。その中に一人、気になる人間がいた。

 人の良さそうな笑みを浮かべて冊子を読んでいるその男は、ぶっちゃけ個性の無い、どこにでも居そうな人間だ。装備は新しいようだが安物そうな片手剣に、どこでも売ってそうなレザーアーマー。あと灰色で大きめのバッグ。RPGゲームの初期装備みたいだ。体格も中肉中背で顔も普通というか、特長がない。

 あんまり目立たず、記憶にも残りずらそうだ。しかし、帝国の工作員を探す俺からは一番怪しく見える。こういう人間が諜報にはピッタリなんじゃないだろうか?


 まあはっきり言って見た目と偏見でそう思っただけだ。しかし、俺には帝国の人間か見破る方法がある。

 ……タイムリープの能力があれば、無限にカマをかけ続けることが出来るのだ。


 俺はさっき目星を着けた男に話しかけた。


 「あの、ちょっといいですか?」

 「おや、どうしたんだい、坊や」

 

 俺は単刀直入に知りたいことを尋ねた。


 「お兄さんってもしかして、帝国から来たんですか?」

 「うん? どうしてそう思われたのか分からないけど、僕はフロル王国から来たよ」


 全く怪しい所のない、普通の反応だ。さて、本当なのか。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「お兄さんってもしかして、公国から来たんですか?」

 「えっ、いや、違うよ。僕はフロル王国から来たんだ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「お兄さんってもしかして、魔導国から来たんですか?」

 「えっ、いや、違うよ。僕はフロル王国から来たんだ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「お兄さんってもしかして、リグラド王国から来たんですか?」

 「えっ、いや、違うよ。僕はフロル王国から来たんだ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ……帝国のときだけ反応が違うじゃん。やっぱ怪しいぞこいつ。


 俺は話しかける前まで戻り、ファーレとフィールに耳打ちした。


 「おい、あっこの茶色のレザーアーマーの男が外に出たら、こっそり後を追うぞ」

 「ええっ、また急にどうしたのよ?」

 「尾行するってことか? 何で?」

 「あの男、ちょっと怪しい。もしかしたら、さっきの噂に関わってるかも」

 「どうしてそう思うのよ?」

 「言えないけど、根拠はある。取り合えず、感ずかれないように外で待ち伏せしよう」


 そう言って外に出て、紹介所から若干離れた場所から男が出てくるのを待つ。その後僅か十分程でその男も出てきた。


 「よし、追うぞ」

 「何でこんな悪趣味なこと……」

 「まあ良いだろ、どうせやること無いんだし」

 「そうだけどさあ……」

 「あたしはちょっと楽しみかも。事件の匂いがするわ!」

 「姉ちゃん……」


 ボヤくファーレと何となくテンションが上がっているフィールを連れて、俺は尾行を開始した。

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