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二対二の勝負

 「じゃー始めよっか。僕達は精霊だから真剣使ってくれて構わないよ。あっそう言えば君、武器は持ってないの?」

 「ん?ああ、俺は素手で構わない。肉弾戦が得意なんだよ」

 「え?魔法職じゃないの?」

 「ああ」


 この年齢で素手で前衛をやろうと言うのか。無茶にも程がある。


 「私も模造刀を持ってるから一応そっちを使うよ」


 少女が持っていた鞄の中からキズだらけの模造刀を取り出した。その代わりに腰に提げていた剣を鞄に収める。驚いたことに、アイテムボックスを持っていたらしい。 


 「へえ、アイテムボックス持ってたんだ。それにその剣、かなり使い込んでるわね」


 フィールが警戒を深めた。冒険者としての新人がイコール弱いとは限らない。子供の頃から修行を重ねていると、ギルドに登録する前から驚くほど強いことがある。もしかしたら……


 「よし、じゃあ気を取り直して始めようか」


 すっと四人が構えをとる。少年の構えは完全に素人だったが少女の構えには洗練された美しさがあった。何かしらの剣術を修めていることが分かる。


 「それじゃあ、始め!」


 ファーレの声が響いたその瞬間、最初に動いたのはフィールと、その相手をする少女だった。双方が同時に飛び出し、剣を打ちつける。ギインッという甲高い音が鳴り響いた。


 そのとき、ファーレはついそちらに目を向けてしまった。驚いたのは少女の速さ。スタートは同時だったにも関わらず、二人がぶつかったのは中間よりもかなりフィールの方に近かった。フィールはグレートソードを使うパワータイプの戦士だが、決して瞬発力に劣っている訳では無い。それなのにこの結果。それはつまり、この少女が高い実力とスピードを有していることを示している。


 ファーレがこのとき余所見をしてしまったのは、その驚きが大きかったのと自身の相手が素手の子供だったのが理由だ。完全に油断していた。しかし、ファーレもかなりの実力を持つ戦士であり、それもほんの一瞬のことだった。


 ……だというのに。


 「うわあっ!?」


 気が付けば目の前には少年の履いている靴があった。高速で迫ってきたソレはファーレの顔に当たるギリギリのところで止まり、すぐに後退して地面に着地した。


 何が起こったのか、ファーレにはすぐには分からなかった。少年がしたことは単純だ。こちらが油断した隙に一気に走りより、顔面に蹴りを入れる。もし寸前で止めてくれなかったら間違いなくやられていただろう。しかし、自分が隙を見せたのはほんの一瞬。それをついて彼は眼前に現れた。尋常じゃないスピード。子供に出来る事ではない。いや、そこら辺の冒険者でも不可能だ。


 突然のことに理解が追いつかないファーレの前で、少年が少し呆れたように口を開いた。


 「自分がナメられる見た目なのは分かってるつもりだけどさ、余所見をするのはさすがに油断し過ぎじゃないか?真面目に戦わないとすぐに負けちまうぞ」

 「マ、マジで……?」


 まだ信じられない思いのファーレだったが、すぐに気を取り直す。強いと言うのはむしろ嬉しいことだ。緩んでいた思考を引き締め、剣を握り直す。雑念を払い、気合いを入れて改めて少年と向かい合う。


 「いやあ、悪かったよ。確かにナメきってた。でもここからは本気で行くよ。もう油断しない」

 「そうか」


 剣を構え、次は自分から仕掛ける。ファーレはレイピア使いであり、パワーの姉とは違いスピードに優れている。ちょこまかとすばしっこい相手なら臨むところだ。低い位置への攻撃でわざと上にかわさせて、体が浮いた相手に逆袈裟に切りつける。が、


(やっぱりだ、こいつ空中を蹴れるんだ)


 更に上に逃げられた。さっき顔への蹴りを寸前で止めてそのまま後ろに下がれたのは、このスキル、もしくはギフトがあったからだろう。


 「はあっ!」

 「くっ!」


 上に逃れた少年のはすぐに切り返し、ジグザグに動いてこちらを翻弄してくる。レイピアを振るって反撃するが何度攻撃してもギリギリのところで当たらない。また、少しでも隙を見せればすぐさま突いてくる。


 (ちょ、嘘だろ、僕の剣を全部見切ってんの!?……それに妙な風を感じるし。何かしらの魔法を使ってるのか?)


 一進一退の攻防。しかしファーレは少しずつ少年のトリッキーな動きに慣れ始めていた。段々と防御が楽になってくる。そろそろ終わらせてやろう、と勝負に出ることを決意した瞬間だった。


 「レイナ、交替!」

 「うわっ、えと、……りょ、了解!」


 少年がフィール達の戦っている方へ飛び込んで行ったかと思うと、代わりに少女がこちらへ向かって来た。


 (マズいっ!!)


 ファーレはすぐに少年の狙いを理解した。この模擬戦のルールは二対二。途中で相手を替えても問題は無い。そしてパワー型のフィールはあのすばしっこい少年には不利だ。軽いレイピアでの連撃を避けきった相手を、重いグレートソードで捉えられる筈が無い。


 「クソッ、どけよっ!」

 「ふふん、あんたの相手は私だよっ!」


 姉の助太刀に向かいたいファーレだったが、相手の少女がそうさせてくれない。この少女はスピード寄りのバランス型な強さを持ち、ファーレではパワー負けしてしまう。


 そして相手が交替してから間も無く、フィールが剣を弾き飛ばされて負けた。二対一になってしまえば勝ち目などない。ファーレも素直に剣を下ろし、負けを認めた。








 「お前ら本っ当に強かったんだな。凄い驚いたよ」

 「本当、人は見掛けに依らないわね。特にあなた、あの空中走ったのってギフトなの?」


 模擬戦を終えてすぐ後、興奮冷めやらぬ様子の姉弟がそこにいた。その相手をする二人はややその勢いに呑まれているが、少年はきちんと答えを返す。


 「ギフトだよ。さっき見てもらったように、俺は素早くて立体的な動きが出来る事が強みなんだ。ただ、攻撃手段は蹴りが主体なんだけど、少し威力に不安があるんだよな」


 少年はそう言って意味ありげに姉弟を見た。その言葉でファーレは遅まきながら少年の戦闘スタイルは自分達のギフトととても相性が良い事に気付く。もし契約すればうまく長所を伸ばし短所を消す事が出来るだろう。


 「遅くなったけど、改めて自己紹介するよ。俺の名前はルナ。冒険者を目指している」

 「私はレイナだよ。ルナ君と同じで、冒険者志望だよ」


 既にそこらの冒険者より強いだろ。そう突っ込みたくなった姉弟だが、ぐっと我慢する。


 「僕はファーレだよ。よろしく」

 「あたしはファーレの姉でフィールって言うの、よろしくね」


 簡単な自己紹介が終わると、フィールが提案を口にした。


 「取り敢えず中に入らない?契約の事を話すなら、長くなるかもしれないし」











 精霊の双子に案内されて彼等の家に移動する間、俺はさっきの戦闘を思い返していた。

 最初の不意討ちは向こうが余所見をしたこともあり成功した。侮られる見た目も使いようによっては武器になるかもしれない。しかしその後、油断をなくしたファーレには何度タイムリープをしても届かなかった。更に、彼が天駆を使った立体的な動きに慣れてきた終盤は、攻撃をかわすのが難しくなっていった。ファーレはレイピアを使い、速さと手数で攻めてくるタイプで、俺にとっては天敵だ。結局レイナと交替してもらい、正反対の戦い方をするフィールを倒すことになった。

 攻撃手段が蹴りしかない事、それから相手の攻撃を受けられずにかわすしかない事が問題だ。何かしらの装備を買うことで解決出来るだろうか。


 「ささ、入って入って!」

 「お、お邪魔しまーす」

 「お邪魔します」


 フィールに急かされて家にお邪魔する。庭に比べるとこじんまりしているが、物が多い割には整理が行き届いている。精霊の家はどんな物かと思っていたが、普通の人間の家と何ら変わりは無さそうだ。リビングには四人がけのテーブルがあり、ファーレが飲み物を用意してくれた。冷蔵庫の魔道具があるらしく、しっかり冷えている。ファーレが席に座ると、フィールが待ってましたとばかりに話をきりだした。


 「よし、じゃあ確認だけど、私達と契約しようと思ってるのはルナなのよね?それでルナはその内冒険者になるつもりでいるわけね?」

 「ああ、そうだよ。どうかな、契約してもらえるかい?」

 「ええ、あんた達なら契約しても良いと思ってるわ。私の見立てでは二人ともCランククラスの実力がありそうだし、それに前衛なら私達のギフトと相性が良いしね」


 色好い返事が貰えたことは嬉しいがCランクの実力で良かったのだろうか?彼等のギフトを考えればもっと強い冒険者とも契約出来ると思うのだが。


  「Cランクかあ、それって結構強いってことなのかな?なんか照れるなあ」

 「Cランクになれれば腕利きの冒険者だよ。レイナはランクには詳しくないの?冒険者目指してるのに?」


 ファーレが若干呆れたように言うが、レイナが冒険者を目指し始めたのは昨日今日の話である。


 「いやあ、剣の修行は結構前からしてたんだけど、本格的に冒険者になろうって決めたのはつい最近なんだよ。でもDランクで一人前って聞いた事があるかなあ」

 「ふうん、じゃ、ランクについては僕達が説明するよ」


 仕方ないなあ、という顔をしながら、ファーレもフィールも少し楽しそうだ。冒険者関連の話が好きなのかもしれない。


 「ランクはギルドが決める冒険者達の能力の指標のようなものだよ。ギルドに舞い込んでくる依頼も同じようにランク分けされていて、それぞれの能力に合った依頼を受ける事が出来るんだ」


 「実力と実績に応じて与えられるって言うけど、まあ強さを表していると思ってくれて良いわ。SからFまでの七段階あって、さっきレイナが言ったようにDランクまで行けば一人前になれたと言えるわね」


 「ちなみにFは本物の駆け出しか討伐依頼を受けない人用だよ。冒険者は何でも屋みたいな側面もあるからね。ルナ位の歳の奴とか戦うのが苦手な奴は、街中での手伝いとか安全な所での採集とかをやるんだよ。こーゆーのがFランクの依頼。ま、モンスターの討伐やってればすぐにEに上がれるらしいよ」


 「Eランクは一人前未満の冒険者達のランクね。ここもまだまだ駆け出しって感じ。コツコツやってればいつかはDランクになれるらしいけど、死亡率は一番高いそうよ。Dランクはさっき言った通り一人前の冒険者ね」


 「Cランクからは上がるのが急に難しくなるんだ。だからここから上はガクッと数が減る。Cランクになれれば腕利き冒険者だよ。一般の冒険者からは頭ひとつ飛び抜けたってとこかな」


 「Bランクになればもう凄腕冒険者ね。皆から頼りにされるんじゃないかしら」


 「んで、最後にAランク。これはもう超人って言われてるよ。街のヒーローだね。いや、場合によっては国のヒーローかも」



 「く、詳しいんだな……」

 「よく知ってるね……」


 一息に喋られた。冒険者に関しては相当詳しいようだ。ん、しかしAで最後か?


 「あれ、でもSランクはどうなの?」


 レイナがキョトンとした顔で訊いた。


 「あー、Sランクかあ……」

 「そうね、Sランクは……」


 「「……人外?」」

 

 人じゃないんかい。どんなんだそれ。


 「Aランクの時点で十分人間超えてるんだよ。それ以上は本当に人間辞めてるらしい」

 「いやまあ、世界に三人しか居ないらしいから、あんま気にしなくて良いんじゃないかな」

 「ふーん、上には上が居るんだね」


 感心したように頷くレイナ。Sランクについては俺もよく知らなかった。


 「しかし本当に詳しいんだな。前に契約者がいて、外に行ってたって聞いたけど、その時に知ったのか?」

 「それもあるけど、あたし達は両親が冒険者だったのよ。父さんが人間で母さんがその契約精霊だったの」

 「へえ、そうだったのか」


 実はこの世界では異種族間でも子供を作ることは出来る。ただし生まれた子供の種族は必ず母親と同じになるため、混血は存在しない。だからファンタジーの定番であるエルフはいるが、同じく定番のハーフエルフはいなかったりする。


 「昔っから冒険の話ばっか聞かされてたからなー。いつかは自分達もって頻繁に稽古をつけて貰ってたんだよ」

 「なるほどね、二人が例外ってのはそれが理由か」


 しかし俺には一つ疑問が残る。


 「なあ、一つ質問良いか?」

 「ああ、いいよ」

 「俺と契約してくれるなら嬉しいんだけどさ、Cランクの実力で良いのか?二人のギフトなら、AランクBランクにも契約したがる人は多いと思うんだが」


 紹介所で強さの条件がやたらと厳しいと聞いたとき、今の俺では難しいかもしれないと不安だったのだ。

 俺の質問に二人は一度顔を見合わせてから答えてくれた。


 「まあ僕達もこのギフトなら契約したがる奴は多いと思ってるよ。だけど残念ながら、強い冒険者は殆ど精霊境に来てくれないんだ。来るのはもっぱらEランクさ」

 「えっ、何で?」

 「そりゃあ精霊が弱いからさ。僕達が例外なだけで精霊は戦いが苦手な奴ばっかだよ。時間制限もあるしな。腕の立つ奴は適正目当て以外ではここに来ないし、適正目当てって時点で僕達のギフトと相性が悪い魔法職さ」


 ……なんか本で読んだ話と違うぞ。


 「でも一度契約して外に行った経験のある精霊は強いんじゃないのか?」

 「そんなに強くなれるくらい外を冒険した精霊は、殆どの場合二人目の契約者を探そうとは考えないわね」

 「外に憧れて戦う訓練をしてる精霊も居るって聞いたんだけど」

 「ああ、一応居ると言えば居るかな。まー僕達から見たらお遊びだけど」

 「…………」

 「ルナ君?」


 レイナがジト目で見てきた。本で勉強しただけだった弊害がここで出てきたか。


 「ま、まあ中途半端に無知だったお陰で例外な精霊に会えたんだから結果オーライだろ」

 「確かにそうだね。でも私はどうしようかな。ねぇ、ファーレ君、フィールさん、私に合う精霊さんに心当たりがあったりしない?」

 「あー、一人居るかな。後で紹介しようか?」

 「本当に?ありがとう!」


 レイナにもピッタリな精霊が見つかりそうだ。俺の精霊に対する認識は間違いだったようだが、本当に結果オーライだ。


 「よし、それじゃあ話はそれくらいにして、さっさと契約しちゃいましょうか」

 「そうだね。準備は良い?ルナ」

 「ああ、大丈夫だよ」


 そう言って二人が差し出してきた手を、俺は迷わずにとった。

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