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ミストフラムで

 「へえ、あれがミストフラムか。聞いてはいたけど、実際にみるとでかいな」

 「あれ、ルナ君はミストフラムに来るの初めてなの?」

 「ああ」

 

 馬車に揺られながら段々と近づいて来る街を観察する。もっとも、モンスターの進入を防ぐためであろう城壁がぐるりと街を囲んでおり、中を見ることは出来ない。しかし、城の図書館で見た資料が正しければ街並みは王国とあまり変わらない筈だ。つまり中世ヨーロッパ風と言うか、ちょっとレトロな感じ。ただし、建築魔術なるものがあるので馬鹿でかい建物も結構ある。

 大きさは流石に王都には及ばないにしても、シリルレーンよりかはずっと大きい街だ。


 「冒険者の人がいっぱい来て、凄く賑やかな街なんだよ。中に入ったら案内してあげるね。こー見えてミストフラムには詳しいから」


 目的地について少し落ち着いたらしく、レイナは胸を張ってそう言った。えっへんと言う擬音が聞こえて来そうだ。ちょっぴり言動が子供っぽい。

 俺は後ろをちらりと見てからそれにレイナに言葉を返した。


 「それはありがたいけど、街に入る前に後ろの奴らを下ろさないとな。時間が掛からないと良いんだけど」


 馬車で街の門の所まで行くと、さっそく俺達は門の前にいた門番の兵士に盗賊を捕まえた事を伝える。少し驚かれたが直ぐに兵士の詰所に通された。俺は見た目が幼いので、レイナが捕まえた事にして、事情を話す。


 「へえ、嬢ちゃんが一人で五人も倒したのかい。まだ若いのに凄いね」

 「い、いえ、その……はい」


 レイナが恥ずかしそうにこちらをチラ見してくるが無視する。どうやら盗賊達は顔の割れたお尋ね者だったらしく、あまり時間を掛けずに賞金を貰う事が出来た。案内してくれた兵士にお礼を言ってから詰所を後にする。



 「良かった、割りと早く終わったね。はいコレ、賞金のお金」

 「ありがとう。へえ、結構貰えるんだな」

 「盗賊になる前に街でも色々と問題起こしてたみたいだからね。ところでルナ君はこれからどうする?やっぱり早くご飯食べに行きたい?」

 「まあ腹は減ってるけど。レイナはどうするんだ、その馬車」

 「お父さんの知り合いの所に一旦置かせて貰うつもりだよ。けど事情の説明に時間が掛かるかもしれないんだよね。一緒に来てくれる?」

 「まあ良いけど……あ、待って、時間が掛かるならその間に換金所に行っても良いかな」

 「換金所に?ああ、盗賊が持ってた物をお金に変えるの?」

 「そうだけど、それ以外にもかなりの数の魔石があるから時間が掛かると思う。換金所どこにあるか分かる?」

 「分かる分かる。あそこにひときわ大きい三角屋根の建物があるよね。あれが冒険者ギルドなんだけど、そのすぐ近くにあるよ。あの辺りに行って換金所の看板探したら直ぐに分かると思う。ルナ君字は読めるよね?」

 「読めるよ。教えてくれてありがとう。行ってみる」

 「早く終わっても換金所で少し待っててくれないかな、出来るだけ早くいくから」

 「分かった」


 そうしてレイナは父親の知り合いの所に行き、俺は換金所に行く事になった。彼女に手を振ってから教えてもらった建物に向かって歩いて行く。ギルドに近くなるにつれ、丈夫そうな服や皮や鉄で作られた簡単な鎧を身に付け、剣などの武器を持った人が増えてきた。彼等が冒険者だ。


 冒険者と言う職業は基本的には魔物を討伐したり、魔物から護衛したりするのが仕事だ。健康な人なら誰でもなれるが、当然命の危険がつきまとう。しかし、強くなってランクを上げていけば多くのお金や名声を得られるため、高ランク冒険者を夢見て冒険者になる者も多い。ランク、と言うか本人の強さによってかなり扱いが上下する職業だ。低ランクだと一日中魔物を追いかけていてもお金に困る場合もあるが、高ランクだと街のヒーローである。


 冒険者ギルドはひときわ大きな、街の広場にたつ建物だ。目立つ所にでっかく、剣とドラゴンをモチーフにした冒険者ギルドのエンブレムが掲げられている。後から聞いた話だが、ギルドには酒場の他に職員用の宿舎なんかも併設されているらしい。


 その近くに着くと、更に大勢の冒険者がいた。このミストフラムの周辺にはそこまで多くの魔物は居ないのだが、しかしとある理由によって多くの冒険者がこの街を訪れるのだ。

 

 ちなみに、このファラリアには人間以外の異種族という者達がいる。王国ではほとんど目にする機会が無かったが、この街ではちらほら見かける。ケモ耳と尻尾を持つ獣人族や、黒い角と浅黒い肌を持った魔人族が普通に歩いている光景は、俺にとってはかなり新鮮だ。


 ギルドの前でキョロキョロと辺りを見回していると、直ぐに換金所の看板が目に入った。ギルドの近くと言うかギルドに併設されているらしい。とりあえずさっさと入ろう。



 「おや、可愛らしいお客さんですね。何かご用ですか?」

 「幾つか換金したい物があるんです」


 換金所に入ると、カウンターにいる優しそうな青年に声を掛けられた。あまり混んで無いので直ぐに見てもらえそうだ。


 「量はどの程度ありますか?」

 「けっこう……いや、かなり多いですよ。このポーチはアイテムボックスなんです」

 「そうですか、それなら別室で拝見しましょう」

 

 別室に通されると俺はすぐにテーブルの上に盗賊達が持っていた盗品を出した。少ないが宝石類もあるので、期待できそうだ。もちろん自分で使えそうな物はとりのけている。


 「うん?これは……」


 ギルドの職員らしき人が眉を寄せる。確かに、見るからに盗品って感じだ。この人が怪しむのも当然である。

 俺は詰所で貰った盗賊の討伐証明書を渡した。


 「討伐された盗賊が持っていた物なんですよ。換金をお願いします」

 「そうですか、失礼しました。他には何かありますか?」

 「後は魔石の換金も頼もうと思っています」

 「魔石ですか?それならギルド内の換金所に持ち込んだ方が良いですよ。魔物の討伐証明にもなりますので、こちらより高値で買い取らせて頂く事が出来ます」

 「いえ、ギルドカードを持ってないので……」


 話をしながらアイテムボックス内の魔石をテーブルに出す。三ヶ月間昼夜問わずに魔物を追いかけた成果である。かなりの量だ。

 あ、職員さんの顔がひきつった。


 「こ、これは……角ネズミの魔石ですか。凄い量ですね。……あの、本当にギルド内の換金所でなくて良いんですか?こちらだと値が落ちますよ」


 出来れば向こう行ってくれないかなっていう職員さんの意志がひしひしと伝わってくるが、無視して換金を依頼する。いずれはギルドカードを手に入れるつもりだが、今はまだ早い。





 それから暫く待ってお金を受け取った俺が換金所から出ると既にレイナが待っていてくれた。 


 「あ、終わった?」


 ヒマそうにギルドの近くをうろうろしていたレイナが小走りで近寄ってきた。


 「終わったよ。結構良い金になった」


 盗品が、だけど。残念ながら俺が三ヶ月かけて集めた魔石は大した金額にはならなかった。ほとんどがジュエルラットの魔石だったのだが、コレにはただ同然の値段しかつかなかった。チリは積もっても所詮小山ということか。


 「それじゃあご飯食べに行こっか。オススメの食堂があるから案内するね」

 「ああ、頼むよ」


 ポニーテールを揺らしてレイナが前を歩く。そろそろ空腹が限界に近い俺は黙ってついていく。

 暫く歩くと、彼女は大通りから外れて、細い路地に入って行った。段々と人影もまばらになってくる。


 「こんな所にオススメの食堂があるの?」

 「けっこう穴場なんだよ。あ、今はちょっと近道してんの。この街って冒険者が多い割には治安が良いから大丈夫だよ」

 「近道って……随分詳しいんだな」

 「昔この街に住んでた事があるんだよ。あ、ほら見えてきた。あのお店だよ。けっこうお洒落でしょ?」


 彼女が指差した方には確かに、こ洒落た一軒の店がある。目立つことはないが落ち着いた雰囲気の店だ。レイナは少し懐かしそうに目を細めた後、店の中に入って行き、俺もそれに続く。


 「ラッシャイ!っとぉ……って、おお!ディードんとこの嬢ちゃんじゃねえかぁ。久しぶりだな、オイ!」

 「久しぶり、ゴードンさん」


 店に入ると物凄いマッチョが出迎えてくれた。花柄のエプロンとナプキンを着けているが、あまり似合ってない。もしかしたら元冒険者だったりするのだろうか。言っちゃ悪いけど店の雰囲気に合ってない。

 俺達二人は、カウンター席に座った。少し周りを見回すと、半分近くの席がうまっている。わかりずらい場所にあるにも関わらず、けっこう繁盛しているようだ。


 「ねえ、ルナ君はどれにする?ゴードンさんのお店だからどれも美味しいよ」


 この店はきちんとメニュー表を用意しているようで、レイナがさっそく手渡してきた。種類も中々多く、値段も良心的だ。


 「ん~、どれかオススメの料理とかある?」

 「あるけど……、何か好きな物とか嫌いな物とかないの?」

 「食べられる物だったら何でも食べるけど」

  「でも何かあるでしょ?」

 「いや?栄養バランスは気にするときもあるけど、味に関しては気にしたことないな」

 「……ルナ君ってもしかして味オンチ?」

 「何でそうなるんだ」


 結局、二人共ゴードンさんの今日のオススメらしいセットメニューを頼むことになった。待つ間レイナはその後も食べ物の好き嫌い事を聞いてきた。そんなに気になるのだろうか。


  「ヘイ!日替わり『店長のイチオシ定食』2人前お待ち!!」


 暫く待つと、グラタンっぽい物と、スープとサラダが出てきた。俺にとっては三ヶ月ぶりのマトモな食事である。出されてすぐにスプーンを持って食べ始めた。


 「あちち……うん、やっぱり美味しいでしょ?ゴードンさんのお店は」

 「ああ、美味しいよ」


 キチンと味付けがされていて、毎日宮廷料理人の料理を食べて舌が肥えている俺でも甲乙つけがたいと思える。日本の料理と比べても見劣りはしない。空腹も手伝ってどんどん箸……ではなくスプーンが進む。


 「しかし何でさっきから俺の食べ物の好みを聞き出そうとするんだ?」

 「いやー、結局ルナ君の正体って謎じゃない?せめてどんな物が好きか、位は知りたいなと」

 「食べ物の好みで正体を探るのは無理だろ。ってか、素性の詮索はあまりして欲しくないんだけど」

 「あ、やっぱりワケアリ?それなら聞かないけど味の好み位は教えてくれても良いじゃない」

 「いや、だから特に好きな物も嫌いな物も……」

 「嘘、何かあるでしょ?私だってハンバーグが好きでニンジンが嫌いだったりするよ」

 「子供か」

 「何でそーなんの!」

 「いや、今のはそう突っ込んで欲しかったとしか思えない」

 「もうっ!」


 プクッと頬を膨らませてそっぽを向くレイナ。ますます子供っぽい。そこに料理が一段落したらしいゴードンさんがやってきた。


 「どうした、何言い争ってんだ?」

 「うう、ルナ君が意地悪なんだよ」

 「意地悪って……変わらんなぁお前さんは」


 ゴードンさんが俺の方を見てからニヤリと笑う。


 「なんだ、もしかして嬢ちゃんの恋人だったりすんのか?逢い引きか?それにしちゃあ小っこいがなあ!」

 「な、い、いやいやいや、この子はその、私の恩人と言うか、危ないところを助けてくれた人で、そのお礼にここを紹介しただけで、別にそう言う関係ではなくてっ!」


 慌てて否定するレイナに、ゴードンさんが面白い物を見た、という顔になる。


 「冗談のつもりで言ったんだが……まさかな。まあ、それはそれとして、だ。嬢ちゃんがこっちに来てるってことはディードの奴もいるんだろ?あいつは顔見せねえのか?」

  「っ!!」


 その言葉を聞いたとたん、レイナの顔色が一瞬で暗くなった。さっきまで少し赤かった筈の顔が、なんだか青白くさえ見える。

  スプーンを持っていた手を力なく下げ、床の方に目を泳がせた。


 「何か、あったのか?」


 レイナの表情の変化に気付いたゴードンさんが神妙な顔で聞いてきた。

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