表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/16

009話 魚も捕るよ

 『職業に貴賎無し』

 と、昔から言うけれど全く同感だね。

そんな僕の家の仕事は山で動物を獲ったり兎を飼育したり薬を作る。

 でも、それだけじゃなくて、村のそばを流れる川の上流で魚や亀も獲ったりしている。

 村の人の中には肉より魚を好む人もそれなりにいるらしい。


 ちなみに川で魚や亀を獲るためにも領主様には毎年、川の「使用許可料」を払ってるそうだ。川も領主様の物なのか、ヤレヤレ。領主様と言っても今は、僕達母子を追い出した奥方様が代理役だけどね。

 

動物や茸の名前は日本と同じなのだけど、川で捕れる魚は微妙に違うようだ。ヤマーメ、アーユ、ウナーギ、ギバーチと言った魚が捕れるけど、ヤマーメは山女で、アーユは鮎で、ウナーギは鰻で、ギバーチは義蜂(ナマズの一種)だと思う。スポーンという亀も捕れるけどこれはスッポンだろう。


 魚は主に春から秋にかけて捕っている。冬は寒いのに川で濡れて更に冷たい思いをするのは大変過ぎるという事らしい。

 祖父様(じっちゃん)母様(かあさま)が、山での狩りで早い時間帯に獲物を捕り家に持ち帰った時とかは、夕方に川に行って仕掛けをするのだ。それで朝、仕掛けを回収し釣れた魚を確保する。

 あとは空に雲が多く見えるなど、山の天気の様子がこれから崩れかもしれないという日は朝から川で漁をする。雨の降る山は危険だからね。まぁ川で漁をしていても雨が降ってきたらおしまいにするけど。


 魚を捕る仕掛けは一種の延縄みたいなものだ。まず親糸と呼ぶ7メートルほどの細めのロープがあり、この親糸の両側、約1メートルおきに互い違いに、子糸と呼ぶ釣り針を付けた糸を7本ほど結え、釣り糸としている。親糸の端には袋を付け、その中に錘となる石を河原で拾って入れている。

 餌は何と動物の肉。兎だとか鹿だとか解体する時、どうしても小さな肉片や屑肉が出てしまうから、それをちょっぴり餌にするのだ。動物の肉で川魚が釣れるなんて初めて見た。地球のどこかの地域でもやってるかもしれないが、もしかしたらこの世界の魚の生態が地球の物とは違うのかもしれない。

 ともかく、この仕掛けを川の上流に夕方に仕掛け、朝に回収すると魚が掛かっているというわけ。ただ、これで釣れるのは主にギバーチとウナーギとスポーンだ。

 朝から行く場合も同じように仕掛け、1時間おきくらいに仕掛けをあげるとヤマーメ、アーユが釣れる。

ギバーチは春から秋にかけていつも捕れる。ウナーギとスポーンも捕れるけど数が少ない。

というかスポーンは領主様の館に川の使用許可料として物納する事が多い。スポーンは高級食材なんだそうだ。ちなみにギバーチ200匹分がスポーン1匹と同じ価格になる。スポーンたけぇー!

 ヤマーメは5月頃によく捕れ、アーユは7月頃によく捕れる。どちらも30センチほどの大きさだ。


 それにしても日本の釣りの格言には『一場所、二餌、三仕掛け』っていう言葉があるのだけど、この川での漁は完全にそれを無視しているような感じだ。日本の鮎の場合、若くて小さい鮎などは虫の餌も食べるけど、成長した鮎は岩の苔ばかり食べる筈で、だから「友釣り」何て言う特殊な釣り方をしているのに。なのにここの鮎、いやアーユと言ったら……。ヤマーメにしてもこんな仕掛けで捕れるなんて……。やはり似ているけど日本の鮎や山女とは別種類なのかなぁ? うーん、分からない。異世界だしね。


 ところで、この他にたまに釣れる1メートル程の魚がいる。この魚、某作品の大きな麦藁帽子を被り東北弁を喋る少年主人公が「幻の魚」として釣り上げていた。その名は「イトウ」だ! ここではイートウと言うらしい。日本では実物を見た事無かったけど、この世界で見れるとは。まぁ日本でもイトウを養殖していて「イトウ料理」を出す店もあるから「幻」というのは大げさ過ぎる気もするけど、珍しい魚には違いない。食べれて嬉しい! 美味しかったよ。うん。ついでに言うと、このイートウの皮は厚いので、なめして革にして商人に売っている。


 ここでの魚の料理法は塩焼きやハーブを使った香草焼きが一般的みたいだ。今は村に牛が少ないせいで、なかなかバターが手に入り難いけど、バターがある時はムニエルよくもするらしい。

 ちなみに日本には『5月ヤマメで鮎かなわん』って言う格言もあるけど、それは同じで5月のヤマーメは確かに美味くて、アーユの美味さを超えていたよ。うん。

 ただ、ここには魚を刺身で食べるという習慣は無いようだ。日本じゃ鮎とか山女とかナマズの刺身とかあるけど、ここじゃそういう食べ方は一切しない。ちなみに魚の内臓は畑の肥料になるそうだ。


 ところで、日本の沢蟹みたいな川にいる蟹は今のところ見かけない。この世界にいないのか、それともこの地域にいないだけなのかはわからない。

 ついでに言うと、ここでは蛙は食べないようだ。地球じゃ西洋でも東洋でも食べるのに。何でだろう、そのうち祖父様(じっちゃん)にでも聞いてみよう。


 そんなこんなで、僕は猟師の家族として暮らしている。

 今は一日も早く大きくなり猟師としての技術を身に付け、一人前になって家族のみんなを楽にさせてあげたいと思っている。

…………あっ、このままの生活じゃメイドを侍らすなんてできないかぁ。困ったなぁ僕の野望が……。うーーーーーん。

 というか、夢か憑依か転生かトリップか、よくわからないままに生きてきたけど、こういうのって、もっとこう何ていうか「力」を持って異世界に行くのが普通じゃないの!

 赤ん坊の頃から魔法の力があってそれを自己努力で増大させるとか、最初から膨大な魔力を持ってるとか、特殊な力を持ってるとか、素質というか才能があって段々と力を開花させるとか、逆に力は無くても王家に生まれたり、大貴族の家に生まれたりして、前世の記憶を役立てるとか、何か発明するとか、女性だったら王子様と偶然出会ったりして王妃になるとか、逆ハーレム状態になるのに……何で僕にはそういうのが無いんだ! 魔法の力は無いし、貴族の生まれだけど妾の子だから館を追い出されたし、今じゃ普通に猟師の家の子だよ。何この平凡な生活! 何なんだこの展開は! 納得いかーーーーーん! 責任者出てこーーーーーい!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ