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007話 同士の絆?

『捨てる神あれば助ける神あり』

 という言葉が頭に浮かんだ。『捨てる神あれば拾う神あり』とも言う。どちらも正しいらしい。

 そして、それは今まさに僕達母子の事だろう。

 なんて言ってる場合じゃなぁーーーーい。恥ずかしぃ! とても恥ずかしぃ! すっごく恥ずかしぃ!

 何せ母様(かあさま)が僕を連れて山に入ったのを、母子無理心中するものだと勘違いし、「僕を捨ててくれ」とか「母様(かあさま)のためなら死ねる」なんて自己陶酔に浸っていたら、「実は母様(かあさま)の実家が山にありましたとさ」という展開! うぉっーーーー!!!!!!!!!! 何という事を! 何と言う事を! 何と言う事を! 僕は、僕は、僕は、考えていたのだぁーーー。言ってしまったのだぁーーーー!!! 恥ずかしすぎるぅーーーーー!!!

 今の僕は小さな両手で顔を隠して悶えております。母様(かあさま)の肩に頭をこすりつけて身悶えしております。いやいやをしております。 

 あぁー、穴があったら入りたい。祖母様(おばあちゃま)、シャベルがあったら貸して下さい。自分で穴掘って埋まります。なんという恥ずかしい考えをしていた事か僕は!!! 

 不幸中の幸いは、今の僕がうまく喋れなかった事だ。喋れなくて良かった。ホッとした。さっきまで喋れない事を嘆いていたのに現金なものである。あっははははと、乾いた笑いを心の中でする。ヤレヤレ。

そんな羞恥心から母様(かあさま)に縋り付いて身悶えている僕を見た祖母様(おばあちゃま)が、母様(かあさま)に尋ねてます。

「あら、どうしたのかしら?」

「きっと、初めて母さんに会うから照れてるのよ、この子。ほら、シャルリー挨拶しましょうね?」

 そう言われては仕方ないので、とりあえず祖母様(おばあちゃま)に挨拶しますか。

「はぁひぃめぇまぁひぃふぇおぅばぁひゃんしゃあるぅひぃーへす」(初めまして、おばぁちゃん。シャルリーです)

「まぁお利口さんな、いい子ね」

 まだ火照ったままの顔で笑顔を作り、とりあえず挨拶してみたところ。喜ばれました。ほっ。  

 ちなみに祖母様(おばあちゃま)は40歳代に見える美人だ。母様(かあさま)祖母様(おばあちゃま)にそっくりという感じか。母様(かあさま)が年を取ったらこんな感じになるのだろう。

 その祖母様(おばあちゃま)が、抱かせて、抱かせてと母様(かあさま)に言いい、僕は大人しく母様(かあさま)の手から祖母様(おばあちゃま)に渡され抱かれました。

 さて、ようやく僕も落ち着きを取り戻し、周辺を見る余裕ができた。 

 ここら辺は、まだ山の低い部分にあり、それほど広くはないものの平地になっているようだ。この平地の部分は木が少なくテニスのコート二個分ぐらいある。山の斜面からは、かなり大きな岩が複数見えていて、そのうちの一つに洞窟のような亀裂が見える。その近くに家が一軒と、そこから少し離れた場所に小屋が見える。反対方向を向いて下界を見下ろせば、今まで僕達母子が住んでいた館や村が一望できる。なかなかいい景色だ。

 さて、すぐ近くに建っているのは当然、祖母様(おばあちゃま)の家だろう。この家、いかにもログハウスという外観だ。日本の場合、ログハウスと言っても角材を使っている物もあったりすけど、本来はログハウスの「ログ」は丸太という意味で、直訳するとログハウスは「丸太のお(うち)」という事になるらしい。その点で言えば祖母様(おばあちゃま)のお家は、まさに丸太でできた正統派のログハウスという感じだ。

 そのお(うち)に僕は祖母様(おばあちゃま)に抱っこされて入った。中には大きな暖炉があって、木製だろうテーブルや椅子や棚があって、いかにも山のお(うち)という感じだ。棚は何段にもなっていて大きな物や小さい物など、蓋をした陶器製(?)らしき壷が何個も置いてある。

「お父さんは狩り?」

「そうよ。もうすぐ帰ってくる頃ね」

 二人の会話から爺様(じっちゃん)もいる事を知る僕。どんな人なんだろうか?

 それはさておき、家に入ってお茶にする母娘。僕は母様(かあさま)の膝の上なのですが……。

『女三人寄れば姦しい』という諺がありますが、この場では二人で充分姦しいです。はい。

 これまで僕は母様(かあさま)は静かな人だと思っていた。思い込んでいた。

 何という勘違いだったのか!

 母様が喋るわ喋るわ。それも愚痴と主に奥方様に対しての悪口のオンパレード。

 いかに自分と息子が館で蔑ろにされた生活であったか、中でもお館様の葬儀にも出れなかった屈辱、更には言い渡されてから数時間で館を出ていかなければならなかった件まで事細かに語る事。語る事。身振り手振りも交えて熱く語っております!

 それを聞く祖母様(おばあちゃま)も、憤っております。熱くなっております! 特に葬儀にさえ参列させなかった事には怒髪天を衝く感じ!

「だから葬儀にいなかったんだね、あんた達。おかしいと思ったのよ! 幾らなんでも葬儀にさえ出さないなんて! 村人だって全員参加してたのに! 奥方様には情ってもんが無いのかね! 神様の罰が当たるよ!」

 母娘の間だからか遠慮なく奥方様を罵り始め、盛り上がる会話。

 物静かにどんな事にも耐える、悲劇のヒロインのように感じていた母様(かあさま)の新たな一面を見せられて、僕はショックだった。あぁ母様(かあさま)の、これまでのイメージが音を立てて崩壊していく……。

 でも何か違和感もある。あぁそうか。亡くなった父様の事には触れないのだ二人とも。母様(かあさま)は空元気というか、別の事をハイテンションで話して本当の悲しみから目を逸らしている感じ。祖母様(おばあちゃま)も、それに話を合わせているのだろう。日本でも何度も葬式に行ったけど、こういう人達っていたよなぁと思い出す。なら僕も、うまくは喋れないけど適当に声出して賑やかにしますか。

 こうして母娘の会話はまさに井戸端会議さながらに、いつまで経っても尽きる事なく続いた。そして賑やかに時が過ぎてゆく。

 そんな中、「おーい。帰ったぞー」と、声を上げながらのっそりと大男が家に入って来た。

 どうやら祖父様(じっちゃん)が帰って来たようだ。ようやくご対面だ。

 

……えっ、何で祖母様が「おばあちゃま」なのに、祖父様は「じっちゃん」なのかって? 祖父様を「おじいちゃま」と呼ぶか、祖母様を「ばっちゃん」にして統一するべきだって。ちっちっちっと人差し指を振る僕、わかってないなぁ。祖母が「おばあちゃま」なのは、五つの星を舞台にした某人気SF作品に出てくる青年皇帝陛下の影響さっ! 祖父が「じっちゃん」なのは某作品で主人公の名探偵の祖父を持つ天才高校生の影響なのだよ。って誰に何言ってんだ僕。


 それにしても驚いた。祖父様(じっちゃん)は、とても大きな男だった。いやほんとでかい! 身長が2メートルはあるだろう。そしてごつい! 顔も四角くて髪が豊富で髭がもじゃもじゃで、いかにも巨人という感じだ。アメリカで州知事になった肉体派男優をもっとごつくして髭をはやし髪をもじゃもじゃにした感じと言ったら想像しやすいだろうか。

「お帰り」

「お帰りなさい父さん」

 と声を掛ける祖母様(おばあちゃま)母様(かあさま)を見て、祖父様(じっちゃん)が目を見開き仰った。

「おおっ帰って来たのかエミリー」

「ええ。奥方様に館を追い出されたわ」

「そうか」

 と、一言だけ呟くと、それで全てを察したのか、うんうんと頷いている祖父様(じっちゃん)

「ほら父さん、この子が父さんの孫のシャルリーよ。シャルリー、さぁお爺ちゃんに挨拶なさい」

 と、母様(かあさま)が僕を自分の膝の上に立たせたので挨拶する。

「はぁひぃめぇまぁひぃふぇおぅじぃひゃんしゃあるぅひぃーへす」(初めまして、お爺ちゃん。シャルリーです)

「おぉーいい子だ」

 祖父様(じっちゃん)は、僕の挨拶にちょっと照れたような表情で立ったまま僕を見つめた。僕も母の膝上から祖父様(じっちゃん)を見上げじっと見つめる。老巨人と見詰め合う幼児。少しの時が過ぎた……。

 突如、祖父様(じっちゃん)が僕から目を離さずに喋りだす。

「いい目をしているな。戦う男の目だ……」

 スパコーーーーン! と、いい音がした。

 いつの間にか祖父様(じっちゃん)の後ろに回った祖母様(おばあちゃま)が、祖父様(じっちゃん)の頭を後ろから何かの棒で叩いたのだ。

「何言ってんだい! こんな小さな子に! それに今言ったのは去年、村に来た旅芸人一座がやってたお芝居のセリフじゃないのさ!」

 祖母様(おばあちゃま)が怒ってる! いやこれは呆れてる、だ! というかボケとツッコミの夫婦漫才か?

 それよりもだ。「祖父様(じっちゃん)、それはこの世界での中二病では?」 という考えが僕の頭に浮かび上がった。

「痛いなぁ好きなんだからしょうがないだろう」と呟きながら後頭部をさする祖父様(じっちゃん)

 どうにも中二病くさい。

 その祖父様(じっちゃん)は、今度は僕に右手の人差し指一本を出してくる。

 これは何のパフォーマンスかな? と思いつつ、僕も無意識に小さな右手の人差し指を一本出して、指先を祖父様(じっちゃん)の指先にくっつけようとして、ハッとした。何してんだ僕、これでは子供と宇宙人の交流を描いた往年の名作映画ではないか! いかん。いかん。

 とりあえずお手手を開いて祖父様(じっちゃん)の指を握って握手のように振ってみる。祖父様(じっちゃん)はニコリと笑ってくれた。正解のようだ。良かった。考えてみれば当たり前か、僕の小さな手では祖父様(じっちゃん)の手とまともに握手できる筈もない。指を掴むのがせいぜいだ。

 そんな事を考えていると、祖父様(じっちゃん)が再び口を開いた。

「俺がお前を鍛えよう……」 

 その気障なセリフに、僕の中二病魂が応えた。応えてしまった。

「ほぉほぉしぃふぅほぉへぇはぁいひぃまぁふぅひぃひょう」(宜しくお願いします。師匠!)

 老巨人と見つめ合い握手(指と手ではあったが)を交わす幼児。

 この時、確かに二人の間には何か通じ合うものがあった!

 何かの絆が結ばれた瞬間だった!

老巨人と幼児は確かに何かの同士になったのだ!

 だが、しかし! スパコーーーーン! と、またしても祖父様(じっちゃん)の後頭部でいい音がして祖母様(おばあちゃま)が仰った。

「いい加減にしなさい!」

 あはははははっ。僕は胸の内で苦笑した。


 この日の夜、僕は母様の胸に抱かれながら「僕達母子にはまだ帰れる場所があったんだ。良かった」なんて事を考えつつ、某作品の最終回で根暗な主人公も似たようなセリフを言ってたよなぁと思い出しながら、心安らかに眠りにつくのだった。

 何事もハッピーエンドが一番だね。うん!

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