0015話 話すべきか、話さぬべきか…
『玉を懐いて罪あり』
身分不相応な宝を持つ事は災いを招く事になるという意味の言葉だけど、宝を持ってもそうはなりたくないね。
「アッハハハハハハハハハハ」
あぁまだ笑いが止まらない。大きく胸を反らし腰に手を当て、さっき倒した大猪の死骸の前で僕はまだ笑っているよ。
しょうがないよね。何せとうとう待望の「力」を手に入れたのだから。
こんな事もできるぞ。
そーーーれ。僕の周辺の石を十数個空中に浮かせてみた。
それを今度は高速で川向こうの木に当てて、その木をへし折った。
いやぁ楽しい! 最高だね。
大猪と戦っていた時の荒んだ気持ちは跡形も無く消えたよ。
「終わり良ければ総て良し」だね。
そーーーーれ。今度は川の水を渦巻き状にして空中に浮かべてみたぞ。
「アッハハハハハハハ」
まだまだ笑いが止まらない。
それにしても僕の念じた通りになるという事は、この「力」は念動力かな?
うん? 念動力?
という事は僕は超能力者?
いや、いや、いや、いや、中世ヨーロッパ風の騎士と剣の世界に超能力者はそぐわないでしょ。
そこは空気読まなくちゃね。
この「力」は超能力じゃなくて魔法!
そう魔法なのです!
さて、ちょっとだけ空を飛んでみよう。あまり高く飛ぶと誰かに見られるかもしれないから低空飛行しよう。高度1メートルを水平飛行だ。そーれスーーイ、スーーイ。いいね飛べるね!
これは空中浮遊じゃなくて、風系の飛行魔法!
今度は反対側の川岸に遠隔移動だ。できるぞ。これは……何系の魔法だ?。とにかく魔法だ! うん魔法!
しかし、生命の危機に瀕し眠っていた力が覚醒するなんて古典だよね。かなり前に廃刊になった緑の背表紙の某文庫の小説によくあった話しだよ。
アニメでもよくあるパターンだしね。でもどちらかというと昭和の時代の作品に多かったかな。遠い宇宙から地球を侵略しに来た存在に、地球の超能力者が集結し戦うなんて作品もあったけど、あれも主人公は追いつめられて超能力に目覚めてたっけ。懐かしいなぁ。
まぁ「力」を得られれば何でもいいけどね。
それにしても長かった。
長かったよ。
ここまで来るのにほんと長かった。
12歳にしてようやく、魔法が使えるようになったよ。
ふうっーーーーーーーーーーーーー。
何か感慨深いものがあるね。
もう魔法なんて諦めていたからね。
しかし、この「力」さえあれば何だってできる!
厳しい戦闘術訓練も底上げが可能!
実戦だってきっと無事に切り抜けられる!
最早、この僕に恐れるものは何も無い!
それどころか、この世界の王になる?
いや神として君臨する?
神の使いとして教団を立ち上げ教祖になるのもいいね。
調子にのっております。この僕シャルリーはただ今絶賛調子にのりまくって思考が暴走しております。
まぁ仕方ないよね。
「力」を持てば調子に乗るのは当たり前じゃないかな。
現代日本だって会社でちょっと昇格したら調子にのって、それまでとは違う人格見せる人なんて珍しくもないからね。
自分で起業して社長になって成功した人の中には調子にのって、社員に法を破らせちゃって逮捕されたなんて人もいるしね。
某国で長年、野党だった某党が政権とった時なんて、与党になった議員の態度は物凄く我儘で呆れるほど酷かったらしいしね。
まあ、こんな風に何かしらの力を持った人が調子にのるなんて事例は珍しくもないという事で。
でも、調子にのって破滅したら駄目だよね。
僕も気をつけよっと。
さて、力を手に入れたのはいいけれど、家族に話すべきかな?
うーーーーーん。
この世界で魔法がどう思われてるか、今一つわからないんだよね。
そもそも魔法という概念がこの世界にあるのかな? それもわからないし。
今まで魔法を使ってる人を見た事は無いし、魔法があるという話も聞かないし、修道院で貴族の教養を習う時も魔法の話は全然出てこないし、魔法に関してはどう確認したらいいのかわからなくて、そのままにして、これまで暮らしてきちゃったんだよね。
だって下手に魔法の事を聞いて、おかしな反応を引き出したら恐いしね。
「何の事?」とか、笑って「そんなものは無いよ」と言われるぐらいならいいけど、頭のおかしな子なんて思われたくはなかったからね。
困ったな。
それに小説やドラマによくあるよね。子供が不思議な力を見せたら親がそれを恐がって子供を捨てるなんて話。
母様や祖母様、祖父様に魔法の事を話してそんな風になったら僕は嫌だな。
どうしたものかな。
それに修道院の事も気になるよね。
教義としてはどうなのかな。もし僕が魔法を使えると知ったら。
聖人? それとも悪魔?
異端として処刑なんて言って来たらやだなぁ。
僕だけならまだしも母様、祖母様、祖父様達にまで害が及んだら嫌だし。
地球の歴史で「魔女狩り」なんてあったしね。地球の「魔女狩り」の場合、男も捕まって裁判にかけられて処刑されたらしいね。
うーーーーーん。悩むね。
祖父様だけに男同士の話として話すか?
大丈夫だとは思うけど……。
うーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん。
駄目だ。判断がつかないよ。
よし決めた。
この問題は先送りにしよう!
今はまだ誰にも僕の力は内緒という事で決まり!
それが一番だ。
よし方針は決まった。
じゃあ次に、この仕留めた大猪はどうしよう?
僕が素手で仕留めたと言ってもなぁ。そりゃあ普通ありえない話だよね。
うーーーーーーーん。
ここでも悩むな。
よし!
襲い掛かって来た大猪の目を偶然にも僕が突き出した木刀が貫き、そのまま猪の頭部が破壊されて仕留めたという事にしよう。そうしよう。
猪君、成仏しろよ。
グサッという音と共に僕が突き出した木刀が大猪の目を通して頭部奥深くに突き刺さる。
これで良しっと。
あとは川に落ちたナイフを回収と。動かなくても魔法でナイフが水中より飛び出て僕の手に収まる。便利な力だ。
この大猪を持って帰りたいけど、大きすぎて魔法無しじゃ無理だからこのまま置いて祖父様に報告しよう。
家に帰って祖母様に大きな猪を仕留めたと言ったら喜んでくれたよ。
暫くすると祖父様と母様も狩りから帰って来た。
僕の話を聞いてみんなで河原に行って大猪を見たけど、三人とも驚いてたよ。
「よくやった! もう一人前だな」
「凄いわよ」
「流石は私の息子ね」
そう言ってみんな誉めてくれたよ。嬉しかったね。
大猪はその場で内臓だけ取り出して、それを川で洗って桶にいれて僕が持ち、猪本体は祖父様が担いで持って帰ったよ。内臓は夕食で煮込み料理としていただいたけど美味しかったよ。最高だね。
ところで僕が大猪を仕留めて「勝(狩)ったぞぉ!」と上げた雄叫びは、遠くで狩りをしていた祖父と母様にも聞こえたらしい。勿論、家にいた祖母様にもだ。思いっきりからかわれたよ。参ったね。
危ない時もあったけど、最後は何だかんだでいい一日だったよ。
こんな日がずっと続けばいいね。




