0013話 友達は一人もいない…
『私は世界に二つの宝を持っている。私の友と私の魂と』
修道院でお勉強と馬術の訓練しての帰り道、遠くの野原で無邪気に遊ぶ村の子供達の姿を見かけた僕は、そんな地球での名言をふと思い出した。
この名言、よく講演やら演説やらで引用されたらしい。
そこで気付いた。あれっ僕ってこの世界に友達一人もいないよね、と。
うーーーん。
山の中の一軒家に住んでご近所さんはいないし。
修道院に通っている時も、村の大人が僕と会うと道の端に寄って立ち止まり丁寧にお辞儀してくれる。
相手が親子の場合、親が子供にお辞儀するよう頭下げさせてるよ。
だから、子供だけで遭遇した場合も相手の子はオドオドと僕に向かってお辞儀するしね。
何か僕からは凄く声を掛け辛いのだ。
同世代の子と一度も話した事が無いよ。
まっこれが身分の差というやつのだろうか。
お陰で僕はボッチだよ。
「収穫祭」や「新年のお祭り」とか、村人全員が集まって賑やかにする村祭りの時は、館の奥方様も姿を見せるから、僕達の一家はあの方に遠慮してちょっとだけ参加して直ぐに家に戻るしね。ヤレヤレ。
しかも僕はもう11歳になった。
この世界では10歳を過ぎると親と一緒に働くのが普通で、子供同士で遊ぶ事は殆どしなくなるのだ。
僕は一度も子供同士で遊ぶ事なくそういう歳になってしまったよ。
ハハハハハっ。自分で言うのも何だけど笑みが乾いてるね。
まっ仕方ないね。
だけど、この世界での子供の働く年齢は早いね。
現代日本なら義務教育の年齢で、もう働かなきゃいけない。
正に「働かざる者は食うべからず」だし、それこそ生きるためだから仕方ないかな。
それにしてもこの村の子供達というか、この世界の農民の子供達には将来の選択肢の自由が殆ど無い。
身分制度のお陰で、基本的に子供は親の後を継ぐのが普通だ。
子供が沢山いる家では、子供を職人に弟子入りさせたり、商人に奉公させたりもするけど、それも領主様の許可が必要で、勝手にはできないという話だ。
「職業選択の自由」なんて夢のまた夢だね。
まぁ地球ならどこの国でも中世時代はそうだったし、現代の第三世界でも子供は働いてるけどね。
何て事を暢気に語っている場合じゃないよ。
僕自身の将来が不安だ。
しかも、その不安も一つじゃ無いから嫌になる。
まずは頓挫している進路の問題だね。
本来なら僕のような小貴族の子は10歳になると、大貴族のもとで騎士見習い兼小姓として、騎士に仕えるのが慣習なんだそうだ。
小貴族の領主は息子が8歳から9歳頃に、その地方を統括している大貴族に自分の息子を託す事をお願いする手紙を送るのだとか。
実際、僕の兄フィルマンの時も8歳になった時に領主代理の奥方様がビュイス子爵に手紙を送り、兄が10歳になった年にビュイス子爵の許に行って、それ以来、騎士見習い兼小姓をしているという話だ。
ちなみに兄とは言っても一回も話した事も無いけどね。これは館に住んでる姉も同じだけどね。
それはともかく、僕にはまだどこかの騎士見習い兼小姓になるというような話は来ていない。
何故なら奥方様が大貴族に僕の事を託す手紙を出してくれないから。家令さんが手紙を出すよう進言しても頑として応じないらしい。
これが現代日本のように法律で子供に対する教育が義務づけられているようなら話は早いのだけど、この国には義務教育なんてものはなくて、貴族の子が騎士見習い兼小姓になるのも成文法では無く、慣習なので違法とは言えないのが厄介だ。
領主というか家長の権限はとても強いから、ある程度の横暴も許されてしまう。
奥方様は僕はまだ騎士見習い兼小姓として騎士に仕えるには、身体の強さも教養も足りていないという理由で、大貴族に託す手紙を出さないでいるとの事らしいんだけど。
奥方様自身の目でそれを確かめた事なんてないのにね。
これは流石に家令さんが咎めた事があったらしい。
「奥方様、シャルリー様と一度もお会いせずにいらっしゃるのに、それはあまりにも…」
「お黙りなさい。私がこの目で確かめたのよ!」
奥方様はそう言い切ったそうだよ。
酷いね。
会った事も、会話した事も、最近では近くで見掛けた事すら殆ど無いのに。
どこまでも奥方様は僕を邪魔者扱いし、正当には扱う気が無いらしい。
はぁーーーーーっ。ほんと溜息しか出てこない。
これじゃ何時になったら騎士見習い兼小姓になれるのやら。
それにもし僕がどこかの大貴族のもとで騎士見習い兼小姓になれたとしても、果たしてうまくやっていけるのかという問題もあるよね。
何せ、他の子達は10歳で騎士見習い兼小姓になるわけで、僕はそれに比べ今の段階でも1年遅れているからね。この分じゃもっと遅れそうだし。他の子達より遅れて騎士見習い兼小姓になったとして、周りの人とうまくやっていけるのか、そうした遅れの影響が騎士を目指す者にとってどこまで出るのか……不安だよ。
それにも増して不安なのは、なかなか身に付かない向上しない戦闘術だよね。
僕は真面目に毎日、訓練はしてますよ。
でもね、努力というのは必ずしも実を結ぶとは限らない物だからね。
自分で判断するところ、お世辞にもこの方面で僕は秀でているという事は無さそうというか、かなり低いレベルなんじゃないかと思う訳で。不安だよ。
はっーーーー。溜息が出るよ。
僕はね基本的には母様と祖母様と祖父様と平和にのんびり暮らしていければそれでいいんだよね。それで将来は贅沢言えば美人で気立てのいいお嫁さんもらって家族みんなで、そこそこ幸せに暮らしていければいいというのが望みなんだよね。
まぁできればいい暮らしがしたいというのはあるけど。特に美人メイドのいる生活ができたら嬉しいね。
一番いいのは、僕がどこかの大貴族のもとで騎士見習い兼小姓になって、そこで功績を立て正式な騎士となり、さらには領地持ちの貴族になれればいいのだけど。
何せ奥方様がね。
何せ僕の能力がね。
問題だらけだ。
どうにもこうにも現状では僕にとって騎士、貴族の道は険しいというか不安材料しかないよ。
そこで先日、士爵家の継承権を放棄して一介の猟師として暮らしていくのもありかなと思って修道院長さんに相談してみた。
無理だと言われたよ。
何でも継承権を決めたのは亡き先代の父であるから、それは聖なる遺言にも等しく、まだ未成年の僕には勝手にはできないという話。それは法で決まっているんだとか。領主代理の奥方様にも僕から継承権を取り上げる権限は無いそうだ。代理はあくまで代理であり現状を維持するのが役目であり、成文化されている法までは捻じ曲げる事はできないらしい。
僕の兄フィルマンが正式に士爵家の当主となり、その上で成人した僕が継承権放棄を申し出て、フィルマン兄上がそれを認めれば、継承権は放棄されるらしい。
この世界の成人って15歳だから僕が成人するまでには後4年もあるよ。
参ったね。
このまま奥方様に睨まれつつ不安な将来を思いやる日々が続くのか。
だからと言って、現代日本のように他所の土地に引っ越したり、他の国に移住するような事は、この世界の法では許されていないし。
八方塞がりか。
はっーーーーー。溜息しか出ない。
あぁ将来が不安だ。
胃に穴が空きそう。とほほ……




