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0012話 まだまだ続くよ訓練は…

『駑馬十駕』

荀子の言葉だね。のろい馬も十日もかければ、一日千里を走る名馬に追いつけるという意味で、つまり才能の劣る人も努力し続けたなら才能ある人に追いつけるという例えらしいけれど、追いつけないまま終わる場合もあるんじゃないかなぁと僕なんかは思うんだよね。


予想以上に馬術の訓練は厳しい。

乗馬して馬を走らせるという事に限れば何とかなりそうなんだど、それに慣れて来たと思ったらジョスさんは乗馬戦闘の訓練を加わえてきたので、僕もう大変。

馬上で剣を振るう「騎乗剣術」に、槍を使う「騎乗槍術」。さらに弓を射る「騎乗弓術」の訓練が加わった。

しかも騎乗しての剣の構え方や槍の構え方は、これまた複数あったのだ。とほほ。

騎乗剣術の構え方は五つもあったよ。

一つ目は「ダシュブースの構え」…片手で手綱を握り、もう片方の手に剣を持ち、その剣の腹を手綱を持つ手の手首に乗せておく構え方。

二つ目は「ラゴースの構え」…片手で手綱を握り、もう片方の手に剣を持ち、その剣を持って握った拳を太もものあたりに置き、剣先は斜め上方に向けた構え。

三つ目は「スキウーロスの構え」…片手で手綱を握り、剣を持って握った拳を顔の横あたりに置き、剣先は前方に向けた構え。剣を持った拳の甲は顔側にくるようにする。

四つ目は「スカロブスの構え」…片手で手綱を握り、その手の上に剣を握った拳を載せ剣先は上前方に向けた構え。

五つ目は「ヒュストリクスの構え」…片手で手綱を握り、剣を持った手の前腕を手綱をもった手の拳に置き、右手と左手をクロスさせる形にして、剣は斜め下向きにする構え方。


騎乗槍術の構えは三つあったよ。

一つ目は「エフタミアスの構え」…槍を持ち長い柄を脇に挟み真っ直ぐ穂先を前に向けた構え。

二つ目は「スミントスの構え」…槍を腕の力だけで持ち、穂先を斜め下に向けた構え。

三つ目は「エキーノスの構え」…手綱を持った手の前腕の部分に槍の柄の真ん中あたりの部分を置き、穂先は斜め下にし、槍を持った手の握り自体は顔の横あたりにくるような構え。


こうした「騎乗剣術」「騎乗槍術」の構えから繰り出される技を覚えていかなきゃいけないんだけど、その技の数も多いからほんと大変だよ。

それに剣技、槍技だけじゃない。馬上同士の戦いの場合、相手の隙をついて手綱を奪って相手の馬の行動を混乱させる技だとか、相手を馬上より叩き落としたり、引きずりおろす技なんてのもあるしね。

敵が歩兵の場合、それも敵の武器が槍または剣の時の戦い方も学んだりする。

これは後に僕が歩兵の役割で馬上の敵と戦う場合の技を習うという事もしたよ。


しかも、馬術の教えは「戦闘」だけじゃ終わらない。

この世界の貴族が担う騎兵は「装甲騎兵」らしい。

その為、馬に防具をつける訳で、その「馬鎧」の付け方も教わる事になったよ。

「馬鎧」を構成する各防具の名前と付け方を覚えなきゃいけないんだから嫌になる。

馬の顔のを守る防具はシャフロン(面装甲)

首を守る防具はクリネット(首装甲)

胸を守る防具はペイトレル(胸装甲)

お腹を守る防具はフランチャード(腹装甲)

お尻を守る防具はクラッパー(腰装甲)

こうした「馬鎧」を構成する防具の付け方、外し方、手入れの仕方、しまい方等々色々と教わったよ。

あぁ大変。大変すぎるぅ。

それにしても「装甲騎兵」か……。右肩を赤く塗りたくなるね。


ちなみに人用の甲冑の身に着け方、身に付させるやり方というのも後に習ったよ。

館から甲冑一式を持ってきてくれて、そのやり方を覚えたのだけど、これもまた大変。

首から胸を守る防具はグランドガード。

お腹を守る防具がブラッケイト。

肩を守る防具はポールドロン。

二の腕を守る防具はバスガード。

肘から先を守る防具はマニファー。

拳と手首を守る防具はゴーントレット。

足を守る防具はオーヴァーター。

頭部を守る防具はヘルム。

沢山ありすぎ! 僕の頭はもうパンク寸前だよ。

しかも、この世界にも地球の西洋の歴史に出てくるような「馬上槍試合」の大会があって、度々開催されてるそうなんだ。そのルールも教わる事になったよ。

試合か……。

そりゃあちょっとは出てみたいとは思うけど僕の能力じゃね。どれだけ練習しても駄目な気がする。

しかし騎士になるのって大変だね。

トホホだよ。


そんなトホホな僕が何とか厳しい訓練に耐えて日々過ごしていけるのは温かい家族の団欒と美味しい食事があるからだね。

そう食事!

人生で食事は大切だよ。美味しい料理は身体の栄養源だけじゃなくて、心の栄養源にもなると僕は思うよ。

うちは猟師だから他の家に比べて肉をよく食べるのかな? ともかく肉料理は多いね。

祖母様(おばあちゃま)の作ってくれる料理はみんな美味しいけど、特に「カモリーニ」という料理が僕は好きだよ。ステーキ状の肉をフライパンのような鍋で、まず肉の片側を焼き、次に肉をひっくり返して両面を焼くようにして、そこに水煮したカネリ豆(いんげん豆みたいな豆だよ。この世界で初めて見た)を適量の煮汁と共に加えて、そこに塩と刻んだハーブと少量のお酒を入れて味を調えるんだけど、これがとても美味しいんだ。濃厚な肉の味とあっさりした豆がマッチしててね。肉を噛むと正に芳醇な味わいという感じ。正に究極の味だね。どこぞの究極な料理のリストに加えて欲しい一品だよ。

「ピネットン」という料理も最高だね。刻んだ茸と刻んだハーブと挽き肉を混ぜ合わせたものを猪の胃の脂肪幕で包み、じっくりと焼き上げるんだけど、その美味さといったらないよ。脂の旨みと肉の旨み、それに茸の食感が合わさって、とてもジューシーで舌触りの良い一品だよ。正に至高の味だね。どこぞの至高な料理のリストに加えて欲しい一品だよ。

そうそう血のソーセージ「ドゥリヨン」も美味しいよ。だいたい1リットルぐらいの血に対し脂身が約500グラムと塩とハーブを刻んだものを腸詰めにして作るのだけど、茹でた後にさらに焼いたソーセージといったら。口の中で噛むと「カブッ!」と、ほんといい音するんだよ。そして血と脂とハーブが絶妙にマッチした濃厚で格別な味わいが口に広がるんだ。最高だね。

「レテべ」って言う料理もいけるよ。肉に小麦粉を付けてバターで焼いた後、野菜と一緒にとろ火で1時間ほど煮込むんだけど、肉の中は柔らかくてシットリしていてもう最高だね。


そうそうバターと言えば最近、村に何頭かの牛が来たよ。農民個人で買入れたのか、それとも村で買ったのか、または代理の領主様が買って村に貸し与えたのか、よくわからないけど。

商人と使用人かな、その人達に連れられて牛達が村に入って来るところを偶然見掛けたのだけど、牛の両側に壺が幾つも吊るしてあってね。その壺には塩が入っていてこの村に売るためのものだったって。

祖父様(じっちゃん)が後に、その壺の塩を買ってきたからわかった事だよ。

なるほど村に売る牛に、これも売るための重い塩を運ばせた訳か。合理的だね。やるなぁ商人さん。


これで、これからはバターも手に入りやすくなるのかな? あれっ今回乳牛いたのかな?

よくわからないや。牛の事詳しくないから。

何にせよ村の暮らしが少しでも良くなる事は良い事だよね。

僕達家族も恩恵受けるし。

これで訓練が無ければなぁもっと幸せなんだけどね。

と苦笑する僕であった。

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