7:ココロここにあらず
翌朝。
いつも通り遅刻寸前で教室に駆け込んだあたしは、思わず前の席の古賀くんを意識しちゃって、勝手に耳まで熱くなった。
男子のクラスメイトと何か話してる。
あたしは席に行きたかったんだけど、恥ずかしくなっちゃって動けなかった。
「はよ、志乃」
「おはよー。――どうしよう?」
あゆちゃんが声をかけてくれた。
ほたるちゃんは日直で、職員室へ行ってるみたい。
「どーもこーも。自分の席なんだから、堂々と行きなよ」
「だって……。古賀くん、お話してる」
「ま、もうじきチャイム鳴るよ、っと。鳴った」
あたしの複雑な想いを洗うように、軽やかにチャイムが流れた。
「ほら。頑張れ」
「ひーん」
でもあたしは、出来るだけ何も無かったように、古賀くんの後ろに座った。
クラスメイトが、それぞれの席に戻ってくれたからね。
「おはよう。甲田さん」
「ひゃいっ!?」
「え。ゴメン。驚かせるつもりは無かったんだ」
「ふぁい。お、はよう」
ぐでぐでなあたしに、古賀くんは笑顔を返してくれた!
「だいぶ暑くなって来たよね。クーラー、まだ入れてくれないのかなあ」
「う、うん。そ、だね」
古賀くんにとってみれば、何気ない雑談なんだろうけど、あたしが意識しちゃって……。
会話が続かなくなっちゃって、あたしは、
(どうしよう? 何か話さなきゃ!)
って、ココロの中で焦ってた。
それを救うみたいに、センセとほたるちゃんが教室に。
ざわめきが少し収まる。HRが始まった。
あたしもう、
『ココロここにあらず』
状態。
センセの話なんて、まるで耳に入らず。
ただただ、古賀くんの背中を見詰めていた。