32:古賀くんの詩
部活が本格的に始まった。
みんな集中して、それぞれの作品に取り掛かっている。
「甲田さん」
「ふぁいっ?」
「もし今、良かったら。読んでください」
あたしの机に、バインダーが置かれた。
「拝見します」
「お願いします」
いよいよだぞー。
どきどき。わくわく。
あたしはページをめくった。
★
或る夜想う
寂しさに満ちた夜 想う
このままで良いのかと
まるで進まぬ今夜 ふと
ここにはいない 誰か
その誰かに
想いを馳せる
いつの日にか きっと
ともに歩きたく 想う
これで終われはせぬと
物語始まる その時
我はその列車に
乗るのである
銀河旋律流るる
夜空の果てまでも
星と共に駆け抜け
明日すら掌中に
収めんとす 夜
我は想うのである
★
(ステキ……)
読了後の感想は、それ。
あたしには書けないな、こんな作品は。
「スゴいです、古賀くん」
「まだまだなんだけど。ありがとう」
(?)
なぜか、古賀くんが少し、ダウナーっぽく見える。
気のせいだよね。
それより。
何だか、自分の詩を読んでもらうのが。
すごく恥ずかしくなって来た。
でも。
約束だもんね。
「じゃあ、あたしの詩。お願いします」
「拝見します」
バインダーを開いた。
――真剣に読んでくれてる。
嬉しいし、くすぐったい。
古賀くんが、小さく息を吐いた。
「情景が目に浮かぶなあ。いい感じだし」
「――ありがとう」
やっぱり嬉しいし、くすぐったい。
「でも、この作品。日付がだいぶ前だけど。新しいのも読ませてください」
「そっ!」
「そっ?」
「それは……。ちょっと……。お見せ出来ないと言うか、何と言うか」
「残念だけど。そっか」
「ごめんなさい」
純真過ぎるよ、古賀くん。
こんなにも、振り向いて欲しいのに。
あたし。
どうしたらいいの?
どうしたら、想いが伝わるの?
――告白しなきゃ、ダメに決まってるじゃん。
あたしの中のあたしが言う。
うん。
分かってるよ。
でもそれが。
出来ないんだもん。
悩んでばかりで。
動けない、あたし。
「南塚さんと仁多さんの作品も、読ませてもらえるのかな?」
「うん? うん。あゆちゃんもほたるちゃんも、見せてくれると思う」
「じゃあちょっと。行ってきます」
「はい」
古賀くんは、あゆちゃんとほたるちゃんの元へ向かった。
――せっかく、近付けたと思ったんだけどな。
あたしが、台無しにした。
そうだよね……。
あゆちゃん。ほたるちゃん。
そして。
古賀くん。
ゴメンね……。




