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32/47

32:古賀くんの詩

 部活が本格的に始まった。

 みんな集中して、それぞれの作品に取り掛かっている。

「甲田さん」

「ふぁいっ?」

「もし今、良かったら。読んでください」

 あたしの机に、バインダーが置かれた。

「拝見します」

「お願いします」

 いよいよだぞー。

 どきどき。わくわく。

 あたしはページをめくった。



或る夜想う


寂しさに満ちた夜 想う

このままで良いのかと

まるで進まぬ今夜 ふと

ここにはいない 誰か

その誰かに

想いを馳せる

いつの日にか きっと

ともに歩きたく 想う

これで終われはせぬと

物語始まる その時

我はその列車に

乗るのである

銀河旋律流るる

夜空の果てまでも

星と共に駆け抜け

明日すら掌中に

収めんとす 夜

我は想うのである



(ステキ……)

 読了後の感想は、それ。

 あたしには書けないな、こんな作品は。

「スゴいです、古賀くん」

「まだまだなんだけど。ありがとう」

(?)

 なぜか、古賀くんが少し、ダウナーっぽく見える。

 気のせいだよね。

 それより。

 何だか、自分の詩を読んでもらうのが。

 すごく恥ずかしくなって来た。

 でも。

 約束だもんね。

「じゃあ、あたしの詩。お願いします」

「拝見します」

 バインダーを開いた。

 ――真剣に読んでくれてる。

 嬉しいし、くすぐったい。

 古賀くんが、小さく息を吐いた。

「情景が目に浮かぶなあ。いい感じだし」

「――ありがとう」

 やっぱり嬉しいし、くすぐったい。

「でも、この作品。日付がだいぶ前だけど。新しいのも読ませてください」

「そっ!」

「そっ?」

「それは……。ちょっと……。お見せ出来ないと言うか、何と言うか」

「残念だけど。そっか」

「ごめんなさい」

 純真過ぎるよ、古賀くん。

 こんなにも、振り向いて欲しいのに。

 あたし。

 どうしたらいいの?

 どうしたら、想いが伝わるの?

 ――告白しなきゃ、ダメに決まってるじゃん。

 あたしの中のあたしが言う。

 うん。

 分かってるよ。

 でもそれが。

 出来ないんだもん。

 悩んでばかりで。

 動けない、あたし。

「南塚さんと仁多さんの作品も、読ませてもらえるのかな?」

「うん? うん。あゆちゃんもほたるちゃんも、見せてくれると思う」

「じゃあちょっと。行ってきます」

「はい」

 古賀くんは、あゆちゃんとほたるちゃんの元へ向かった。

 ――せっかく、近付けたと思ったんだけどな。

 あたしが、台無しにした。

 そうだよね……。

 あゆちゃん。ほたるちゃん。

 そして。

 古賀くん。

 ゴメンね……。

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