20:ダメーッ!
『ぱちぱちぱち』
自己紹介を終えた古賀くんに、部員たちが拍手。
古賀くん、本当に今日、見学に来ちゃった!
文芸部は、昔ながらの原稿用紙に書いてる部員もいるし、ルーズリーフ、自分のノートPC・ネットブックとか、いろいろなスタイルでみんな創作活動をしているの。
ウチら3人は、みんなPCを持ってないから、ルーズリーフに書いて、バインダーに閉じている。
専らあたしは、詩を書いていた。
気持ちを表すのに、一番適してるって思うから。
小説を書いていた時もあったんだけど、伏線を張りすぎて、収拾付かなくなっちゃった覚えがあるのね。
そんなだから、今書いてるのは、古賀くんへの想いを綴ったものばかり。
事情を知らない他の部員や、あゆちゃん、ほたるちゃんには見せられても。
とても、見学中の古賀くんには見せられない!
ひーん。
全然チャンスじゃないよお。
あたしは、バインダーを抱えるようにして。
目立たないよう、教室の隅に移動しよう……。
としたら。
「甲田さんは、どんなのを書いてるの?」
純真無垢!
って感じに、古賀くんから訊かれちゃった!
「あたしぃ!?」
視線が泳ぐ。
あゆちゃんとほたるちゃんが、
『頑張れ!』
って、目で送ってくれてるけど。
「そっ、その……」
「うん」
「詩っ、を……」
「そっか。ボクと一緒だね。良かったら読ませてもらえ」
「ダメーッ!!」
ニンゲンって、極限状態になると、ここまで大きな声が出るんだ。
アタマのどっかしらで、そんなことを思った。
ふと我に返ると、教室の空気が凍ってる。
「あ、はは。――ちょっと。お見せ出来るレベルじゃないので……。はは、は」
古賀くんが、きょとんとしてる。
当たり前か。
やっと空気が動き出した。
「――ごめんなさい。ホントに、読んでもらえるようなものじゃなくって」
「うん、分かった。突然で、こっちこそゴメンね」
あーもう!
どこまで人がいいのよ、古賀くん!
――今日、何も書けなかったのは、言うまでも無いでしょ?




