第十二話 ひざに座る
暫くの間は何事もなく、平和に散歩が出来ていた。ロンはおとなしく優しい子で、鳴き声も人に対して威嚇するような声も、聞いた事がなかった。
ある夕方女房が
「猫のケンカする様な声が聞こえるけん、行って見てきてくれん?」と言うのであわてて外に出てみた。薄暗くなっており、鳴き声を頼りに探してみると、隣の庭の植木の間でにらみ合って威嚇しあっていた。ロンも声を出している。ロンは爪を切っているので喧嘩に不利だろうし、怪我でもしたら大変だと思い、直ぐに抱き上げて連れて帰った。
あまり頻繁ではなかったが、それから時々そういう事があり、その度に慌てて探しに行っては連れて帰った。
一度は懐中電灯を持って行って見ると、もつれ合ってケンカしており、抱えて観ると前足から血が出ていたので、直ぐに連れて帰った。
薬が無いので、人間用のヨウドチンキを塗って、ガーゼで包みテープで貼ってやったが、直ぐに口で外してしまった。血は止まっていたので
「まあしょうがないか」と諦めてそのままにしておいた。
ある朝散歩に出したロンが、玄関の前で待っていて、女房が開けるとくわえた小鳥を見せに帰って来た。誉めてもらおうと思ったのだろう。女房は驚いて悲鳴をあげた。
秋になって少し肌寒くなって来た頃、私が居間であぐらをかいてテレビを見ていると、ロンが側に来て、私のひざに前足を乗せて見つめて来た。
「座ってもいいよ、どうぞ座りんさい」と言うと。ロンは素直に私の膝に上がってちょこんと座った。密かに嬉しかった。暫くしてひざの上でくつろいだ様に横になった。身体を擦ったり頭を両手のひらで包むようにしてやると。喜んで喉をゴロゴロ鳴らした。なかなか降りないので、足が疲れてひざが痛くなったが、せっかく座ってくれたのだからと我慢した。
それから毎日座る様になった。それは次の年の春の暖かくなるまで続いたが、暖かくなると座らなくなった。
秋が来て涼しくなるとロンが私の膝に座るのが毎年の楽しみの一つになった。




