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あれ、俺の思い描いていたラブコメはどこに、、、?
あれれー???
「お前は許さない!!!」
帝が激情に駆られて殴りかかる。
大きく振りかぶった右ストレートが琥珀目掛けて放たれるが大振りすぎた。
あっさりとよけられそのまま腹部にカウンターを逆に合わせられる。
「かはっ」
そのまま廊下に転がり倒れる帝。
ああ、まぁ、クソ理解した。
「で、なんでこんなことした?天根先輩がお前に何かしたかよ?」
実際、なんでこんなことになっているのか理解できない。
天根先輩が琥珀に何かするはずもないし、これまで関りはなかったはずだ。
そもそもあいつは最近引っ越してきたばかり、あるとすればそれは俺達の誰かだ。
俺の秘密を最近知ったってのもあるし、狙いは俺だと思ったんだけど、、、。
「狙いは俺じゃねぇのかよ?」
「狙いはお前だ。ただ、その前に周りを排除しようと思ってな」
やっぱり狙いは俺か。
ただ周りを排除?
そんな必要あんのか?
それに急にこんなことするやつだとは思ってなかった。
今までのことが全部嘘だとは思わないし、何より俺の弟とこいつの妹は付き合っている。
ことを起こすにしてもタイミングが全て中途半端すぎる。
考えられるのは誰かが入れ知恵して暴走したってところか。
「お前のせいで天根先輩がこうなったんだ。申し訳なく思わないのか?」
そう言いながら必死にかき集めた天根先輩の手からごろうさんの紙屑を奪い取り再度ぶちまける。
「やめてくれ!!」
いよいよ涙を零し、ごろうさんの紙屑に覆いかぶさる。
ただのイラスト一枚だが、それほどの想いを込めて描いたのだ。
この一枚を描くためにどれだけの時間と努力を注ぎ込んだのか、こいつは知らない。
「先輩、悪いんですけど本当はこんなことしたくなかったんです」
悪いけどしたくなかった?
じゃあなんでしたんだ?
「しょうがなかったんです。あいつがどれだけのクズ野郎なのかみんなに知らしめるためにはこれしか」
「きひひ」
しょうがない?
そんなわけがない。
何の罪もない、自分の夢に努力していただけの人をクソみたいな都合と理由で勝手に貶め辱め侮辱したお前が
しょうがない?悪気はない?
それこそクズの言い分だ。
俺もクズだがルールがある。
その一、俺に手を出さない限り俺は何もしない。
その二、悪事を働くやつには手を出してもいい。
その三、口先だけの男になること。
そして最後、その四、、、、
「自分勝手なクズに対しては徹底的にやれ」
俺は教室の窓ガラスをたたき割る。
大きな音を立てて割った為、教室にいた別の生徒達も外に出て何事かと確認してくる。
「あー、手が滑ったなー」
「お前、何を、、、?」
俺は琥珀を無視して倒れている帝のもとへ向かう。
「今は天根先輩の傍にいろ。あいつは俺が殺す」
「、、、、僕もあとでやるからね」
帝はそう言って立ち上がり天根先輩のもとへ駆け寄る。
「、、、いこ。大丈夫、また一緒に頑張ろう」
「みかど、、、みかどっ」
嗚咽を零しながら帝の胸ですすり泣く天根先輩に胸が痛くなる。
俺は駆け寄ってくる先生達にいつもの俺を演じながらこれからどうするか考えるのだった。
放課後。
秋兎を除いた全員が狼秋の家へと集まっていた。
あの後、秋兎は窓ガラスをわざと壊したため1週間の清掃が課せられたからだ。
事態を後で知った狼秋は全員に連絡してこうして集まった。
「それで、何がどうなっている?」
「、、、、」
重々しい口を開いたのは狼秋だった。
千堂冴も申し訳なさそうに俯いている。
なぜなら実の兄がこれまで応援して手伝っていた先輩のイラストを無残にも引き裂いたのだ。
言葉を失うのも無理はない。
「わからない、、、いきなりだったんだ」
天根先輩が口を開く。
「最後のHRが終わって君達を待っていたらいきなりやってきて、私のごろうさんを引き裂いたんだ。
何がなんだが、私にもわからなかった、、、」
「私も、兄が天根先輩と接点を持っていたとは思えません、、、。それにこんなこと初めてで、、、」
2人の話を聞いてもいきなり琥珀がこんなことをするとは思えない。
目的がわからないのだ。
全員頭を抱えるが、一人だけ深刻そうな顔をする男がいた。
「恐らく、、、、秋兎の秘密がバレた」
「秘密?」
苦しそうに口を開く狼秋に帝が聞き返す。
これまでなんだかんだ付き合いがある帝だが、それはあくまで高校からの付き合いだ。
狼秋以外、秋兎の過去を知らない。
「あいつは昔、今とは違って本物のクズだった」
今の秋兎は陰キャで冗談ばかりいうオタクという認識だった。
ただ少しけんかっ早くて、でも弱くて、後ろに引くことができない人間。
クズではあるが、心のあるクズ。
それが共通認識。
「あいつは変わった。それを頭に置いておいてくれ。今から話すことは、あまり楽しいものではない」
そうして狼秋の口から語られる秋兎の過去は、それはもう、最悪の過去だった。
帰り道。
あれだけの事件の発端を起こした千堂琥珀は特にお咎めもなく帰路についていた。
秋兎が窓ガラスをたたき割ったおかげで天根美羽のイラストを意味もなく破いたことが流れたからだ。
これから周りからは距離をとられるだろう。
だがそれがどうした?
俺は俺が信じた道を行くだけだ。
妹に嫌われてもやる必要がある。
あいつは遠ざけないとダメなんだ。
「覚悟は決めてる、、、あいつは危ないんだ」
「その危ない奴に手を出してタダで済むとは思ってないよな?」
「っ!?」
前から声がして視線を上げるとそこには月野秋兎がいた。
手に金属バットを握って。
「お前、俺の過去を知ったんだろ?なら俺がどういう人間か、理解してるよな?」
「お、お前、、、、何してるかわかって」
違う違う!!聞いた話と違うじゃないか!?
あいつは、秋兎はもうあとがないから絶対に反撃してこないって!
それにトラウマになってるから喧嘩も弱くなったはずって
「誰の入れ知恵か知らねぇけどよ」
警戒に金属バットで地面を叩きながら近づいてくる秋兎は嗤っていた。
いつも暗くどこか影がありながら狂気じみた元気さを兼ね備えた目つきが今だけは狂人の目にしか見えない。
これが月野秋兎、これが狂人。
「はっ、、、い、いいのか?お前、ここで俺に手を出せばどうなるか、知ってるぞ」
「へぇ、、、」
秋兎の動きが止まる。
やっぱり、あいつは虚勢で俺を黙らせようとしてるだけだ!!!
なら怖くない。
俺は深呼吸して冷静さを取り戻す。
あいつがやってきた過去、それを知っている俺に手を出せるはずがないのだ。
「は、犯罪者が、、、ビビらせようったってそうはいかない。お前をあのままいさせるわけにはいかない」
「、、、、、」
秋兎の表情から笑みが消え、無表情になる。
やっぱり余裕がなくなったか。
俺はほくそ笑みながらさらに追い立てる。
「お前は中学の頃、自分に振り向いてくれない女の子に対して何をした!?言ってみろ?ほらどうした!?」
これが月野秋兎の過去、暴かれたくない闇。
こいつが排除されなければならない理由、そして俺が戦う理由だ。
正義は俺で悪が月野秋兎だ。
「可哀そうにな、お前みたいなゴミクズに好きになられたせいであの子の人生は崩壊した。俺の妹も友達もそんな目に
合わせるわけにはいかないんだよ」
俯く秋兎に俺はとどめの一言を告げる。
「レイプ犯が堂々と学校に通ってんじゃねえよ!!!」
まだ顔をあげない秋兎。
ここまで知られていると知らなかっただろう。
だが俺は知っている。
ネットでは未成年の犯罪は名前が載らないため、探しようもないのだがある情報提供者のおかげで俺は知ることができた。
その時の中学でのこいつと同級生の一人とも連絡が取れ確認した。
そして俺は確信したのだ。
こいつだったのだと。
短い期間だが仲良くなれたと思っていた。
だが、それはこいつが犯罪者と知らなかったからだ。
知っていたら近寄るどころか遠ざけていた。
未だに俯いている秋兎に俺は嗤いながら近づいてく。
もう心は折れている。
その証拠に未だに顔を上げれていない。
それにこいつは犯罪を犯している。
もう一度犯罪をすればどうなるか、次は少年院を免れないだろう。
そもそもレイプ未遂で少年院にいっていないのが問題なのだ。
もし手をあげようものなら絶対に少年院に入れてやる。
俺は秋兎の目の前までくると拳を振り上げる。
「じゃあなゴミ野郎!!」
「知りませんでした、、、、。秋兎さんがそんなことを、、、」
衝撃の事実に驚愕を隠せない一同に狼秋は頭を下げる。
「すまない、隠していて申し訳なかった。ただわかってほしい、あいつはクズじゃないんだ」
狼秋の言葉に誰も反応できない。
それほど大きな過去だったのだ
大人でも持て余す問題を子供である自分達にはどうしようもないとわかっているのだ。
「あいつは自分がクズだと思っている。だからこそあんなことをしてしまった。許されることじゃない」
「で、でもそれは、、」
「ああ、あいつが信念を持って行動したゆえにだ」
フィーネの言葉に同意する。
だが犯罪は犯罪、許されはしない。
あいつもそれをわかって行ったのだ。
ただその行動に対して悪い点をあげるとすればそれは、心がなかったことだ。
あいつは悪に対して過剰に反応する。
正義感が強いのだ。
だからこそあんなことをしでかした。
「でも俺はあいつを誇ってる」
我ながら呆れる。
勉強も運動も、何もかもが俺の方が優れているだろう。
驕りではない、ただの事実だ。
だが俺に勝ることが一つだけある。
それは誰でもできるができないこと。
「あいつはあいつなりに正しいと思ってしたことだからな」
秋兎の強み、それは行動力だ。
「じゃあなゴミ野郎!!!!」
振り上げられた拳を俺は掴み取り、嗤う。
「きひひ、やっぱなー。思った通りだわ」
俺は琥珀を睨みつけながら金属バットを後ろに放り投げ、そのまま遠心力で裏拳を顔面に叩きこむ。
突然の反撃に尻もちをつく琥珀に俺は親指を下に向けながら堂々と言い放つ。
「誰がレイプ犯だボケコラ!!!!!」
主人公、親指を下に向ける件について(`・ω・´)