16
最近寒すぎない?
早く温かくなってほしい、、、。
あれからさらに1週間が経った。
相変わらず昼休み、放課後のほとんどをごろうさんの練習に費やし日々腕を磨く天根美羽。
狼秋は生徒会もあり毎日というほどではないが放課後を担当し、昼間は帝が担当している。
フィーネさんと千堂冴さんはたまに顔を出しては飲み物やお菓子を出しながら健気なサポートをしている。
俺はといえば特にやることもないので何もしていない。
だって俺、絵、下手だし、、、。
天根先輩に負けず劣らず俺も下手なんだよね、、、。
「で、そもそもの話だが。あれは誰だったんだ?」
既に過去となり忘れているかもしれないが、俺は机に『人間のゴミ』と書かれていた。
言ってはいないが靴に画鋲を入れられたり、引き出しに画鋲を入れられたりしていた。
別にそれはかまわないのだが、このままにするってのもしゃくだ。
やられたまま終わるのだけはごめんなのだ。
「それに、あともう少しで先輩の絵も終わりそうだし、問題起こしたくないんだよなー、、」
「う、うう、、、、、」
「だからさー、わかるよな?」
俺は地面で伸びている男共3人に語り掛けながらため息を吐く。
「理由があるならいいけど、お前らいきなり襲ってくんなよな」
「くそが、、、」
「あ?」
顔面を踏みつけて黙らせる。
なんでこうなったのか、説明自体は簡単だ。
いつものように人気のない学校の隅で飯を食べていたら急に襲い掛かってきたのだ。
理由はない、俺を見るなりいきなりだ。
ただ幸いだったのはこいつらは俺と同じ陰キャの類で、俺が喧嘩慣れしていたことだ。
そうでなければ俺は悲惨なことにあっていただろう。
「で、誰の命令だお前ら?関りもない陰キャの仲間に襲われるいわれはねぇぞ?」
「う、うるせえ!!誰が言うもんか!」
「そうかい。まぁいいや。じゃなー。次来たら容赦しねーから」
お腹を中心に殴ったから今は動けないだろうけど、少ししたら戻るはずだ。
俺は教室に戻るべく歩みを進める。
ちらちら周囲を伺ってはいたが誰もいない。
俺に顔バレして報復されるのを恐れたか、そもそも3人がかりだったためにいなくても
いいと判断したのか。
どちらにせよ、これを企てた犯人は俺と同じクズだな。
ただ悪質なのは相手の方だろうが。
「きひひ、めんどくせぇな」
別にやることは変わらない。
来たら立ち向かう。
それだけだ。
「、、、、、、ちっ」
遠くから舌打ちを打つ者がいた。
秋兎にはもちろん聞こえていない。
理由は距離があまりにも遠いからだ。
舌打ちをした者の手には望遠鏡。
絶対に姿を悟られないよう遠距離から除くためだ。
悪意はいつでも、どこにでも潜んでいる。
「あれ、秋兎?また喧嘩?」
教室に戻るなり一発で帝にバレる。
まぁ俺も殴られたり蹴られたりしてるからわかりやすいんだけど。
俺は包み隠さず帝に伝える。
「なんか知らんけどいきなりなー。俺なんもしてないのに」
「大変だねー」
「まーな。で、そっちは?」
「見てくれたまえ月野兄!!これが今の私だよ!!」
帝が答える前に天根先輩が自らごろうさんを見せてくる。
うん、俺の怪我なんざ見えたないらしい。
それほど没頭しているということだろう。
ちょっと悲しい。
だが目の前のイラストはそんなことをどうでもいいと思わせるものだった。
「なん、だと、、、っ」
俺の目の前にあるごろうさんのイラスト、それはもはや完璧に近いごろうさんだった。
葉巻を加え、グラサンをハードボイルドにかけ、ウィスキーを片手に椅子に座るごろうさんは本物のごろうさん
と遜色ないクオリティだった。
俺がネットでこれを見たらいいねボタンを押すくらいには。
「世事抜きで超うまいっすね」
偽りのない賞賛に満足そうにする天根先輩と帝。
これまでの努力が実った瞬間だった。
「ありがとう月野兄。ここまでこれたのは君の弟に帝くん、フィーネさんや冴さんのおかげだよ」
「本当によく頑張ったよー」
「うむ。これで私もようやくスタートラインに立てたよ」
そう、天根先輩の目標は漫画家なのだ。
ここがゴールではない。
だが、それでも今だけはお祝いしてもいいだろう。
「あー、良かったら今日俺達の家でパーティでもしません?」
「「え?」」
秋兎の提案にきょとんとする2人。
失礼な反応だが今は流そう。
実は俺は俺で裏で動いていたのだ。
イラストに関しては俺は何もできない。
なら成功、ないし成長することを期待して満足いくものができたらお祝いでもしようと計画していた。
母はもちろんすでに知っているし、準備もしていた。
狼秋もフィーネさん、千堂冴さんも知っている。
知らないのはこの2人だけだ。
まぁ俺なりのちょっとしたサプライズってやつだな。
「し、失礼かもしれないが、君はそういったことを嫌っていると思っていた」
「僕もー、、。秋兎が陽キャみたいなイベント計画してるの初めてなんだけどー、、。」
ほんと失礼だなこいつらは!?
「俺は努力できない人間だ。だからこそ目の前で努力している人みたら少しは貢献したくもなるだろ」
我ながらガラじゃないことしてるなー。
おいこら、目の前でクスクス笑ってんじゃねぇよ。
「で、くるのか?」
「はいはーい、行くよー」
「私もご相伴にあずかろうかな」
相変わらずクスクス笑ってはいたが2人とも了承した。
チャイムの音が鳴り、昼休みの終わりを知らせる。
「では私は教室に戻るとするよ。放課後、楽しみにしている」
「ばいばーい」
「教室に俺達で迎えに行くんで。また」
天根先輩が教室から出ていく。
すると、周囲の声が聞こえてくる。
いや、これは、笑い声?
嘲笑の類だ。
「帝、なんか知ってるか?」
「、、、、いや、知らないかなー」
知っているはずもないか。
ここ最近天根先輩につきっきりだったのだ。
いくらコミュ力の化け物とはいえ常に把握するのは無理だろう。
今までもこんなことは頻繁にあった。
だが、なんだろう、、。
これまでとは違う、嫌な予感を俺は拭うことはできなかった。
「、、、、ま、今日のHRはこんなもんだろ。きーつけて帰れよー」
やる気のない鬼山先生の言葉で今日という一日が終わる。
金曜日ということもあり、全員心なしか表情が明るい。
「やーっとお酒飲めるぜー」
一番あんたがうれしそうなのかよというツッコみは心の中だけにしておこう。
「帝ー。行くぞー」
「あーい」
天根先輩を迎えに行くと約束しているため、帝を呼んで迎えに行く。
が、それを静止する声が一つ。
「あ、月野ー。お前少しこーい」
鬼山先生に呼ばれる。
、、、、小テスト、赤点ギリギリだったんだけど、それじゃないよな?
「、、、、はぁ、お前陰キャを自称してるわりにやることは違うよなー」
「あははー、、、そっすかねー?」
冷や汗が流れる。
嫌な予感はこれだったのか?
「ねー月野秋兎くん?君に暴力振るわれたって話、来てるんだけどなー?」
「マジ無関係っすね。冤罪っすよ」
「これ、証拠ねー」
無関係を貫こうとしたが取り出されたのはばっちりと俺が暴力を振るっている動画。
うん、詰んだ。
「これ襲われたから!正当防衛です!!!でもすみませんでした!!」
即座に謝罪した。
なんでも先に謝っておけば許されるはず。
そう思っておこう。
「ったく、お前は気をつけろよー。たまたま俺だったからよかったけどねー」
俺の思惑に気づいてため息を吐きながら注意する鬼山先生。
ん?俺だったら?
「これとったの俺だからねー」
「んだよ先生かよ。焦ったー」
「焦ろよー。俺じゃなかったら終わってたぞー」
言葉通りではある。
実際、襲われたとはいえボコってしまったのだ。
いや悪くはないんだけど、この動画だけ見れば悪役俺だからな。
「とりあえずそんだけだー。とっとと帰れー」
「はーい」
俺は鬼山先生の警告を聞き流しながら帝と共に天根先輩が待つ教室へ向かうのだった。
俺は鬼山先生の警告を聞き流しながら帝と共に天根先輩が待つ教室へ向かうのだった。
だが俺は、その警告を生かせなかった。
天根先輩の教室へたどり着く。
眼に入ったのは破り捨てられたごろうさんの破片。
それらをかき集めて涙を流す天根先輩。
そして、、、、、
「、、、、こはくうう!!!」
イラストを破り捨てた張本人である琥珀が不敵に笑っていた。
次回、戦闘シーン、くる??