第72話 行ってみたいところ
デザートのメロンシャーベットを食べ終えた所で聞いてみた。
「さて、他に何か違う物もオーダーする?」
「要らないよー。もうカニ尽くしで大満足だよー。」
「今はカニ以外の物を食べたらカニに失礼だな。」
「私はもうお腹いっぱいです。」
「だよね、オレもお腹も心もいっぱいになってるもん。カニ料理で満腹になったって凄いよね。オレはカニ刺身に軽く塩ふったのが美味かったな。」
「アタシはやっぱり焼カニかな。香ばしい香りが良いし、なんつったって、ザ・カニって感じで、美味かったよ。」
「わたしはカニしゃぶが一番かなー。カニに昆布の出汁が加わって、温かくて、気持ちがほわーっとしたよー。」
「私はカニ釜めしが良かったです。ご飯にカニの出汁が染みてて、すごく美味しかったですよ。」
みんなで食後のカニ談義が終わった所で店を出て、一旦ホテルへ戻った。
ホテルへ戻ると結局全員ラウンジに集まっていた。
「わたし、カラオケボックス行きたいなー。みんなも一緒に行かない?」
「もちろんアタシも行くよ。今ギター取って来る。ちょっと待ってて。」
「私も行きたいです。」
3人組は若いだけあって元気だね。
オレはカラオケボックスより、ちょっと渋めのバーでウィスキーと洒落こんでみようかな。それか、スルメイカとか炙ってもらって冷酒をコップで飲むみたいな肩ひじ張らなくていい、風情のある居酒屋とかも良いかな。
「オレはちょっとバーとか飲み屋とか覗いてみたいかな。」
「あら面白そうですね、わたしもご一緒して良いですか?」
「もちろん、一緒に行きましょうか、ジュンさん。じゃ、車はカラオケボックス組と、飲みに行く組で別れよっか。みんな、気を付けて楽しんできてな。」
「はーい、ユーさん達も飲み過ぎないよーにねー。行ってきまーす。」
3人組が元気にラウンジを出て行った。
「さて、ジュンさん、どこへ行きましょうか? オレ、特に何か行く店とか考えてなかったんですけど。」
「そうですか?実はわたくし、行ってみたい所があったんです。」
「え、そうなんですか?それは何ですか?お洒落なバーとかですか?」
「いえ、期間限定でおでんの屋台が出てるって聞いたんです。わたくし、おでんの屋台ってテレビのドラマとかでしか見たこと無くって、一度行ってみたかったんですよね、ほら、東京ではもう滅多に見かけないじゃ無いですか、おでんの屋台。」
「へぇ、おでんの屋台ですか、それ面白そうじゃないですか。オレも実は屋台で飲んだことって無いんですよ。いいですね、行きましょうよ。」
車で走ること5分ちょっと、イベントスペースの端のようなところに屋台があった。
赤い暖簾には白い文字で「おでん」って書いてある。これぞまさしくドラマとかアニメとかで見るおでん屋台だよ。
暖簾をくぐると、先客に初老の男性が一人、おでんをつまみにビールを飲んでる。
「いらっしゃい。」
鉢巻きを巻いた細身で初老の大将がオレ達の前に小皿と割り箸を出してくれた。
「ジュンさん、何にしますか? オレはコップ酒にするつもりです。なんか絵になりそうなんで えへへ。」
「ですよね。わたくしも日本酒、冷やで頂きますわ。」
「日本酒冷やね、はいよ。」
大将がオレ達の前にコップを置いて、一升瓶から酒を注いでくれる。
トトトトトトトト・・。表面張力でコップの表面がこんもりと盛り上がったところで一升瓶を離した。
「おぉ、こういうのが職人技ですよね。カッコイイな。」
「ですね、こういうシーン、良く見てましたけど、生で見たの初めてですわ。」
「お客さん達、東京の方?」
大将がこっちを見る。
「えぇ、東京からです。苫小牧始めてて、あと、こういう屋台のおでん屋さんも初めて何ですよ。」
「そうですかい。うちのおでんは汁の出汁に地元の昆布と煮干しで取った濃い目がウリなんですよ。おすすめは、牛筋、はんぺん、ばくだんとかかな。」
「じゃオレは、そのおすすめで。」
「わたくしも同じものをお願いします。」
「あいよ。」
おでんが小皿に盛られた。
酒のコップは持ち上げたらこぼれちゃうので、置いたまま口を近づけていって、ズズッとすする。お行儀が悪いとかじゃなく、これが屋台のおでん屋でのマナーだしね。
続いて、熱々で湯気が出てるはんぺんを箸で切って、口の中へパクっと。
うっわあっつい。ハフハフハフ・・・。
ジュワーっと口の中に出汁が染み出して来る。あ、ホントだ、出汁が濃い、でも塩辛いわけじゃなく、超濃厚な出汁なんだ。うまいなぁ。
「大将、このお店は期間限定だって聞いたんですけど。」
ジュンさんが大将に話しかけた。
「あぁ、そうなんですよ。ほら、北海道だから真冬に雪んなかで屋台出したって寒くししょうがないっしょ。だから、冬は店でおでん屋やっとるんですよ。あと、今は道路とか公園とかで屋台出すのは厳しくなっちゃってるんで、イベントとかでスペース提供してもらった時だけの限定で屋台でやってるんですわ。今でも屋台で食べたいってお客さんも居るんでね。」




