第29話 チート
武蔵はゆっくりとゲートを通過している。
「武蔵、基地水路離脱、現在太平洋上を航行中。メインゲート閉鎖。」
シオリが一連の出航プロトコルを終えた。
ここからは津軽海峡へ向かって全速力で向かいたいところだけど、レーダー捕捉されていることも考慮して、目立たないよう、海自護衛艦の最大速度を超えないように30ノットで進むことにしよう。
「艦内コンディションイエロー発令、津軽海峡へ向けて、速度30ノット。」
「コンディションイエロー発令。目標、津軽海峡、第一戦速。」
シオリが復唱する。
うん?第一戦速?それじゃ遅すぎないか? いやいや、武蔵の航行性能は現代護衛艦の約2倍だから、第一戦速でも、通常護衛艦の最大戦速相当になっちゃうのか。第一戦速で現代艦を越えちゃうってのは、やっぱり強化しすぎだと思うけどな・・。
「ここから津軽海峡の入口付近まで約1,300キロ、30ノットで進み続けたとして、約24時間、丸一日後に到着って所だね。コンディションイエローだから、各自休憩を取りながら、津軽海峡到着に備えよう。」
「了解でーす、わたし、お腹空いてるんで、食堂で何か食べてこようっと。」
ミズキが直ぐに艦橋を出て行った。
「私は荷物を整理しておきたいので、部屋へ戻ります。」
「アタシも部屋に戻ろうっと。」
シオリとレイナも艦橋を出て行った。
「ユー、これからの事について話をしておきたいので、わたしくの部屋、だと色々と噂になるとまずいので、ミーティングルームで話をしませんか?」
「えぇ、もちろん、話はしたいですけど、艦橋に誰も居なくなっちゃいますよ?」
「そのことも、お話しないといけないですわね。結論から言ってしまいますと、問題無いので安心して下さい。武蔵の統合管制AIは、プリマベーラのシステムと連携していますので、地球上のどんな艦よりも安全ですわ。もちろん、異常事態発生時には各クルーが緊急招集されますけど、実は、誰も乗ってなくても、武蔵は完璧にコントロールされてるんですよ。」
「え、それじゃ、オレ達って要らなくないですか?」
「ユー、無人艦が敵をなぎ倒したら、ロビスコに怪しまれますわ。」
「それはそうですけど・・。なんかあんまりオレ達の意味が無いような・・。」
「そんなことありませんよ、まぁ、コーヒーでも飲みながら話しましょう。」
「ハイ・・。」
ジュンさんと一緒に食堂でコーヒーを取って、ミーティングルームへ入った。
「さて、まずは仕事の話で、先ほどのお話の続きなのですが、武蔵についてです。性能などの諸元はデータを転送した通りなのですが、データに無い部分を説明しておきますね。」
「データに無い部分ですか、表に出せない部分って意味ですかね?」
「まぁ、ざっくり言ってしまうと、当初想定していた地球の既存技術の改良ではなく、エーデルシュタイン連邦のテクノロジーを使ってしまった部分ですね。」
「あれ?エーデルシュタイン連邦は今回の件に関わらないのが基本方針でしたよね?」
「そうですね、ほら、それは少し前提条件が変わったというか、ね。」
あれ?なんだかすごく歯切れが悪いな。
「ともかく説明を続けますね。さっき少しお話しした通り、武蔵の統合管制AIはプリマベーラのシステムと連携させました。よって武蔵の統合管制AIは、実態はプリマベーラのシステムということです。問題点として、プリマベーラ、いえ、エーデルシュタイン連邦軍のプロシージャで対応してしまうので、ロビスコが行動解析すると、エーデルシュタインの介入に気づかれてしまうのです。そこでユーたちクルーが重要になるのです。」
「重要、ですか?」
「皆さんが介入することでプリマベーラのプロシージャは極所的にのみ使われることになるのです。」
「それは、オレ達が予定調和をぶっ壊す、みたいな感じですかね?」
「えぇと、まぁ、表現はユーにお任せしますわ。あ、それと今回もう一つ追加された機能として、武蔵が運用中でもアップデートが出来ることになりました。」
「運用中にアップデート?」
「はい、例えば運用開始後に当初の想定と違う武装や、艦の仕組みが必要になった場合、艦をドックに入れなくても、その場で運用中にアップデート出来るのです。実際にはプリマベーラで新しくパーツを作って、それを瞬間的に入れ替えることになるので、アップデートしている訳ではないのですが、それをあえてアップデート、という言葉で実現させようということなんです。」
「そんなことまでしたら、もうチートとかのレベルじゃ無いですよね。。」
「そうですが、武蔵の安全は絶対に守られなければなりませんから。」
「それはありがたい話ですけど、どうして当初の方針を変えてまで武蔵がチート級になったのでしょうね?」
「それには、色々と事情があってですね、その結果ですわね。」
「それが凄く気になってるんですけど、ジュンさんがそれを言いたくないように感じてるんですけど、何かオレが聞いちゃまずいことですか?」




