第19話 ミズキ
オレはカプチーノ、彼女はキャラメルマキアートを買って2人掛けの小さい丸テーブルの席に座った。
親友設定なのに相手の情報が全く無い状態から、どう話を進めるか、これもノリと勢い、屁理屈とはったりでなんとかするしかないんだよね。とりあえず今わかってるのは、着てる制服が桜ヶ丘女子高校ってことだけなんだよな。
軽く目を瞑り、右手で首から後頭部にかけてマッサージを始める。
すぅっと、頭がスッキリして冴えてきて、だんだんと頭の芯の部分が熱くなってくる。よし、最初に大きく出て、細かいことを曖昧にしちゃおう。
「実はさ、大変なことになっててね、オレの家に空き巣が入ったんだよ。」
「え、泥棒が?」
「それも、オレが風呂入ってる時にだよ。大胆不敵と言うか、凄いよね。それでスマホも盗られちゃったから、皆の連絡先とかも無くなっちゃっててさ、困ってたんだよ。新しいスマホで番号も変えたんで、LIMEの連絡先、もう一回交換しといて良い?」
「あちゃー、そりゃビックリだね。はい。」
そういうとツインテールちゃんは自分のスマホを出してLIMEのQRコードを見せてきた。
「サンキュっと。」
良いねぇ、LIMEが名前で登録されてるよ、『ミズキ』ちゃんね、よし、名前ゲット。
LIMEだけじゃなくて電話番号も欲しいよね。
「あ、あと、一応、オレの新しい番号、これにワンギリしてくれる?」
「おけー。」
よしっ、電話番号もゲットー。
「でもさ、ユーが家に居たのに泥棒が入ったなんてさ、もしユーが風呂から出て、泥棒と出くわしちゃったら、泥棒から強盗に変わったりして最悪命の危険もあるんじゃないの?」
「そうなんだよ、やばいよねー。でさ、怖くなっちゃって引越したんだ。」
「あー、わかるー。人がいるのに泥棒が入った家なんて怖くて落ち着かないよねー。」
「それでオレ、今は南高砂に住んでるんだよね。ミズキちゃんはまだ同じ所に居るの?」
「うん、わたしはずっと東草加だよ。生まれも育ちも埼玉、根っからの埼玉県民だからねー、東京なんか住まないよ。」
「そっかそっか、翔んで埼玉ちっくだねー。ま、東草加はアキバから電車一本だから便利っちゃ便利だしね。オレなんか都内なのに、ここから1回乗り換えないと南高砂に帰れないんだもんね。」
エージェント通信装置をスマホに連動させて、今までの情報をプリマベーラ対外情報部の情報解析センターへ送る。キーワードは、桜ヶ丘女子高校、ミズキ、東草加、電話番だな。
最近のおすすめアニメの話しをしているうちに、情報解析センターからの調査結果が届いてスマホ画面に映し出された。
『人物特定完了。大島美月、17歳、桜ヶ丘女子高校3年2組、漫画研究会、東草加の一戸建て、父親は都内サラリーマン、母親は近所でパート、大学生4年の姉が1人の2人姉妹』
よしっ、これで任務完了っと。
でも、せっかく可愛いミズキちゃんとお茶してるんだから、もう少しだけ話ししちゃおうかな。情報も揃ったことだし、これくらいは役得だよね。
「ミズキちゃん、今日は部活、漫研は無かったの?」
「あったよ。でもいつもと一緒、皆で集まって、ちょっと駄弁っておしまい。で電車乗ってたら友達から、アキバで探してた本があったよってメッセージ来たんで、今買ってきた所だよ。」
「あ、薄い本?」
「ちがうよー、イラスト集!」
2人でケラケラ笑った。
激可愛い女子高生とスナバでコーヒー飲みながら談笑してるなんて、以前のオレには想像もつかない異次元の話しだと思ってたけど、実際に異次元に行って帰ってきたら、こっちの世界でも異次元に入れちゃいました、ってことで良いのかな。異次元に行ったらこっちでも異次元世界に入ったオレ、ってタイトルでラノベでも作れそうだよね。
「そういえばお姉さんって来年卒業だったよね?就職とか決まったの?」
「うん、内定出たんだってさー。それもね、銀行なんだって。あのグダーっとしてるだらしない葉月姉ちゃんが銀行員なんて信じられないよねー。」
「へぇ、銀行で内定貰ってるんだ、凄いね。」
結局、とりとめのない話をしながら1時間位、スナバで一緒にコーヒーを飲んだ。
今までの人生で一番キラキラした1時間だったかもしれない。
ミズキちゃんと別れて、地元の駅へ戻った。今日は特大のラッキーがあったので、気分が最高に良い。この勢いで好きなものをたっぷり食べて帰ろうかな。
どこで何を食べようか悩んだ結果、駅前の中華チェーンに入った。席に着いて生ビールとレバニラ炒め、餃子、おつまみ盛り合わせ、更に春巻きまで頼んじゃって、ウキウキ気分でラッキーの残り香を楽しんでいたのだが、ふと我に返ったら、なんで人生一番ラッキーだった日のハレの夕食が中華チェーンでちょい飲み仕様なんだよって思ったら、オレの現実を思い知らされてしまった。
それでも、テーブルの上に大好物が並んで、熱々の餃子をキンキンの生ビールで流し込んだ瞬間から、めっちゃ幸せディナーに変わったんだよね。そう、こういうのでいいんだよ、こういうので。




