第13話 ナポリタン
会議室を出た所でジュンさんに呼び止められた。
「ユー、わたくしはこの後まだプリマベーラで打ち合わせがあるのですが、ユーはどうしますか? 待っててもらっても良いですし、先に帰ってても大丈夫ですよ。一人で帰るなら転送エレベーターまで案内させますわ。」
「そうですね、オレがここに居ても特にすることも無いので、地球に戻ることにします。一応、補助者とはいえ、エージェントですしね。」
「そうですね。情報収集の意味でも、そうしてもらった方が良いですわね。では、案内を呼びましょう。」
そう言ってジュンさんが左手首の辺りを触ると、例のアイツ、そう、緑ランプを点滅させた四足歩行のロボットがやってきた。
「ユーサマ、コチラ、デス。」
「じゃ、気を付けて。何かあったらすぐに連絡下さいね。」
ジュンさんがニコッと笑って小さく手を振って見送ってくれた。
ネッコ姿の婚約者に笑顔で見送られるオレ、それもここは異次元の移動都市の中。もう、なんでもありって感じだよな、この状況。でも、友達ですらいたことが無かったオレとしては、ネッコ、いや、人と関われてるだけでもちょっと幸せかも。
転送エレベータ―のあるビルを出る。
街の様子は普段と何も変わってない。まさか目の前に地球滅亡の危機があるなんて、誰も想像もしてないだろうしね。そういうオレも、まったく実感の湧かない地球滅亡のことより、今切実に感じてる空腹感を解消する方が優先だと思ってるしね。
ってことで、朝から何も食べてないペコペコ腹にはガッツリ系、それも炭水化物祭り的なジャンキーなものが食べたいんだな。そうだ、駅裏のナポリタン屋に行こう。
ナポリタン屋の食券自販機の前で一瞬我に返って、妥当な『大盛り』を選びそうになったが、いやいや、そんな妥協はいかん、と思い直し、腹がペコちゃんの勢いのまま『ナポリタン 鬼盛』のボタンをポチっと押した。
口の周りをケチャップでクワンクワンにしながら、ワシワシと一心不乱にナポリタンを食べ続けること30分、ようやく皿の上のナポリタンが無くなった。
こういう、大盛りとか食べ放題系を食べた後はいつも、腹八分目もしくは腹いっぱいに美味しいものを食べた方が幸福度が高いのに、なんで無理やり腹120%食べちゃったんだろうって後悔するんだけど、数時間後にはすっかり忘れて、また大盛りとか頼んじゃうんよね。特に、普通も大盛りも特盛も料金同じ、とかって書かれてると、普通とか大盛り頼んだら損した気分になるしって、こんなこと思ってるのってオレだけなのかな。
ということで、今は満腹を超えた腹はち切れそうで、ちょっとお腹痛いモードに入ってるので、真っ直ぐ家に帰ることにする。
微妙な人達に出会ってしまうと、地球上の人の数を減らすことになってしまうので、余計なトラブルを避けるため、近道せずに駅の自由通路を通って、人通りが多い大通りを使って家に帰った。
プリマベーラのオレの部屋の方が快適ではあるんだけど、やっぱり自分の部屋って落ち着くんだよね。ちょっとスマホいじってゴロゴロしてるうちに値落ちしてしまったようだ。
スマホが鳴ってる。うん?誰からだろう? あ、ジュンさんだ。
「もしもし、ジュンさん、どうしましたか?」
「ユー、今テレビ見られるかしら?ニュースを見てほしいの。」
ジュンさんが興奮したような声だ。何かあったな。寝ぼけていた頭が一瞬でスッと晴れた。
「ニュースですか、ちょっと待って下さい。」
テレビのリモコンを探してテレビをつけた。
テレビの画面には『緊急速報』という赤枠で囲まれて、炎上している石油タンクの映像が映し出された。
え?なんだこれ?
「ユー、ロビスコです。ロビスコが苫小牧港に攻め込んで来たのです。」
「えー、この炎が上がってるのは苫小牧港!?」
「本国の見解では、ロビスコはまず北海道を占領する、ということでしたわ。そして、こちらでは、このような攻撃が世界各地で同時に発生していることを確認していまして、同時に通信網にも妨害が入っているようで、各国は他国との連絡を取るのが難しい状況のようです。ニュースで他国の攻撃の事を言っていないのは、その情報を知らないからでしょうね。」
「いつでも攻撃できる状態にある、とは聞きましたけど、もう攻めて来たのですか! それも世界同時に!?」
「直ぐに対応が必要なので、今からプリマベーラへ戻ってもらえますか? エレベーターの所に案内を待たせておきますので。」
それは確かに即対応しないと、マジで地球の危機だよ、これ。
「もちろん、すぐ行きます!」
転送エレベーターのあるビルの入口で俺がリストラされた職場の専務とすれ違った。もちろん、専務はオレに気づかず、車寄せに停めてあった黒いセダンに乗り込んで出ていった。
ふん、あんた達がリストラしたオレが、これから地球を救うために戦うんだぜ、泣いて感謝しろよなって、言いたかったけど言えなかったので、心の中で呟いた。
エレベーターに乗り、オレ一人だけど、ビシッと転送ポーズを決めてみた。




