第107話 ニョッキ
「どうも引っかかるものがあるんですけど、まぁ良いでしょう。今回はユーの話を信じましょう。とにかく、何度でも言っておきますが、もし浮気したらガッツリ噛みつきますからね。」
「はい、解ってますです・・。」
「解ってるなら良いでしょう。乾杯しましょうか、彩りの素敵なサラダも頂きたいですし。」
「はい、ジュンさん。乾杯。」
「乾杯。」
前菜は自家製スモークサーモン、生ハム、サラミの盛り合わせだった。
これは白ワインが必須でしょう。
「白ワイン、オススメをお任せで1本お願いします。」
続いて魚料理で鰆の香草パン粉焼き。香草ってだけあって、香りが素晴らしすぎる。
これも白ワインとベストマッチだね。
肉料理の骨付き仔羊のオーブン焼きが出てきた。
ラム独特の匂いと味が濃厚なソースと合わさって、ジンギスカンで食べたラムとは違う食材みたいになってるよ。そうか、骨付き子羊の料理なんて、始めて食べるんだな、オレ。
ここは本来、赤ワインだよな、1杯だけグラスでもらおうかな、赤。
ジュンさんにはグリルキノコのリゾット、オレには茄子のトマトソース 手打ちニョッキが出てきた。
ニョッキは、オレが小学生の頃、イタリア人とのハーフの同級生が居て、その子の家でパーティ的なのがあって、イタリア人の母親がニョッキを作るのを見せてくれて、じゃがいも料理なんて肉じゃがかおでん位しか知らなかったオレが強烈な衝撃を受けて、それ以来、結構好きなんだ。
そうそう、このモチモチした食感が良いんだよね。
ジュンさんのリゾットも、こっちまでキノコの香りが漂ってきてて、美味しそうだな。ただ、どうもリゾットとお粥の違いがわからなくて、なんか風邪ひいた時のご飯みたいなイメージがあるんだけどね。そんなこと言ったらイタリアの人にぶっ飛ばされそうだけど。
「そういえばユーは昼は何してたんですか?」
「ランチはちょっと、いや、かなり贅沢に天麩羅屋のカウンターでおまかせで人生で一番美味かった天麩羅を堪能したんですよ。で、その後はアキバ行って、アキバエキスをたっぷり吸収してきましたよ。」
「あ、それでジャンクのキーボードを買ったんですね。」
「そうなんですよ、ジャンクって見ちゃうと買わないと損みたいな変な気持ちになっちゃって・・。」
「物を大事にする地球人、いや、日本人っぽいですね。」
「そうですか?」
「だって、エルダルン研究主任だったらジャンクを治したりせずに3Dプリンターで直ぐに作っちゃうでしょうから。」
「あ、そうか、シオリに頼めば作ってもらえたんだ。 あちゃー。 あ、いやいや、そう、これこそ物を大事にする、どんなものにも神様が宿ってる日本だからこそですよ。いやでも、シオリに頼もうかな・・。」
デザートのティラミスが出てきた。
ランチの天麩羅に続いて優雅な夕食を楽しんでる、オレって確実にリア充路線まっしぐらだよね。
でも、これも、もう少し、明日の朝8時には防衛省の車がアパートに迎えに来るんだったよな。天麩羅屋の白木のカウンター、このイタリアンのヴィンテージな店内、そして明日からの『キタキツネ釧路』って、なんだか全然同じ世界感だと思えないんだけど。でも、オレは武蔵に乗ってるから、今の夢のような時間があるわけで。まぁ、あまり深く考えてもろくなことにならないんだから、今を最大限に楽しんでおこう。っていうことで、今夜もまだまだ・・。
「ジュンさん、オレ、この後、もう一軒寄っていこうと思うんですけど、ジュンさんも一緒にどうですか?」
「あら、お誘い? フフフ。 嬉しいですけれど、何処へ行くんですか?」
「えぇと、まだ考えては居なかったんですけど、とりあえず、お腹はいっぱいだから焼き肉とか寿司とかは無いし、昨日煮込みともつ串食べたし、後は食べときたい物ってなんだろうな? あ、そうだ、餃子、結局昨日も行けなかった餃子が心残りなんだ、街中華行きましょうよ。」
「わたくしも結構お腹はいっぱいですけど、中華なんか行って大丈夫かしら?」
「あ、全然大丈夫です。メンマ、チャーシュー、ザーサイ、色んなつまみメニューがあって、それにジャスミンハイが合うんですよ。」
「あらあら、なんだかとても楽しそうですわね。えぇ、行きますわ。明日からはまた任務ですものね。」
イタリアンの店を出て夜道をジュンさんと歩く。
そろそろ曰く付きの公園だ。
「ジュンさん、ここですよ、この公園。最初はエージェントになってすぐの頃、次が昨日と、2回もこの公園で、どっちも同じ町中華へ行こうとしてるところで絡まれて、結局行けなくなっちゃってるんですよ。今日はジュンさんと一緒だから大丈夫だとは思いますけど、念の為、公園通り抜けずに行きますか?」
「大丈夫、今はこの公園に誰も居ませんわ。」
ジュンさんが一瞬目を瞑った後で言った。
「え、ジュンさん、わかるんですか?」
「えぇ、わたくし達は監視対象、つまり、地球人の存在は認識出来ますから。」
あ、そうでしたね、オレ達は本来監視対象でしたよね・・。




