第106話 ご丁寧、だけど。。
改札を出たところでジュンさんにメッセージを送る。
「今、駅につきました。改札を出たところです。」
『南口交番の脇で待ち合わせましょう。』
「了解!」
交番脇の歩道で待つこと数分、ジュンさんが現れた。
「ユー、お待たせ。あら、結構買い物したんですね?」
「あ、これ、ジャンクのキーボードなんですよ。分解して洗ったら使えるんじゃないかと思って。」
「ユーって、そんな趣味もあったんですね。」
「いや、趣味っていうか、貧乏性だから、治せそうなものを見るとつい買っちゃうんですよね。」
「ところで夕食はもう済ませましたか?」
「いえ、まだです。ジュンさんは?」
「わたくしもまだなので、一緒にどうですか?」
「はいもちろん。何食べましょうか?」
「わたくし、商店街から一本裏の通りにある、ヴィンテージ感があるイタリア料理の店に行ってみたいんですけど、どうかしら?」
「商店街の一本裏のイタリアンですか? あ、ありますね、オレも入ったことないです。ってか、あそこ一人じゃ入り辛いから・・。」
「そうなんですよ、ですから、今日は2人でどうでしょう? ユーと二人、デートみたいですし、フフフ。って言ってもわたくしの姿は今は初老の女性なので親子で食事にしか見えないでしょうけど。」
「どう見られてても良いですよ、そこ行きましょう。」
商店街に入った所で突然小柄な女性に声を掛けられた。
「あ、あの、昨日はありがとうございました。」
え? 誰だろう突然。 女性、しかもメッチャタイプ・・
あっ! 昨日の夜にナンパかキャッチの茶髪のお兄さんに絡まれてて、オレが『記憶リライト』使って助けた人だ。
「あ、いやいや、オレ、本当に何もしてないですし、ね。」
「ありがとうございました。」
小柄な女性は、ご丁寧にジュンさんにもお礼を言って立ち去っていった。
オレとジュンさんの組み合わせだから、家族か親戚だと思われたんだろうね。
とても丁寧で挨拶の出来る良い人なんだけど、でも、ね、ジュンさんはオレの母親でも親戚のおばさんでも無く、ね・・。
「ユー、昨日ってなんですか? 今の可愛らしい人は誰かしら? 色々とお話聞かせて頂かせますか?」
ジュンさんの顔から表情が消えた・・。
ほんの少し前までのホンワカした雰囲気から一転して死の行軍のようになってしまったまま商店街の一本裏道にあるイタリアンの店に入った。
店は外も中もヴィンテージ感ではなく、実際にヴィンテージな店だった。昔から続いてるってことは期待できるよね。 ただ、ジュンさんはまだ無表情だけど・・
赤白チェック柄のテーブルクロスのかかった席に座り、メニューを見る。
「あ、この店ってコース料理だけなんですね。魚料理が鰆の香草パン粉焼きで、肉料理が骨付き仔羊のオーブン焼き、そしてパスタとデザートは選べるみたいですよ。 パスタはベーコンとほうれん草のペペロンチーノ スパゲッティ、茄子のトマトソース 手打ちニョッキ、グリルキノコのリゾット、デザートはティラミス、パンナコッタ、ジェラートですね。ジュンさんは何にしますか?」
「わたくしは、パスタはリゾット、デザートはティラミスでお願いします。」
「じゃ、オレはニョッキとティラミスを注文しますね。」
食前酒のシャンパンとサラダが出てきた。
イタリアンっぽい彩りの良いサラダだ。
「では、ジュンさん、乾杯しましょうか。」
「そうですね。でも、その前に伺っておきたいことがありますの。」
あぁ、やっぱりこの話題からは逃げられないんだ・・
「さっきの女性ですよね? 彼女が言ってた通り、昨日の夜、駅前で茶髪のお兄さんにしつこくナンパされてたみたいで、通りかかったオレに助けを求めて来たんですよ。それで、オレが茶髪のお兄さんを追い払った、ってそれだけですよ。」
「ユーは武蔵のクルーの時もそうですが、好みのタイプの女性ばかりと絡んでないですかね? さっきの女性なんて、ユーのドストライクですよね?」
ドストライクって・・ あながち間違っては居ないんだけど。
「いや、でもですね、オレ、そういう余計な現場に出くわすことが多いじゃないですか。だから昨日もあえて近道の公園とか通らずに表通りを歩いた位、そういうのを避けようとしてたんですよ。それでも遭遇しちゃったのは、もう、むしろオレが被害者ですよ。」
「あら? 昨夜わたくしがユーの防衛装備が作動したことを聞いた時には、ユーは公園でカツアゲされそうになったって言いましたよね?」
「あ、それはまた別、というか、彼女を助けた帰りに公園で・・。」
「今、公園とか通らずに、って言いましたよね?」
「えぇと、それは、人助けしてちょっと、気分が良くなってて、その注意事項を忘れちゃったんです。良いことしたら急に餃子が食べたくなっちゃって。でも、防衛装置が働いたおかげで、楽しい気分は吹っ飛んじゃったんで、そのまま帰りましたよ。あ、缶ビールとつまみは買って帰りましたけどね。」
「気分が良くなってたのは、可愛い女性をみつけて、それを助けたからじゃないんですか?」
「いや、違いますよ。だって、向こうから助けを求めて来たんですよ・・。」




