第105話 戦利品
転送エレベータは上下でも左右でもない不思議な方向へ動き、そのままスッと停止した。 あれ? そのまま動かなくなっちゃったぞ? あらら?
スマホの時計を見ると、時間が12時10分。あ、ランチタイムだから、ビルのエレベーターが混雑してて無人になるタイミングが無いんだ・・。
こりゃ少し待たされるかも。
操作盤の金色が消えて、チン、という音がして、扉が開いたのは5分後だった。
うん、次からはエレベーターに乗る時間帯も考慮しよう。こんな狭い空間に5分も一人で閉じ込められるのはもうゴメンだよ。
ビルの外に出ると、少し曇ってはいるものの明るい空が広がっていた。
ランチタイムで足早に歩く人達を見ていると、腹が・・減った・・・。
今のオレは目に映る店、どこへでも入りたい気分だぞ。
いやいや、焦るんじゃない オレは腹が減っているだけなんだ。
落ち着いて考えよう、この時間帯、サラリーマンの定番店は混んでるから避けた方が良いよな。でも定番の店以外だとちょっと高級というか素敵なお値段の店になっちゃうんだよね。でもまぁ、これから北極海行かなきゃいけないんだから、上陸してる間位は贅沢しちゃいましょうか、ね。 と無理やり自分自身を納得させて、入口に砂利が敷かれていて、脇には竹が生えていて、ランチメニューなんて看板も出てない天麩羅屋に入ることにする。
カラカラカラ・・
小気味よい音とともに入口の引き戸を開く。
店内に一歩踏み込んだだけで、もう既に外のランチタイムの喧騒とは別世界のような静けさにつつまれた。
白木のカウンターに通されたところで、一度は言ってみたかった、あの夢の注文を言ってみた。
「おまかせでお願いします。」
姉さん、事件です。オレ、遂に天麩羅屋で、おまかせで注文してしまいました。もう普通の人には戻れないかもです。あ、異次元の王族、ジュンさんと婚約した時点で既に普通の人では無くなってるかもだけど。
瓶ビールを薄い小さなグラスに注いだところに先付けの焼きナスが来た。
なすが優しい味で、焼きナスだけでビール1本空いちゃったよ・・。
ごま油の香ばし香りと、ジュワ、パチパチ・・という揚げ音が心地良いぞ。
そして天ぷらの登場だ。まずは車海老、サクっとした衣の中にまだ少しレアが残ってるプリップリの海老が2本。
そして海老の頭。もうこれだけでも唸ってしまう位美味しい、うん、余は満足じゃ。
お次は鯛。鯛の天麩羅って始めて食べた気がするな。
続けて白魚、あまり味が無いかと思ったけど、しっかりと白魚の苦みもあったよ。
コリコリした歯ごたえで甘みたっぷりのイカ。
野菜のトップバッターはアスパラ、食感が素晴らしいんだな。
そして、レンコン。揚げることでホクホクになって、それでもサクっとしてて、レンコンって不思議な食材だよね。
素揚げ?ってくらい極薄の衣で出てきた舞茸。香りと食感が素晴らしいよ。
〆に天ぷら茶漬けを食べて大満足。ランチだから品数少なめって言ってたけど、いやいや、十分満足だったよ。
夢のようなランチを堪能して店を出ると、またいつもの喧騒の街だった。
さてと、午後は何をしようか。満腹満足なんでゆっくりと昼寝でもしたい気分ではあるけど、せっかく上陸してることだし、艦では出来ないことをしておきたいよな。そうだ、アキバへでも行ってみようか。
アキバの改札を抜けると、よく馴染んだ感じの空気感に包まれた。さすがオレの心の故郷。
確か最後にアキバに来たのは任務としてクルーを探しに来た時で、ミズキに出会った時だったかな? いや、違うか。最後に来たのはミズキに会った後、武蔵出航の前日にも探しに来たんだった。でも、該当者が居なくて、どんよりしたまま地元の駅へ戻って、そこでシオリに会ったんだよな。
とにかく、最後に来たときには任務だったから全然アキバを楽しめてなかったんだよ。だから、今日はしっかりとアキバを満喫するんだ。
裏通りををぶらぶらと見て回る。路地裏にあるジャンクなガジェットを見て回るのも好きなんだよね。もちろん、客引きのメイドさん達を見るのも大好きだけど。
結局、日が暮れるまでアキバ中を歩き回って、戦利品として、薄い本が3冊、念の為補足しておくと18禁ではないからね、と、ジャンク屋にあったメカニカル式キーボード、たぶん飲み物こぼしちゃってベタついて動かない要メンテ品をゲットした。
オレはとにかくキーボードと言ったら、打ってますよって感じが指先から伝わる打鍵感と、リズミカルにタイプすることで曲を奏でるかのようなタイプ音になるメカニカルキーボード一択なんだよね。で、こいつは全部バラバラにしてしっかり洗って使えるんで、これも洗えばちゃんと使えるようになるはずってオレの第六感を信じて買っちゃった。まぁ、ダメでも500円だったんだから、ダメ元だしね。
アパートへ帰ろうと電車に乗ってる所で携帯にメッセージが来た。
あ、ジュンさんからだ。
『今、こちらに戻ってきました。ユーは今何処ですか?』
「家に帰る途中で、今電車の中です。」
『じゃ、駅前で会いましょうか?』
「はい、あと15分位です。」




