第103話 良い悪い
海自の制服からオレの制服、スウェットパンツにパーカーに着替えて、早速夜の街へ繰り出しましょうか。
『煮込み』と『もつ串』のかすれた文字が歴史を表しているような、カウンターだけのもつ焼きやに入った。
「生ビール、煮込み、串は、はらみ、はつ、しろ、タレでお願いします。あ、きゅうり一本漬けも!」
「ハイよっ」
うんうん、この喧騒、この匂い、このちょっと堅い丸椅子。これこそもつ焼き屋だよ。晩飯少なくして準備万端だから、バッチリ楽しむよ。
「ハイ、生ビールお待ち!」
来た来た、早速頂きましょうか。
ゴキュゴキュゴキュ・・。
ぷっはー。美味し!
「ハイ、煮込みときゅうり一本漬けね!」
ハイキター。これも流石に武蔵の中では食べられなかったもつ煮込み。
これは熱々で良いね。
一味唐辛子をパパっとかけて、もつを一欠片つまんで、フーフーフー。
パクっと。
濃厚なもつ煮込みのタレが口いっぱいに広がる。そしてビール。これ以上ないくらい幸せだよ。北海道で皆でたべた夕食も楽しかったけど、オレはこうして一人でゆっくり過ごすのも好きなんだよな。ってか、武蔵のクルー以外と一緒に食事に行ったことなんかなかったか・・武蔵に乗る前は存在感無さすぎてリストラされる程だったんだもんな。
「ハイよ、串、お待ち!」
おぉ、これも武蔵では食べられないであろう、もつ串が輝くタレを身に纏って出て来たぞ。これなら、ビールじゃなく、あいつの出番だな。
「ホッピー下さい。」
「ハイよ。」
ちょっと濃いめのホッピーがこの脂ギットギトのもつ焼きにはベストマッチなんだよね。追加でコブクロとレバ―串も頼んじゃおう。
一人もつ焼きを堪能した所で、もう一軒、と思っていたんだけど、なんだかんだ言って、やっぱり疲れてるみたいで、ちょっとオネムになってきちゃったのもあって、もう帰って寝ようか。
家に帰るには、この公園を通り抜けて行くのが近道・・だけど、止めよう。また変なことに遭遇すると、日本の人口を減らすことになっちゃうからね。
少し遠回りだけど大通りを歩いていると、ナンパなのかキャッチなのか茶髪のお兄さんが小柄な女性にウザ絡みしている。 どこにでもこういう面倒な人は居るんだよな、なんて思いながら、目を合わせないように通り過ぎようとしたその時。
「あの、助けて下さい。」
女性がなんと、オレの右腕にしがみついてきた。
すかさず茶髪のお兄さんがオレ達の前に立ちはだかった。
「ちょっとオッサンは邪魔だよ。どいてて。」
絡むつもりはなかったけど、オッサンってキーワードが引っかかったのと、上目遣いでオレの右手を握っている小柄な女性がメッチャタイプだったので、少しだけ協力することにした。
ここは『記憶リライト』の出番だな。設定をちょっと変えてみようかな。
オレ達に近づいてきた男に『オレは一般人を装ってるけど大きな組の幹部。』って念じる。
「おぉ、オレは今、オッサンって聞こえた気がしたけど、それは誰のことだオイ!」
茶髪のお兄さんは、あぁん?という表情でオレの顔を覗き込んだが、その瞬間、瞳孔がどんぐりのように真ん丸になって、一歩後ろに飛び下がった。
「な、何言ってるんっすか、オレ何も言ってないっすよ。失礼しますっ!」
それだけ言うと、見事な位のダッシュで駅の方に走り去っていった。
「ありがとうございますっ。」
女性が両手でオレの右手を握手してくる。
うわぁ、柔らかくて温かい手だ。思わずドキッとしてしまったよ。
「いやいや、オレ何もしてないし、変な人も多いから気をつけてね。バイバイ。」
軽く手を振って女性と別れた。
うん、良いことをしたら気分が良くなってきたな。いや、気分が良くなってるのはドキドキしたからか? まぁ、どっちでも良いや、とにかく、やっぱりもう一軒行くことにしようっと。よし、この前食べ損ねた繁華街を抜けた先の町中華で餃子を食べようかな、あそは深夜までやってるはずだし。チューハイで餃子、ザーサイ・メンマ盛合わせ、他にも何か食べちゃうかな?なんて考えながら、近道になる公園に入った。
するとすぐに暗がりからTシャツの袖からガッツリタトゥーが出てる2人組が出てきた。あ、この公園って、こういうのが多いから通るの止めようって思ってたのに、餃子の事考えてたら、すっかり忘れて入っちゃったよ・・。
「おい、お前今オレにガン飛ばしたろ。」
えぇぇぇぇ、教科書に載ってそうなくらい典型的なセリフを言ってきたよ。
オレに関わらないでくれよな・・ また『記憶リライト』で行くか。設定はさっきと同じだな。男達に『オレは一般人を装ってるけど大きな組の幹部。』って念じた。
途端に2人が1歩下がった。
「てめぇ、組のもんか! オレらは組の看板でデケー面してる奴らが一番むかつくんだよ。やってやんよ!」
あらら、はったり893が通用しないパターンがあるんだ。どうしよう。
2人は腰から何かを取り出した。ナイフか? それはダメだよ・・
その瞬間、オレの肩からビームが2発発射されて、2人の姿が消えて無くなった。
あぁぁ・・。ほら、こうなっちゃうから・・。




