魔法学園
ジルオラが見えた。100キロの道を2日で歩ききった。モレナから数えると、4日で200キロだ。皆良く歩いた。モレナからジルオラまでは街道が整備されており、実は馬車が通ることができる。しかし定期便はなく、チャーターすると1日銀貨5枚だったので早々に諦めた。しかし、すっかり寒くなった気がする。
道中ちらほらと魔獣を見かけた。赤いオオカミの姿の魔獣だ。カガミに聞くと、レッドウルフと言うらしい。そのままのネーミングだ。魔法に耐性を持っているらしい。モレナ周辺にはいないので、カガミも見るのははじめてだそうだ。
ジルオラの城門をくぐる。星形の城壁に囲まれた城郭都市だった。
「ここがあの伝説のジルオラ……!」
メルドーシュと同じく、皆がざわつき始める。このジルオラにも数々の伝説があるという。伝説の街と言う割には案外近所に普通にあるのが少し面白かった。
元は人間の魔法研究者が住む街であったが、魔人がやってきて以来、魔人の前線基地となっていた。星形の城壁は魔法を使う上で死角がなく、一度占拠された後の奪還は困難を極めた。
冒険者連合による攻勢にも10年耐えたと言われている。宿場で星形城壁の話を聞かされていたので、なんとなく星形のような気がするが、正面から見ても本当に星なのかどうかはよくわからなかった。
メルドーシュほどでないにしても、城壁は10メートルはあろうかというほど大きいものだった。正式サービス開始からそれなりの期間、ここが魔人の拠点だったのだ。ラストダンジョン的な扱いを受けていたと想像された。
メルドーシュのように街は一望できない。城門で学園の場所を聞くと街の中心の広場にある一番大きな建物だと教えてくれた。
街を歩く。この街はあまり人気がない。街の規模もモレナよりも小さかった。
中央広場につくと、いかにもな建物があった。街の広場というより、魔法学園の正面広場といったほうがいい。見た目はオックスフォード大学に似ていた。
中に入る。広くてどこが受付なのかよく分からなかったが、ウロウロしていると人がやってきた。
入学を希望する旨伝えると別室へ通された。
いろいろ説明を受けたが、やはり先ずは金がいるようだ。武術学園と同じく、習得したい魔法ごとに追加で金が必要ということだった。入学金はずばり銀貨30枚だった。
意気消沈していても仕方がない。俺たちは学園を出た足で冒険者協会ジルオラ支部へ向かう。ここに高報酬な依頼が山程あればすべて解決するのだ。
果たして、そのような依頼はあった。
銀貨50枚の依頼が5つも出ている。魔獣討伐依頼であり対象の魔獣も全て同じだ。ウォーウルフといわれる大型魔獣で積極的に人を襲う恐ろしい魔獣だった。
推奨ランクはC。魔獣討伐としては最高ランクだ。受付で話を聞く。
受付曰く、ウォーウルフはグレーウルフやレッドウルフの群れを放置していると発生する魔獣である。どのように発生するのかは、はっきりとは分かっていない。グレーウルフなどの群れが消え、ウォーウルフがその周辺に出現するらしい。グレーウルフに比べてはるかに巨大で、体長は6メートルほどある。魔法や毒に耐性がある。耐性を上回る強力な魔法を使うか、大人数の討伐隊を組織しなければ通常勝てない。ということだった。
依頼を受けたいというと、受付はとんでもない、という顔で言う。
「あなたがたEランクになって何日もたってないじゃないですか。しかも魔法はなし、スキルもなし。まず無理ですよ。ウォーウルフは恐ろしい魔獣です。サザンクロスの冒険者ですら手を焼く相手です」
そこをなんとか、とお願いしても態度は変わらない。
「そもそも自分のランク以上の依頼を受けるには高ランクの協会員か支部長の推薦がいるんです」
「じゃあ支部長を呼んできてくれ。俺は強化人間だ」
左手を天井へ向け、パルスキャノンに変形させた。
痺れるぜ、ハルト……。隣でアランが呟いた。
支部長はプレイヤーであり、アンジュからの連絡があったようで、俺たちのことは知っていた。あっさりと許可は出たが、武器を見せたのは結構怒られた。
「その武器があればウォーウルフくらい余裕だと思うよ。というか魔人だろうがなんだろうが楽勝だよ」
支部長は中年の男の姿をしていた。俺のセンサーで見ると、どう見ても全身サイボーグだが、基本的にサイボーグの見た目は若いのだ。アンジュもそうだが、こいつらはわざわざ顔を変えているのだろうか。
それはともかく、さっそくウォーウルフの依頼を受けた。目撃場所は少し離れた昔の集落跡であり、目撃情報は3日前だった。
見つかるか不安だったが、現場へ行くとサーモグラフィーを使うまでもなく、カガミがすぐに見つけた。
「ハルト、いたよ」
ほとんど声を出さずに俺に知らせる。アランとドロンも俺の 近くへ戻ってきた。
とてつもなく大きい。サイやゾウよりも大きなオオカミであった。それでいて俊敏さを感じられる細身で筋肉質な四肢だった。耳まで裂けた口からは鋭い牙が見え、長く赤い舌がだらんと垂れ下がっていた。
距離があって助かった。岩陰であの怪物と鉢合わせしていたらと思うと、ぞっとした。距離が詰まると一飲みにされる。
距離は7、80メートルほどか。
覚悟を決め、パルスキャノンを展開する。レーザーポインターを照射すると、ウォーウルフは一瞬ビクッと反応し、鋭い目をこちらに向けた。
その瞬間、パルスキャノンが光り、ウォーウルフの頭部は粉々に破壊された。
どうと音を立て巨体が倒れる。程なくして黒い霧となり霧散した。後には漆黒に光る魔石が残っていた。
大きく息を吐き出したカガミが、こちらを向いて親指を立てた。
「やはりハルトはすごいな。本当に一撃で倒してしまった」
魔石を回収してきたドロンが言う。
「案外、あのくらい大きいやつのほうが相性がいいかもしれないな。俺はグレーウルフくらいのやつがたくさんいるほうが怖いよ」
「確かに群れは怖いが、さっきのはそれ以上だ。およそ人間がどうこうできる存在に見えなかった。本当に強化人間は強いんだな」
ドロンの口調からは強化人間への称賛よりも、今回の敵への畏怖が強く感じられた。
半日もたたずに魔石を持ち帰った俺たちを見て、冒険者協会はざわついた。
残りのウォーウルフの依頼もすべて引き受けたいと伝えると、受付は半ば呆れていた。
「ランクアップのセレモニー、どうしますか。今回のでDランクなんですが、次も同じ依頼が成功するとCランクです」
じゃあまとめてでいいですというと、疲れた声でそうですかといわれた。
とはいいつつも、流石に1日に何度も戦えない。パルスキャノンに再装填されるのを待つためにも、1日に依頼1つとした。
しばらくはジルオラの宿を拠点に依頼をこなすことにして、皆早めに休むことにした。
宿での夕食時、ドロンの様子が少しいつもと違った。今日のウォーウルフについて、何かあったのだろうか。もしや、狩人の間では、ウォーウルフは山の神と畏れられている、とか。
それとはなしに聞いてみる。
「いや、ウォーウルフかどうとかではない。少し自分に自信がなくなってきたんだ」
少し逡巡した素振りを見せたあと、ドロンが言った。
「まあ、正直オレもそういうのはあるよ。スキルと魔法を身につけて、それでもやっていけそうにないなら、またみんなで話そうぜ」
アランが答える。
ドロンもそうだな、といった。
アランの言う通り、そのうち皆でどこまで冒険者をやるのかといったことは話し合う必要があるだろう。しかし、いまのところ、スキルと魔法の会得は共通の目的であるので、そこまでは一緒に進んでいきたい、とハルトは思った。




