魔獣討伐
翌日は朝から冒険者協会へ向かう。街の中心の広場では朝市が開かれていた。
日中人通りが少ないと思っていたが、朝市は賑わっていた。宿の朝飯がなかったので、リンゴのような果物を買った。2つで銅貨1枚だった。食べてみるとイチジクのような果物だった。予想と違ったがかなりうまい。
冒険者協会は打って変わって静まり返っている。暇になった兼業冒険者が日雇いバイトを探しているか、依頼を出しに来る人が一人二人いる程度だ。
まずは昨日の依頼の報酬をもらう。銅貨15枚を受け取ったあと、パーティー募集の掲示板をみる。やはり俺の募集への返信は今日もない。受付に、どの程度パーティーを希望の冒険者がやってくるのか聞いた。
「えっと、年にひとりかふたりですね。最近では1ヶ月前におひとりいらっしゃいましたよ」
1ヶ月前は女性の冒険者が希望を出し、1週間程度で男の2人組とパーティーを組んだとのことだった。
おそらく集落の宿で会ったあのパーティーだ。
それでは強化人間の冒険者はどのくらい来るのかと聞くと、自身が受付を始めた5年前からひとりも来たことがないとのことだった。
なんと考えが甘かったのか。これではプレイヤー同士のパーティーなど不可能だ。
受付に今日出ている仕事を聞いてみる。すぐできそうな仕事はない。俺はあきらめて、しばらく協会で張り込むことにした。
彼らはまだ冒険者になってすぐのようだったので、この街を拠点にしていると思われる。そうであるならば、この場所に1〜2日いれば高い確率で再会できるだろう。
ちょうどお昼を過ぎた頃、退屈のあまり協会の外の広場を散歩していた時だった。見覚えのあるパーティーが冒険者協会へ入っていくのが見えた。急いで後を追う。
協会に入るとパーティーも俺のことを見つけたようだった。
「ハルトさんまた会いましたね。冒険者は順調ですか?」
女性冒険者(確かカガミと名乗っていたはずだ)が声をかけてきた。
「順調だよ。まあ1人だからランクアップまでまだまだたけどね」
「そうですか。私たちもまだ全員Fランクなんですが、そろそろEランクに上がれそうなんです」
意外だった。パーティー向けの仕事の報酬は少なくとも銅貨50枚程度あり、銀貨のものもあった。3等分しても1ヶ月もあればランクアップしそうなものだが。
「達成できれば割はいいんですけどね……」
聞けば、パーティー向けの依頼は難しく、達成が困難なものが多いらしい。今回も魔獣討伐を引き受けたはいいものの、現地へ行くと思ったよりも群れの規模が大きく、戦わずに引き返してきたらしい。
「俺たちが相手にできるのはせいぜい2〜3匹がいいところさ」
後ろの男冒険者もつぶやく。なるほど、報酬が高いのはそれなりにリスクかあるということか。
それから俺は恥を忍んでパーティーに加えてもらいたいと伝えた。パーティーの3人は顔を見合わせてニヤリと笑った。
「やっぱり、そうでしょう!一人旅はなかなか大変ですもんね!」
カガミがにっこり笑って答えた。
「改めましてカガミです!よろしくお願いしますね!」
「アランです」「ドロンです」後ろの2人も続く。
「ハルトです。どうぞよろしく」
こうしてようやくパーティー結成に至った。そのまま受付でパーティー申請をした。
その後、魔獣の討伐依頼を受けた。銅貨50枚だった。4等分すると大した金額にならないが、新生パーティなので、手始めにはちょうどいいかもしれない。例の集落への道の途中で見つかった魔獣の駆除依頼だった。対象は1匹のみとのことだったが、アランによると実は群れということもあるらしい。
モレナの街を出て4人で歩く。俺の武器の話になったが、所持しているのは短剣のみで、魔獣と戦ったことは実はないことを正直に言った。
3人とも驚いていた。それはそうだろう。俺は信頼を失わないために、武装について正直に話した。
「詳しい事は言えないが、俺には強化人間の専用武器がある。今日はまず俺が仕掛けるので、3人は見ておいてくれ」
分かりましたと3人が了解する。
さて、5キロほど歩いたとこで、目標を見つけた。グレーウルフだ。見つからないのではと思っていたが杞憂であった。なんと普通に2匹の群れだった。
3人が何やら話し始めた。やめるべきかどうするべきか相談しているらしい。
「ハルトさん、2匹ですが大丈夫ですか」
俺は頷く。
「ダメそうだったらこちらへ走ってきてください。私たちで迎え撃ちます」
「よろしく頼む」
俺はグレーウルフに向かって歩く。向こうも気づいているようで、様子をうかがっている。
大きい。体長2メートルほどか。生身の人間だと噛みつかれてはひとたまりもない。俺のチタン合金の骨格も、規格外に硬い訳では無い。食いつかれたら普通に破壊される未来しか見えない。
しかし、パルス銃の威力はかなりの信頼を置いている。18発フル装填されている。問題ない。唯一気がかりなのは彼らに見られても良いのだろうかということだ。気がかりではあるが、試してみるのは早いほうが良いのだ。
グレーウルフとはすでに50メートルの距離だ。十分だ。俺の目は視力5.0、その気になれば最大24倍の光学ズームと赤外線によるサーモグラフィーやナイトビジョンも搭載している。グレーウルフの毛並みまでよく見える。パルス銃の射程は100メートル。
右手をグレーウルフに向ける。俺の意思を読み取りパルス銃に変形する。後付けであるので、視界と照準は連動していない。レーザーポインターを照射する。
その瞬間弾かれるように2頭のグレーウフルが突進してきた。左右に別れる。挟み撃ちにするつもりだろうか。
向かって左の1体に向け1発。パルス銃が光る。グレーウルフの顔が弾ける。一拍置いて右の1体に1発。胴体部分に命中。グレーウルフがバラバラになった。
一息つく。やれた。
グレーウルフの亡骸は黒い霧になり消滅した。20メートル程度まで近寄られていた。
後ろから歓声が上がった。3人が駆け寄ってくる。
「すごい!」
称賛の言葉を受けながら、自身に何も異常がないことを確認する。どうやらパルス兵器の使用はゲーム的には問題ないようだ。
アランがグレーウルフの消滅したあたりから、魔石を拾ってきた。
「簡単に任務達成できましたね。この魔石持っていけば終わりですよ。しかも2つある」
魔獣は死骸が残らない。代わりに魔石が残る。魔石も3日ほどで消滅するのだが、協会で報酬と交換してもらえる。依頼よりも多い場合はその分報酬は増える。
帰り道、全員俺の武装について興味津々といった感じだったので、左右の腕にそれぞれ先ほどのような武器が仕込んであることを教える。右手が18発、左手が5発まで装填できる。先日確認したところでは、バイオ燃料炉では装填時間は右手で1発あたり30分ほど。左腕は3時間ほどかかる。
「へえー、じゃあまだ今日似たような依頼があれば全然できるじゃないか」
アランがいう。
3人ともこの得体のしれない兵器に対して、ほとんど警戒感を持っていなかった。AIは人間に危害を加えることはできない。このゲームのなかで、生身の肉体を持つ彼らは完全に人間だ。人間同士が争うという考えは彼らにはないのだろう。
サイボーグも同じだ。生身の人間であると認識した場合は絶対に危害を加えることはできない。しかし全身サイボーグであれば攻撃できる。現実世界の戦場でも、人間の代わりにサイボーグ兵士たちが延々殺し合いをしているのだ。対サイボーグであれば攻撃可能というのは社会の都合で制約が歪められている。サイボーグの視覚機能のみがとりわけ強化されているのは、相手が人間であるか、サイボーグであるかを瞬時に判断するためのものだ。
「そうだな。グレーウルフを撃ったのは初めてだが、あの感じなら5匹くらいはいけるかもな」
協会に戻って、報告する。今回は銅貨50枚に加え、追加報酬銅貨20枚が出た。報酬は一人総取りで構わないとみんな言ってくれたので、ありがたく頂戴した。
これで皆受け取り報酬は90枚程度になった。次の依頼で揃ってランクアップできるだろう。




