城郭都市
街道を歩く。魔獣が出るという話を聞いていたが、穏やかなものだ。石畳がひかれており、よく整備されている道だった。
ひたすらに何も無い道が続き、本当に街があるのかと不安になる。初めて会った通行人に道を聞くと、もうすぐ街につくとのことだった。すぐがどのくらいか不明だが、道は間違えていなかったようだ。
日は高く昇り、良い天気だった。肌寒いような、そうでもないような気候だ。歩くにはちょうどいい。道端の岩に腰掛け、リュックに入っていたパンをかじる。パサパサで固く、あまり美味しくない。昨日の宿の飯は美味かったな。
街が近づくにつれ人をちらほら見かけるようになった。多くのものが主に弓で武装しており、それなりに危険であることが伺えた。やがて前方に城壁が見えてきた。
街に入る。城門で簡単に持ち物を確認されたが、それ以外は何もなかった。冒険者になるために来たと言うと、協会の場所を教えてくれた。
街はかなり大きい。円形の城壁を持つ城郭都市だ。直径1キロはあるだろうか。城壁は高さも厚みも5メートルくらいだろうか。立派なものだった。
教えてもらった通りを歩き、街の中心部まで来た。広い公園になっており、教会と、役所的な建物と、冒険者協会と思わしき建物があった。
冒険者協会的な建物はずばり冒険者協会であり、中の受付で冒険者登録をしたい旨を伝えた。
しばらく待つと奥の部屋へ案内された。
部屋には中年の女性が座っていた。俺は促され向かいのソファーに座った。
「ようこそノスタルジアへ。私は会長のアンジュだ。なんとお呼びすればよろしいかな」
やや低めの声でアンジュは言った。
「ハルトでお願いします」
特に決めておらず、本名を名乗った。
「ではハルト、早速だが、この世界に来た理由を教えてほしい。私はこのゲームのプレイヤーであり、管理者の一人でもある。私には現実の情報を話してもアカウント停止にはならないので安心してくれ」
思ってもみなかった質問だった。どうすべきかと一瞬思ったが、正直に話すことにした。たかだか違法ゲームの管理者だ。通報されることもないだろう。
「人を探しに来た。ジョウ・コバヤシという人物だ。訳あって俺の寿命回路が彼の手に渡っている。交渉して取り戻したいのだ」
「それが軍用兵器を持ち込んだのと関係があるのかな」
アンジュは俺の目をみて聞いた。これが聞きたかったことなのだろう。軍用兵器とは恐らく左腕のパルスキャノンのことか。管理者には登録者の情報は筒抜けのようだ。
「左腕のことなら意図せず移植されたものだ。これでこのゲームをどうこうするつもりはない」
アンジュはしばらく俺を見たあと、そうか、とつぶやいた。
「いきなり不躾な質問をして悪かった。それではこれからは会長として通常のプレイヤーにする説明をしよう。ハルトにとってはあまり興味ないかもしれないがね」
アンジュの説明は30分ほどで終わった。
俺の冒険者登録を受け付けたこと。まだ仮認定のため、ランクはFランクであり、この街以外では仕事を受注できないこと。Eランクに上がると正式に認定され、他の街でも仕事が受注可能であること。この世界ではサイボーグも強化人間という種で認識されており、体の頑丈さから冒険者パーティーでは重宝されること、等々を教えてもらった。結局ジョウの情報は教えてもらえなかったが、なんとなく彼女はジョウを知っている気がする。また機会があれば話をしたかった。
持ち金があと銅貨20枚ということもあり、急いで仕事を探す。街の宿屋を聞くと、朝夕の飯代込みで銅貨20枚だった。もう食うものもないので仕事をしなければ。
現実の体はゲーム中はスリープモードなので充電していれば問題ないが、こちらでは電力がないので飯が食えなければエネルギー切れでゲームオーバーだ。ゲームオーバー、つまり死ぬと、1ヶ月再登録できない。しかも同じ顔(同じ人物として)登録ができない。多額の費用をかけて顔を変える必要がある。
協会の受付で仕事の募集がないか聞いてみる。あるにはあるが、他の街への物品の納品や、商品の買い付けなどが主な仕事だ。報酬はどれも銅貨5枚〜10枚程度。疲れそうな割に報酬が少ない。 高額な報酬の依頼は3人以上のパーティーを対象としたものばかりであった。
銅貨10枚で、昨日泊まった集落の宿へ食料雑貨の納品の依頼かあったので受注した。Eランクへのランクアップ条件は報酬受取総額が銀貨1枚(銅貨100枚)なので、こういう依頼ばかり受けるとかなり時間がかかりそうだ。
パーティー募集の掲示板にも名前を出しておいてもらった。特技などを聞かれたが、パルス銃保持などと言えないので、強化人間ですと言った。言ってて妙に恥ずかしい感じがしたが、受付の人は強化人間でしたら特技なしでもすぐにパーティーに入れますよと笑顔で返答された。
教会から案内された依頼主のところへ受注表を持って訪ねた。荷物を受け取ったがかなり重い。20キロはあるだろうか。
受け取った荷物を背負い今日来た道を引き返す。荷物は重いが、サイボーグは頑丈なので歩くペースが落ちるほどではない。日が暮れるまでには集落へ着くだろう。またあの宿に泊めてもらおう。
宿屋に着くと、やあまた来たのかと主人に迎えられた。
荷物を渡し、無事冒険者になれたと礼を言った。
その晩、宿で夕食を取っていると、冒険者パーティーが入ってきた。見た目は普通の若者3人組だが、宿の主人があれが冒険者だと教えてくれた。男2人に女1人だ。20そこそこに見えた。俺も年は40だが、見た目は20そこそこだ。
せっかくなので話を聞いてみる。自分の夕食を食べ終えたあと、彼らの座るテーブルの端に腰掛ける。
「食事中すまない、俺はハルトという。今日モレナの街で冒険者登録をした。冒険者がどんなことをしているのか聞きたいのだが」
俺の言葉に反応したのは女の冒険者だった。連れの男2人を少し見てから返答してくれた。
「私達もついこの間登録したばかりなんです。ここよりもっと東の村出身で、モレナの協会の掲示板を介して知り合ったんです」
それから男二人もハルトに向かって言った。
「俺達も彼女の近所の村出身だよ。二人でモレナまで行ったが、低ランク向けのパーティーの仕事は3人以上しか斡旋してもらえないからね。1人で募集を出してた彼女に声をかけたんだ」
なかなか素直そうで良い青年たちのようだ。どうやら冒険者は最近数が少なく、パーティを組むのが難しいということだった。3人とも村では狩人の見習いであるということだった。なかでも女性が1番長く、7年ほど見習いをやっていて、犬を与えられ独り立ち間近だったという。
「でも嬉しいです。私たちのほかにも冒険者になりたての人がいるってわかって、なんだか心強いです」
「そうだよな。最近冒険者なんてここらへんじゃ全く聞かないもんな」
そんなに少ないのかと聞くと、専業でやっている人はこの周辺の村では見たことがないという。何十年も前には大勢の冒険者志望者がモレナの街へ毎日のようにやってきて大変盛況だったという。いろいろな冒険者の伝説が生まれて、今も語り継がれている。
当時の冒険者の多くは、鉄の体を持つ強化人間だったようだ。冒険者たちは結束し、当時大陸を支配していた魔人を駆逐した。
そこまで聞いて、俺は質問する。
「3人とも強化人間ではないのか?」
3人が顔を見合わせる。女性が口を開く。
「もしかしてあなたは強化人間なんですか?」
どう言うべきか迷ったが、掲示板で名前と強化人間であると公表しているので隠しても意味はないと気付いた。
「そうだ」
やや、間があった。
それからは質問攻めにあった。出自については訳あって話せないというと、聞いていた通りだ、と謎の納得を示した。強化人間であること以外はほとんど知識もないことがバレると、質問もなくなった。最後に女性が言った。
「もし、迷惑でないのなら、私たちのパーティーに入りませんか?2人とも入ってほしいでしょ?」
男二人も頷く。
得難い誘いかもしれなかったが、丁重に断った。おそらくこの3人はプレイヤーではない。できればプレイヤー同士でパーティーを組みたい。そのほうが話が早い。
礼を言って席を離れる。協会が閑散としており、あまり情報収集できなかったので、実際の冒険者と話せてありがたかった。
聞いて感じたのは、やはりプレイヤーは極端に少ないらしいということだった。須藤から話を聞いたあと調べたが、ノスタルジアというゲームは一時は隆盛を極めたが、最近では覚えている人もほとんどいないほど廃れたゲームであり、正式サービスは50年も昔に終わっていて、データがどこかのサーバーに引き継がれて違法サービスとして存在しているとのことだった。
また、先ほどの3人や宿の主人をみると、フルスペックのAIが使われているということだ。おそらく彼らには感情があり、自分のことをAIと認識していない。実は制限がかかっているのかもしれないが、本当にフルスペックのAIであれば完全に違法だ。俺の知る中でも最高レベルの重要禁止事項だ。
しかしそんなことを考えても仕方がない。明日もまたモレナまで歩かなければならない。今日も早めに眠りにつくこととした。




