表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/20

麦畑の村

 ノスタルジアのチュートリアルがはじまった。


 まずはキャラクターメイキングだが、サイボーグの場合は現在の部品構成が読み取られ、現実の身体がそのままゲームの身体となる。それ以外の方法もあることはあるが、費用が高額だったり、記憶を失うなどの苛烈な条件があったりで使う気にならなかった。

 VRの共通フォーマットは様々な企業が協賛している。日用品から軍用品に至るまで様々な商品が試作段階からVRデータを作成し、仮想空間での利用テストを行っている。

 フルダイブゲームはほぼ全てがこのVR共通フォーマットをベースに作成されているため、サイボーグのパーツは現実のものがそのままの性能でゲームで使えるのだそうだ。

 パルス銃が規制されていると思いきや、さすがは違法ゲームなだけあり、問題なく持ち込みできた。

 重要事項として、プレイヤーを含むゲーム内の人物に、ゲーム内で知り得ない情報(現実世界の情報)を知らせてしまうとアカウント強制停止となるとのことだった。プレイヤーには現実の記憶を一時的に失っているものや、記憶を書き換えられてプレイしているものがいる。それらに対する配慮だろう。

 ゲームの明確な目的はチュートリアルでは説明されなかった。地方の村から出世を夢見て年にやってきた駆け出し冒険者という設定でストーリーが始まるようだ。



 ふと気づくと、馬車に揺られていた。お客さん、もうすぐ着きますよ、と御者が声をかけてきた。

 前方に集落が見える。小さな村だった。

 馬車を降りて、何となく見送った。馬車は来た道を引き返してゆく。

 革のリュックサックのような荷物入れを持っており、中には小銭の入った袋と、鞘に入った短剣、瓶に入った水、固そうなパン、それだけだった。小銭は銅色で数字等は書かれていないものが30枚入っていた。

 周りの家は石造りで西洋風だ。7軒ほどの家がある。詳しくないが、中世ヨーロッパの田舎町といったところか。太陽の傾き具合から、午後の3時くらいだろう。


 家の向こう側には広い麦畑が広がっていた。

 ノスタルジアは中世ヨーロッパ風の世界が舞台となっており、「誰もが懐かしい世界」をキャッチフレーズとしている。海外旅行などいったこともないが、確かになぜか懐かしい感じがする。

 麦畑に人影がちらほら見える。集落の住人だろうか。


 話しかけるとやはり住人であった。集落のことを聞くと、民宿兼酒場の小さな店が一軒あるのみで、他は全て民家だということだった。共通語がしっかり通じたので一安心した。

 話に聞いた民宿兼酒場に行くと、おそらく宿の奥さんと思われる人がいて、掃除中だった。宿泊費を聞くと、朝晩の飯がついて銅貨10枚らしい。小銭袋の銅貨を見せるとそれで良いとのことだった。

 そろそろ日も傾いてきたので、まずはここで一泊しよう。飯の時間まで外をぶらつく。サイボーグも飯を食うのかと言われると、その通りだ。


 サイボーグは飯を食うし、立ち仕事をすると疲れるし、夜も眠る。本来電力があればすべて不要なのだが、さまざまな業界からの圧力でサイボーグは人間のような暮らしをするように設計されている。

 まったく無駄だというやつもいるが、俺は悪くないと思う。眠りにつかなければ1日は終わらないし、疲れない体で働き続ければ心が病んでしまう。中身は人間なのだから、

人間のリズムで生活するのが一番良いのだ。

 また、パルス銃についても、飯を食ってバイオ燃料炉で発電しなければおそらくこの世界でもチャージされない。飯はたくさん食う必要がある。

 街道を歩き、人の気配がなくなったのを確認し、パルス銃の動作を確認する。射撃姿勢をとると右指がパルス銃に変形した。問題なく使えそうだ。

 身近な岩めがけて連射する。合計9発。最大装填数の半分だ。バイオ燃料炉のみでどのくらいチャージに時間がかかるのかはかっておこう。

 そして、左腕も岩に向けて突き出してみる。パルス銃の時と同じく、射撃の意図を読み取り、パルスキャノンに変形する。移植して初めて使うが、特に問題はなさそうだ。

 岩に向かって放つと、粉々に砕け散った。予想通りの威力に満足し、俺は宿に戻った。


 宿で飯を食う。客は俺だけのようだった。宿の酒場はこぢんまりしており、テーブルが2つあるだけだった。1つに俺が座り、もう1つに店の主人と奥さんが座って飯を食っていた。

 もう少し人がいればいろいろ聞けるのだろうが、この集落の規模を考えると仕方がないのかもしれない。

 たどり着くわけはないと思いつつ、俺は探している人物の名前を聞いてみた。キャラクター名はジョウ・コバヤシだ。

 案の定知らない名前だといわれた。しかし、とても珍しい名なので、聞いたら忘れないとも言われた。姓も名乗っているのであれば、それなりの地位があるかもしれないということだった。

 まあ、普通は姓を持っているのだと言いかけて、言葉を飲み込む。


 飯を食い終わって、部屋に案内してもらった。宿は静まり返っていた。

 これから長くなりそうだ。1日終わったが、何も進んでいない。

 てっきり名前検索などで簡単に居場所がわかるのかと思っていたが、このゲームはそういったコンソール類がない。しかも名前に至っては、決まったキャラクター名がないのだ。チュートリアルで名前をつけないのが不思議だったが、好きに名乗って良いらしい。宿帳に名前を書く時に、名前を決めていないことに気がついた。ジョウ・コバヤシもこいつの本名なんじゃないかという気がする。

 地道に聞き込みで探していこう。


 北へ20キロ行くと大きな街があるようなので、明日の目的地はその街にした。宿の主人も、冒険者をやるならまずその街に行くべきと言っていた。冒険者に拘りはないのたが、このゲームのプレイヤーの共通の目的が冒険者としての出世であるなら、ジョウへの手掛かりもそこにあるような気がする。

 馬車の定期便などはないので、行きたければ歩いていく他ない。しっかり疲労するので気は進まないが、たまにはのんびり散歩もいいだろう。明日に備えて今日は寝ることにしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ