逃走
一番近い車両スロープを下り、第4階層に着く。
遠く、パトロールカーのサイレンが聞こえるような気がした。
第3棟へも連絡橋があり、平時は誰でも通行可能だ。
連絡橋に差し掛かった。ほとんど車のいない6車線の道路を快調に飛ばす。幸いまだ規制は掛かっていない。と、思っていると、橋の中間基地で装甲車が数台で道路を封鎖し始めた。検問を始める気だ。
「ハルト!あれ、どけてくれ!」
ジョウ助手席から叫ぶ。装甲車をパルスキャノンでどけろということだろうが、そんな便利道具ではない。
「端っこを撃って斜めにずらすんだ!」
「簡単に言うな!走ってるトラックから狙えない!」
俺はトラックの荷台のドアから身を乗り出して装甲車を狙う。しかし、揺れるトラックの上であり、利き手ではない左腕だ。
「コンセントレイト!コンセントレイト!」
ジョウが叫ぶ。何かと思えばスキルの集中 だ。ゲーム脳とは恐ろしい。
しかし、ふとその気になると、使えるではないか、集中が。凄いぞ。どうなってるんだ。
研ぎ澄まされた意識の中で、俺はパルスキャノンで1台の装甲車の端に照準を定める。
光るパルスキャノンの光射を浴びて、装甲車が弾かれた。
車線を封鎖していた1台が45度ほど斜めに向きを変える。そのすき間に減速せずトラックが突っ込んだ。
バリバリと大きな衝突音を鳴らしながら、トラックはそのまま装甲車の間を通りすぎた。さらにアンジュが加速させる。
連絡橋の中間基地から小型のパトロールカーが出てきた。サイレンを鳴らし猛スピードで追走してくる。
そこでふとひらめいた。集中が使えるのなら、あれはどうだ。
「氷壁!!!」
しかし、何も起こらなかった。なぜだ……。
「何やってんのおまえ。もう一発頼む!」
ジョウが再び叫ぶ。
しかし、その時だった。先ほど突破した装甲車が、ギラッと輝き、その瞬間、ハルトたちのトラックの横を何かが駆け抜けた。
その何かは第3棟の構造物にあたり爆音を上げる。
装甲車の上にはいつの間にかパラボラアンテナのようなものが生えていた。パルス砲だ。
「うっ……」
目眩がしてよろめく。とっさにトラックのアシストグリップを掴む。バイタルチェックをかける。いくつかの神経回路に異常あり。復旧中……、復旧完了。
おそらくあのパルス砲は直撃せずとも電磁波でサイボーグの回路を焼くのだ。
グラッと再び視界が揺れる。いや、今度はトラックが揺れている。トラックのモーターがやられたのかと思ったが、運転席を見るとアンジュがハンドルに突っ伏していた。パルス砲は運転席側を走った。運転席のアンジュはより強い影響を受けたのだ。
ジョウがハンドルに飛びつき、再びトラックを加速させる。
「ハルト!頼む!」
俺はもう発射体制に入っていた。
集中、装甲車のパルス砲へパルスキャノンを発射。装甲車のパルス砲は跡形もなく四散する。そして間近に迫るパトロールカーのタイヤ目掛けて発射。狙ったタイヤは爆散し、パトロールカーは派手に横転した。
連絡橋を越え、第3棟に入る。ここは4階層までしかない。屋上公園となっており、3階層以下は封鎖されている。第4棟は廃棄されており、連絡橋はない。一見袋小路だが、物資搬入用の海底トンネルは第4棟、第5棟を経由し大阪側までつながっている。今も海底トンネルは現役だ。第3棟の車両スロープも封鎖こそされているがまだ通っている。
トラックは第3棟の屋上公園を端まで移動したあと、封鎖バーを突き破り3階層への下りスロープへ侵入した。
今のところ、まだ追手はない。
「ジョウ、アンジュは大丈夫か!」
「わからん!だが意識はあるから、きっと大丈夫だ」
そうか、と頷き進行方向を見る。このまま海底トンネルで大阪側へ抜けるのか。果たしてそううまくいくだろうか。
「海底トンネルはダミーだよ。本命は別に手配してある」
ジョウは1階層まで降りたあと、スロープを抜けて船舶用の埠頭へトラックを向けた。
「このあたりだ。おっと、あそこだな」
埠頭の中ほどでトラックを停める。そこには小型の潜水艇が浮上していた。
潜水艇の接岸機能でぴったり埠頭へ横付けすると、中から男が埠頭へ降りた。ジョウと短く挨拶を交わす。
「さあ、サーバーをこいつに移そう」
トラックの荷台に固定されたラックから、ジョウが指定する1つのブレードサーバーを2人がかりで取り出した。これがノスタルジアのサーバーか。
そして慎重に潜水艇に積み込んだ。
「ひとまずこれでよし」
ジョウは運転席に戻り、アンジュを抱えて出てきた。
「よし、みんな潜水艇に乗り込め」
俺とジョウでアンジュを乗せる。
「すまんな。本当は私が車を走らせて、追手の目をごまかすはずだったんだが」
がっくりとうなだれたままアンジュが言った。まだ身体は動かないようだ。
確かに言われればその通りだ。トラックが埠頭にあれば、追手は海を探すだろう。トラックはここにあってはいけない。
俺は埠頭に戻った。ジョウにはこの後もサーバーを守ってもらわなければならない。
「ジョウ、行ってくれ。俺はトンネルまでトラックを持っていく」
「危ないぜ。ハルト」
合理的な性格なのか、止めてこない。
「ふっ、止めないんだな」
「ああ、そうしてくれると大変助かる」
このポイントに明日の午前8時に迎えに行く、と端末に表示された地図を端末ごと渡された。GPS付いてるからだいたいその辺にいればわかるとのことだ。
俺とジョウはニヤッと笑ってそれぞれ潜水艇とトラックに乗り込んだ。
さて、追手に捕まらないように、ぶっ飛ばしてトンネルまで行くか。トラック運転するの初めてだな。第4棟まで向かえば十分か。何とかして海に逃れて泳いで大阪へわたろうか。
色々考えながら、トラックのアクセルを踏み込む。
「よし、やってやるぜ!!」
俺は自分を鼓舞するように叫んだ。




